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第四章 第八節:小さな日常

「お主は本当に詩架達と同じ世界の人間なんじゃな?」

腕組みしてそう問うヒナからは簡単には出せない雰囲気が漂う。

「は、はい。」

思わずそれに飲み込まれてしまう。

(聞くところによれば詩架はここで大見得切ったんだとか・・・・果てしないな・・あいつ・・・)

思わずカチコチに固まっていると、ふと横でふんぞり返っている髪と目が赤い女性が目に飛び込んだ。

挑戦的な視線でこちらを見つめる彼女は、それはもう値踏みされていると思うに足りるものだ。

(いやぁな視線だなぁ・・・)

大方詩架はあんなんだったからコイツも何かするんじゃないのかという話だろうが、言っては悪いがあんな変人は多くない。というかかなりの少数派だ。

「ふむ・・・では異世界の存在は証明され・・・」

ゴニョゴニョと中途半端に聞こえる風大陸の子供の声は琉雨の好奇心をくすぐった。

(けれどさっきも言ったとおりに聞く勇気は、ない。)

勉強できるけれども度胸なんてものはない。


****


「どうする?琉雨がこっち来たってことは一応向こうの現在の状況も知ることが出来るわけなんだけど。」

詩架がそう言うと、由佳はうーんと唸って答えた。

「私としては向こうに聞きに行きたいところねぇ。」

それを聞くと詩架は、一言そうか、と置いて言った。

「だよなぁ。でも今二手に分かれるのは得策じゃあねぇからなぁ。このまま火大陸に向かって、宝玉借りたらそのまま風大陸。って流れでどうだ?」

詩架のその提案に、代案を持たないほかの面々は次々と賛同していく。

が。

悪意の塊である少女は賛同しなかった。

「助けに行かなくてもいいの?裏切るの?」

少女の言葉に詩架は少し苛立ちながら答える。

「お前にあとで国語辞典ってのかってやるよ、それで色々と調べてから意見しろ四歳児が。」

暗に馬鹿は黙ってろといわれた少女は次々と罵詈雑言をまくし立てるが、その全てが筋の通っていない打撃力のないものなので精神的ダメージはいまいちだ。

「まぁ琉雨のことだ奴らに気圧されながらもなんとか自分の有利な方向に持っていくのはお手のモンだろ、当面の方向としては火大陸に向かう方向で。」

詩架はそう言うと少女に向かって言った。

「そういやお前なんてんだ?」

「なんてんだ?100点よ?」

「ちげーよ馬鹿無理やりくっつけんじゃねぇよお前お前の名前はなんて言うんだって言ってるんだ。」

「名前?そんなものないわよ?」

その、さも当然のようにこたえる少女の姿にすこし気後れしながら詩架は言う。

「んじゃあお前は由佳の娘みたいなもんだからなお前は笠花・・・なんだ。由佳決めてやれ」

詩架が由佳に向かってそういうと、由佳は少し思案した後にこう言った。

「うーん・・・・光宙ぴかちゅう?」

「お願いだからやめてくれ。」

少女が否定するよりもまず詩架が即座に却下した。

「なによもう、私がネーミングセンス無いのしってるでしょ?笠花って苗字ってことはあんたの妹でもあるんだから、あんたも考えなさいよ。」

「あー・・・なんだ・・・ここで生まれたからどうせなら土地柄に合わせてカタカナにするか?」

「それもそれでキラキラネームっぽいよね」

「キラキラネームとか使ってると限りなく馬鹿に見えるぞ。まぁいいけどな。ってかあれはカタカナに無理やり漢字を当てたからじゃないのか?安易にクリス/crissとかでもいいんじゃね?」

詩架達二人がそう言い合っていると、少女が横から口を挟んだ。

「本人の私の意見は無し?」

「ほう、言ってみろ」

「ダークシャドウ」

「その年で中二病とは将来有望だなおい」

「?」

うむ、かなりの皮肉をこめて言った言葉が通じなかったときはなんともいえないやるせなさがあるものだ。

「・・・・いや、なんでもない。お前の名前クリスじゃ嫌なのか?」

「嫌よ、いかにも大量生産品って感じするじゃない。」

「お前は全てのクリスさんに謝れこら」

詩架はそう言って少女の頭をグリグリと削っていると、最初は我慢して顔を平静に保っていた少女も次第に痛みに耐えられなくなりたまらず謝罪の言葉を述べた。

「い・いたいいたい。分かったわよ謝るわよごめんなさいだからもうやめていたい!」

悲痛な叫び声を上げながらでも、一応謝ったので放す。

「しかしクリスが嫌だとなると・・・」

そう言って黙り込むあたり、自分を殺しかけた少女に既に情が移っているということなのだろう。

「シャノアというのはどうじゃ?そ奴黒髪じゃし猫のようにちっこいしのぅ」

そのハイナの言葉に一同が次々と賛同を示すなか、性質上反対しなければいけない少女も反対しようとするが彼女もシャノアという名前を気に入っているのかプルプルと震えるだけで何も言わない。

「かわいい。」

ポツリとこぼした由佳の言葉に少女の名前を否定する方向に向けられなかったフラストレーションにも似た感情は暴走した。


****


時は夜。旅の途中。

「笠花 シャノア」

致命的ににあわねぇな。

そんな言葉を飲み込んで復唱すると、シャノアの首にかける予定のタブをしげしげと見つめる

完全に飼い猫じゃねーかというどこかしらから聞こえる突込みが聞こえたようでもないが知らぬが仏っていう諺があるだろう。

しかし飼い猫という意味ではなく、恐らくだが彼女には自分の名前はこれだという証明が必要だろうという判断からのタブなのだ。自分から好んでかどうかは分からないが、今までずっと悪意を浴びていたのは紛れもない事実だし。一人の人間としてはっきりと感情を持った今自身を確立させるためにも。な。

幸いタブの材料はハイナが地中から掘り出してくれたし。

「んー・・・やっぱりこんな安易なものは・・・のう。はじめてもらった名前なんじゃしもっと効果なものはどうじゃ?」

ハイナのそのもっともともいえる意見に詩架は頷いた。

「んー・・・そうだなぁ。どーしたもんか。」

う~んとひとしきり唸った結果。

「あぁそうだ。」

詩架はそう言って、いつぞやのいつの間にか旅に同行している空気と化したフィルンと戦ったときに会得した青白い風の力を呼び起こす。

「風で結晶・・・俺の知る限りの科学じゃできねーんだよなぁ・・・」

手のひらの上でひらひらと風を操りながら一人ごちる。

その様子を見て、なんだかんだいってシャノアを大事にしてるんじゃないかと微笑ましい気持ちに浸ったハイナは静かにテントへ戻った。

「なんじゃ、仲の良さそうな顔しよってからに。」

パサリとテントの扉を開けると、そこには抱き合った由佳とシャノアの姿があった。

「まったくわしが嫉妬の炎をめらめら燃やしたくなるのう、こんな可愛いやつを独り占めしおって。」

彼女はそういうと、対抗するようにコトリに抱きついて静かに就寝した。


****


「イオン式だのなんだのと考えてはみたが。」

「大体魔法で物作るってのに科学やら向こうの世界の常識で考えるのは馬鹿だよな。」

詩架はそう言って、手のひらの上の風を操るのに集中する。

「こう・・・塊を作るように・・・」

ふんぬっと両手で力をこめて手のひらの上の風をタブの形に押し込める。

結果。

きれいな透き通った青のような緑のような結晶が出来上がった。

「いや、うん。らせんがんとか思った奴はあながち間違っちゃ居ないんじゃね?」

それを認めるのは色々まずいだろう。版権的に。

「何はともあれハンドメイド品としては最高品質に近いものが出来た・・・訳だ。」

何で俺がこんなことやってんだ由佳にやらせればいいだろうが、などと心のそこで自分に突込みを入れるが、まぁこういう物つくりもなかなかどうして楽しいものだ。

「母親の仕事奪っちゃってすいませんね」

などと独りで謝ったりしながら、同じく風で作ったナイフでカリカリとタブに名前を彫っていく。

「かん・・・・せい!」

完成したその名前は、節々が跳ねたような習字でよく使われている気がするような字体だ。

なんというのかは分からないが。

しかしなかなかどうして、とても良い出来になったのではないか。

詩架は心の中ですこし自慢げにため息をつきながらタブを月明かりにかざす。

するとただの透き通った青白いタブだったものは輝きを放ち、それはもう本当に月を削ったような幻想的な出来になった。

「うわ・・・・」

柄にもなくそんな言葉が漏れてしまうほどの良品質となったそのタブをみて、密かに俺のものにしてしまおうかとも一瞬思ったがやっぱりそれはないな。

「不思議と、ここまでのものを作るとあんまり大量に作りたくなくなるよなぁ・・・」

それは体力的に、とか言う意味ではなく、なんというか自分でもこれがかなり希少品だということが分かっていて、その希少性を保ちたいというか・・・

や、違うな。

ある種の独占欲・・・なのだろう。

これは・・・俺達の物だ。


****


「ひゃアアアアアアアあああああああああああああああ!」

「ほぅん!?」

「なに!?」

「いたい!」

一つの悲鳴を皮切りに、様々な悲鳴がとどろくカオスなテント。

一体何事かと一番最初に叫び声をあげたコトリを問いただすと答えは簡単。

「だって・・・・目を覚ましたら目の前にハイナさんの顔があるんですよ・・・?びっくりするじゃあないですか・・・だってあんな・・・き」

「あぁそこまででいいそれ以上は良いまぁ理由は分かった。」

「なんじゃここで敢えて言葉を途切るところに何かしらの意図をかんじるのう」

「気のせいだ」

「気のせいか、ならばしかたないのう」

などとよく分からない会話の終わり方をして、ひとまずその話題は終わりとなった。

そしておとなしくなったテントを後にするようにパサリと戸を開けると、昨日とは違い透き通った空気の向こうには巨大な火山がそびえ立っていた。

「う、うおー・・・・・」

あまりの巨大さにポカンと口をだらしなく開ける由佳の横で、程度は違えど詩架も結構驚いていた。

(筑波山・・・いや富士山レベルの高さ・・・でもない・・・?もっとか・・・?)

そんなあっけにとられるハイナとフィルン以外の一同を迎えるように立っていたのは、ハイナの知り合いであり、ホレイムの弟である男だった。

「やぁ、遅い到着だね」

「久しぶりじゃのう。少年」

「はっはっは。うるさいね。僕もなかなかどうして忙しくてね。種族から追放されるなんてめったに無いんだよ?」

「ご苦労なことじゃのう」

「誰のせいかなぁ」

「さぁのぅ」

二人の会話が一通り終わると、ホレイムの弟とあらかじめ言われていた男性はこちらへ向き直って言った。



「やぁ。ようこそ火大陸へ」

最後まで読んで下さってありがとうございます。

今回はシリアス分がほとんどない日常テイストです。

感想・評価ありましたらよろしくお願いします。

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