第四幕 第十一節:守るための戦いと、殺すための戦い
空中に引き伸ばされる空間は次の瞬間には潰される。
空中からかかる圧力に慣れない足は動くことが出来ない。
「くっ・・・」
危惧していたこと以上のことが起こった。
「まさかあ奴・・・っ!」
今まさに、眼前では虐殺が行われようとしていた。
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バシン!と地面を蹴る音が地面を削る音ではなく、既に風を打つ音と変わった。
二人目のチェイサーズに擦り寄ると、人差し指を突き立てた右拳を腹部にめりこませる。
「血管に空気をいれて逆流させるとどーなるか・・・知ってるか・・・?」
詩架はチェイサーズの耳元でそう囁くと、ふっと優しく血管に風を送り込む。
するとチェイサーズの表情は目に見えて苦悶の色に染まり、そして次いで心臓部分がパン!と腫れる。
心臓が空気に耐えられなくなって破裂したのだ。
ガクガクと足を震わせながら崩れ落ちていくチェイサーズの意識は未だ保っている。
「あと30秒。最悪な気分を愉しむんだなぁ」
ゴッと地面に崩れ落ちたチェイサーズを蹴り飛ばして進行方向からどかすと、先ほど奪われた剣を手に持って見覚えのある体格の男へと歩み寄る。
その男が動くことが出来ないのは果たして圧力からか、それとも恐怖からか。
「久しぶりだなぁ・・・」
ゆら・・・と詩架から漂う風がギムニのほうへ向かったことが、ターゲットがギムニに移ったことを確実に認識させる。
「ひっ・・・」
かろうじてひねり出したのは短い叫び声だけだった。
「つけてる装飾品からして、お前が隊長か・・・?」
ゆら、とゆっくりと歩み寄るのが更に圧迫感を煽る。
「お前にはいっちばん苦しい方法がいいと思うだけどなぁ・・・何が良い・・・?」
詩架がそういうと、ふっと頭上から来る圧力が消える。
が。
動けない原因は恐怖だったのだ。
足が全く動かない。
ス・・・と詩架が横に剣を引いたときに、ギムニは命の終わりを覚悟した。
しかしその剣が薙ぐことは無かった。
「そこらへんに・・・しておくんじゃの・・・」
ハァ、ハァ、と肩で息をするハイナがダイヤモンドで剣ごと固める。
気休め程度だがこれで動きを止めることは出来るはず。
「お主は人を殺したいのか・・・?何がしたいんじゃ・・・?」
息が苦しいのをそのままに、詩架の発する気に当てられないように必死に気を保ちながら問う。
「何でもいいだろ・・・?」
詩架はそういうとハイナの腹部を蹴り上げ吹き飛ばす。
パリン、という音を立ててあっけなく砕け散ったダイヤモンドは詩架の力がいかに強いかを改めて思い知らされる。
ドッと木にぶつかって勢いが殺されて地面に崩れ落ちると傍にはフレイルアが完成した宝玉を持って立っていた。
「本当にやるのか・・・?」
フレイルアのその言葉に、ハイナは頷く。
「今の旅すがらの装備じゃあわしは奴には勝てん。あいつを止めるにはこれしか無かろうよ」
ハイナはそういうとフレイルアから宝玉を奪い取るようにして手に取る。
「お主は門の維持・・・わしは奴の仲間が居るところへ座標をさだめるでの・・・頼んだぞ・・・」
ギムニがある程度おとりになってくれることを願っての頼んだぞと言う言葉だったのだが、詩架は何を思ったのか詠唱を始めたハイナ達へ襲い掛かった。
「・・・っ!?」
今襲い掛かれてはまずい・・・っ!
異世界間をつなぐほどの詠唱となれば失敗したときの代償はでかい。
今ここで止められるわけには行かない・・・っ!
必死に打開策を模索するが何も思い至らない。
そこで。
ボッと詩架の目の前に炎が立ち上る。
「間に合った・・・ようだね」
そこにいつものように軽薄そうな調子で立つのはフィルンだった。
「全く気が狂った子供の相手をするのが大人の役目とはいえ・・・疲れるねぇ」
ふぅ、とため息を吐くと詩架へと命を奪うことをいとわないレベルの火球が襲い掛かる。
ドドドドドドドと絶え間なく聞こえる火球の着弾音はそれ相応のダメージを詩架に負わせているものと思わせるが。
フィルンには分かる。火の向こうで風を盾にして平然と立つ詩架の姿が。
ツ・・・と一筋の冷や汗がこめかみを流れる。
(全くこれほどとはね・・・僕の全力が全く歯が立たないとは嫌になる。だけどね)
ここで諦めるわけには行かないんだ。
君のためにじゃあない。
シャノア、そして由佳のために
気が狂った君のままじゃいけない。
「目を覚ませ・・・っ!」
圧縮された空気の盾を突き破れるかどうかは分からないが、しかし渾身の炎が詩架へ襲い掛かる。
ゴッという鈍い音と共に吹き飛ぶ詩架を追撃する。
「僕の十八番を思い知れ・・・っ!」
詩架の上で拳を引くフィルンのひじからブーストのように炎がほとばしる。
「落ちろッッッ」
凄まじい勢いで振り下ろされた拳。
しかしその拳は詩架に届く直前で詩架の風の壁に邪魔をされる。
(まずい・・・っ)
あまりのスピードに自身の体が追いつけないと言うのがこの技の欠点。
防御されないことが前提なのだがこの常識外の生き物相手にそれは通じるはずも無かった。
攻撃の後の硬直が走る体に、一筋の風の刃が突き刺さる。
「く・・・・ふっ・・・・」
肺から溢れ出る血を吐き出して崩れ落ちる直前、グッとひざに力を込めて立ち止まる。
「僕は思うんだ。君は恐らく霊光の地の伝説の人間だとね」
何故かって?
それはだって――――――
「君は、人を殺すのが嫌で嫌で仕方ない顔をしている。全く僕のやる気を削ぐ嫌な涙だよ。それは」
フィルンががくつく足を必死に動かして詩架の頬を伝う涙を拭う。
「これは迷信だけれどね、霊光の地は天国と地獄が入り混じった世界だと、僕は信じているよ。だって天国。幸せなことだけでは幸せは噛み締められないからね。それに。」
あんなきれいな顔をして眠る女性が天国だけの幸せな世界で育つはずがないだろう?
そう言ってフィルンは由佳を指差す。
ゲホッとあふれる血を吐き出して、更に続ける。
後もう少し・・・確証はないが後もう少しでこちらへ引き戻せる・・・っ!
「君が戦う目的はなんだい・・・?殺すため?苦しめるため? 違うね。少なくとも僕の知っているロマンチックな笠花 詩架 は」
「守るために戦っていたはずだ」
そのフィルンの言葉は詩架の心に確かに届いた。
そして少し崩れた心の鎧に止めを刺したのは剣に刻まれた文字だった。
”KASAHANA.project”
最後までよんでくださってありがとうございます。
実はこの話は大きく分けて二つに分けられます。既に第四幕とか行っちゃってますが。
四大陸編と詩架たちの世界編 の二つです。
さて今はどちらなのでしょうね。
感想・評価ありましたらよろしくおねがいします




