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第四幕 第九節:戦い再び

「失礼しますお嬢さん。」

ゴトン、と靴を鳴らしながら入室した老執事は断りも無くずかずかと中に入ってむんず、と琉雨の左腕を引き寄せて疲れたようにベットに座り込む琉雨を立ち上がらせる。

「な、なによ?」

思わぬ事態と、老執事がこんなに強引な人間だと思っていなかったために生じる驚きに目を白黒させていると、老執事は急に顔を琉雨に接近させて囁いた。

「貴女の世界を救いに行きますよ。私は貴女の仲間に助けられた身分なのでしてね。恩を返したいのです。」

「世界を救う・・・?恩・・・?」

琉雨が意味が分からずに言葉を反芻すると、老執事は琉雨を引きずりながら言った。

「あなたの世界は記憶を持っているにもかかわらず愚行を行おうとしているコトリ評議委員長。この説明は後々していくとして先ずはあなたの信頼を得るためにも恩の話をしましょうか。」

老執事はそういうと、あの旅での出来事、主に馬車が襲われたときに敵から匿ってくれたということを重点的に話した。

「あいつがそんなことを・・・?」

正直信じられない。

それが率直な感想なのだが、恐らく詩架も老執事になにかしら恩を感じての行動だとは少し考えれば分かる・・・だろう。恐らく。きっと。いやかなり怪しいが。

「信じられないような顔してますがね、彼はなかなかどうして格好良い青年でしたよ。あんな青年が居る世界・・・いいえ、あの青年が居るべき世界は失われるべきじゃあありません。」

キッ、と視線を鋭くして老執事は言った。

「さっきからなにを言っているのか分からないのだけれど・・・一体なんなのよ?」

ここに来てからこっち、ずっと相手にペースを握られたままだ。

能動的に行動したことは何一つとしてないことを考えればかなり不味い。

「先ほど貴女に質問していた小さい評議会長居ましたよね?」

老執事のその言葉に琉雨は簡単に記憶を掘り起こすことが出来たので小さく、けれどもはっきりと分かるように頷いた。

「彼は三年前に先祖がやったことによって起こった戦争を忘れて、再び戦争を起こそうと考えているのです。民衆の生活水準向上などを考えれば分からないでもないですが、それはこの世界の中で済ますべきであって、決して他の世界を侵して良い事じゃありません。私はそう考えます。」

老執事のそのはっきりとした声は琉雨の脳裏に直接響いた。

とてもじゃないが到底現実とは信じられないような事と一緒に。

「え・・・?私たちの世界が・・・狙われている・・・?」

その事実を噛み砕いて二度目の理解をした後に浮んだ言葉は一つだった。


また・・・戦いが・・・?


****


「ここは行商市場と言ってね。様々なものを売っているところなのさ。大体何でも揃うんじゃないかな?」

ホレイムの弟であるフレイルアがそう言うが、周囲に広がる露天の食べ物に目を奪われている一行はまるで聞く様子が無い。

「先ずは腹ごなしかの?移動の最中は簡易食しか食べておらなんでな。正直わしも人の手で作られた出来立てホクホクのものを食べたいものじゃの」

ハイナが呆れながらも由佳やシャノアの行動を支持すると、フレイルアは一つため息を吐いていった。

「まったく姉さんの言うことは本当だったみたいだな・・・?」

「手のかかるやつらじゃろう?」

カッカッカッと軽快に笑うハイナをみてフレイルアは一言呟いた。

「たぶんアンタが一番厄介そうだけどね・・・」

「なんじゃ?」

「なんでもないよ」


****


「で?なんで一人増えてるの?しかもその増えてるのが琉雨を撃ったんだって?」

タン、タン、とイラつくように右足で石畳をリズミカルニ叩きながら礫を尋問する悠介。

「いやお前、この年の子供殺せってのか?」

礫はそう言って自分の背中に隠れる少女の頭に手を置いて言う。

「殺せとまでは言わないけどここまでつれてきて何のつもりだい?そんな危なっかしい子供放っておけばいいじゃないか。何で僕達が保護する必要があるんだい?」

再び子供に鋭い視線を向けながら棘のある言葉を放つ悠介に、いい加減に、と礫が口を開きかけたとき、悠介の高等部に鋭いパンチが飛んだ。

「ん?可愛い少女にくだらないことをネチネチネチネチいうのはこの石頭かな?ん?死にたいの?私の前でいたいけな少女を弄ぶとはいい度胸ね、ここで決着つけようか?ん?」

悠介を容赦なく殴った梨魅はこれでもかと言うほどに全身から真っ黒なオーラを放っている。

これは下手を打てば殺されるだろう。

冗談ではなくまじめに人を殺しかねない目をしている。

「ご・・・ごめん・・・熱くなった・・・」

普通なら悠介が謝ったそこで終わるのだろうが、梨魅の怒りは終わらない。

「は?え?なに?ごめん?その程度で済むことだと思ってるの?ん?ゴメンですめば警察は要らないよね?」

ジリジリと、ゆっくりではあるが確実に迫る殺気を纏った般若は悠介を土下座に導くのに5秒と必要なかった。

「すいませんでした。」

「とりあえず焼き土下座な、焼き土下座」


****


「おせーぞ」

腕を組んで壁に寄りかかる人影がこちらに向かって声を投げかける。

「すいません、ホレイムさん」

老執事がそういうと、城壁の影から出て月明かりに照らされた彼女は妖しく見える。

「まぁいい。私もお前に扇動されたようなもんだがな、私の目的は記憶を取り戻すこと、それだけってことを覚えておいてくれよな。」

ホレイムがそういうと、老執事は静かに頷いた。

するとふと、サァッと優しいかぜが頬をなでる。

「やぁ、揃いも揃ってどこに行くつもりだい?」

バッと三人が同時に声の元へ振り返ると、そこには腰に手を当てて立つヒナの姿があった。

「いやなに、ちょっとした旅行にでも行こうと思ってな」

ホレイムが片手を振りながら軽い調子でそういうと、ヒナがその調子に乗ったように答える。

「そうかい、こんな夜中に旅行なんてさながら夜逃げじゃないか」

「その夜逃げだ、チビ」

いよいよ面倒になったのか事実を吐露するホレイム。

今更隠しても仕方ないと言うことか。

「なにから逃げるための夜逃げだい?」

「さぁね」

ホレイムがバッサリと質問を切り捨てると、ヒナが自身から風を巻き起こしながらホレイムに最終通告だ、と言わんばかりに問う。

「出て行くのならば引き止めなければならないんだ。それでも、出て行こうというのかい?」

ヒナのその問いにホレイムはいとも簡単に答えた。

「当たり前だ」

「やはり君は彼の姉だね・・・っ!」

「ありがてぇほめ言葉だなぁ!」

二人がそう叫んだ次の瞬間に、周囲に立っていた城壁、そして警鐘塔などが全て藻屑となった。

「今頃チェイサーズの彼らも到着したころだろうねぇ・・・いいだろう。反逆分子はここで殲滅だ・・・っ!」

そう叫んだヒナは、荒げた言葉とは打って変わってゆっくりと洗練された動きで何もない腰へ右手をかざす。

「風刀・・・・招来・・・っ!」

ギュ、と何かが詰め込まれる音がしたと思えば次の瞬間にはヒナの右手には透き通った剣が握られていた。

「風で出来た切れ味抜群のこの剣・・・君にかわしきれるかな・・・?」


****


ドォン!と市場の露天が吹き飛ぶ。

「なに?!」

由佳のラーメンをすすりながらのその緊張感のない叫びに反応するようにして興味のなかった詩架もようやく爆発騒ぎへと目を向ける。

するとそこには。

いつぞや見たことのあるような気がする礼服に似たデザインのローブに身を包んだ6人の人間がツカツカと歩いている。

「誰だありゃ」

明らかにこちらへ殺意を向けている連中を目前にしてもいまいち緊張感に欠ける詩架だが、その隣では顔面蒼白にしたフィルンが居る。

「チェイサーズ・・・っ!」

フィルンがかろうじて搾り出した声が詩架の耳に届いた次の瞬間には、二度目の大爆発が起きていた。


****


「リリ、コイツの調整頼めるか?」

ガチャリと、孤児院に帰宅した礫は真っ先にリリの母体が居るところへ少女を連れて行ってリリに行った。

『機械体・・・なんでしたっけ?』

「ああ」

未だにいつ自分が勝手に動き出すかと戦々恐々としている少女を横目にリリに言う。

「コイツが完全に自律できるようにして欲しいんだ。おそらくAIじゃないから出来るはずだ。だってこいつは・・・たぶん・・・」

喉まで出掛かってその先の言葉がつっかえていることがリリにも分かったのか、リリは礫が言わなくてもいいようにその先を補った。

『いわゆる義体、ですか』

リリのその言葉を聞いて下唇を噛みながら頷く。

義体

某漫画にも出てくるが、その利便性は問うべくもない。

いくらでも補充でき、いくらでも無茶をさせられ、そしてどんな命令でも聞く。

まるで夢の兵隊だ。

ロボットでは裁量が難しいという欠点があるが、生身を改造しただけの義体ならば体が機械なだけでそのほかは人間だ。精神体もしっかり持っている。

だから教育すればあいまいな命令でも把握してくれる。

あいまいな命令でも把握してくれると言うのは普通だからいまいち重要性が分からないのだろうが、戦場においては情報の伝達速度は命を左右する。

戦場のたとえよりもこういうたとえの方が分かりやすいのかもしれないな。

コーヒーを入れてもらうとする。

ロボットならば、砂糖何グラム温度何グラムミルク何グラム等々、コーヒーという目的ではなく、この手順を踏んで出来る何か、と言う感じで命令しなければいけない。

そしてかなり高性能なものでなければコーヒーを作る過程を記憶するなどはできないだろう。

できたとしてもそれだけで要領が潰されてしまったっり等デメリットは多々考えられる。

が。

これが人間ならば。

コーヒー作ってくれ、いつもので。

と言えば、幾度となく作ったコーヒーなら好みも把握してるだろうしすぐに作れるのだ。

これが裁量の違いだと言えば分かるだろうか。

もしこれが戦場ならば、慌てて言い漏れた内容があってもロボットはそれに気付く内容を実行する。何も疑問を抱かずに、だ。

しかし義体ならば、これはおかしいのではないか、と疑問を抱き、そして恐らくこの命令はこれを意図したものだろうと言う推測まで出来る。

これだけいえばロボットと義体の違いが分かるだろう。

だからこそ、義体の開発はされていたのだが。

倫理、と言うものを問題視しないのならば理想だろう。

しかし俺はそうは思わない。

戦争が目的になるのは、不味い。

戦争は手段としても最悪だが、手段だ。目的ではない。その先にある人の平和と言うものをまず先に侵す義体という技術は、俺達の技術力があれば出来ることだったが極力やらないようにしていたのだ。

リリは・・・言い訳は出来ない。

しかし、リリは強制的に命令に従わせることは出来ない。リリが嫌ならば拒否できるし、俺達に反抗も出来る。

実際三年前はそれで色々とひと悶着あったものだし。

俺達も人を一方的に責めることはできない。

が。

今、平和だったこの世界でこの技術を発達させていた・・・推測だがRAINは、許すことは出来ない。

俺達は、戦いの目的が戦いになってしまった事の空しさは、知っていると思っているつもりだ。

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