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第四幕 第六節:いいたいことはハッキリと。

「私は分からないの・・・」


迫りくる多数の触手をすれすれでかわし続けていると、耳を占める戦闘の効果音の最中でもはっきりと言葉が聞こえた。


(由佳の言葉か・・・っ!)


その由佳の声にまだ由佳が生きているという事実が分かり、心の奥底で安堵の感情が滲み出るのが分かる。


(ったく俺も心のそこでは諦めていたってことか・・・)


諦めの良い自分に嫌気がする。


その一瞬の自己嫌悪の隙を狙って、影から伸びる触手は正確に詩架の首を貫かんと轟音を打ち鳴らしながらせまる。


ヂッという耳障りな音を響かせて皮膚をかすめて通り過ぎた触手に冷や汗がドッと溢れる。


「私は・・・」


その由佳の言葉を皮切りにしたように複数の触手が迫る。


「さばき・・・きれねぇ・・・・っ!」


かといって由佳がどこにいるか分からない今、むやみやたらと攻撃するわけにも行かないだろう。


そして次第に攻撃をかわす事と由佳の言葉を聞き取ることだけに神経が集中し、世界のスピードが緩慢になる。


それでもかわしきれない圧倒的質量と手数。


体に複数の切り傷ができ、大分体力を持って行かれた時、由佳の言葉が聞こえた。




「私は・・・・誰なの、かな。」


「私は何で嫉妬するのかな。誰に嫉妬しているのかな。分からない。もう何も分からない。」


「私は一体誰なの?私は一体なんなの?」


「私は本当に・・・人なの・・・?」




その言葉は一度は誰しも思うであろう言葉・・・だったのだろう。


しかし。


いや、だからこそ、か。


それだからこそ。


答えはすぐそこにあるものだ。


普遍的な疑問は、本人にとってはいつまでたっても不可解な疑問だが、それは一人で解決することは難しいという意味だ。


自分だけの力で自分の動きを確認するには影を見るしかない。それは不確かなものだ。


だけど。


他人という鏡を通せば、他人を介せばその答えは簡単に出る。


由佳の言葉に足が止まり、図太い触手が腹部を貫く。


「ハッ・・・いってぇな・・・・」


抵抗するのを止め、右手でジュッと爛れるのを気にもせずに触手をむんず、と掴む。


それは引き抜くためではなく。


逃がさないために。


「んなこと・・・迷ってんじゃねぇよ・・・・」


気付かなかった自分にも自責の念を送りながら言う。


「私は誰なの?」


「お前はお前さ。笠花由佳・・・いいや、紺屋由佳。お前の名だ。」


「私は何なの?私は何に嫉妬してたのもう何も分からないの分からないのよ。」


声が聞こえる。


漫然とした声ではなく、元の分かるはっきりとした声。


そこか。


目を凝らせば、正面に屈んでないている由佳がいる。


それを見た瞬間に、怒りと、後悔と、それと、悲しさがとめどなく沸き出てきた。


グッと更に熱く焼け爛れる右手をそのままに触手を更に力強く握り締める。


「お前はだれだ・・・?何だ・・・?嫉妬・・・?一度答えたがもう一度答えてやるよ。お得意の毒舌をもってな・・・っ!」


詩架はそう言ってツカツカと、更に襲い掛かる触手に見向きもせずに真っ直ぐに由佳へと歩み寄る。





「おい!いい加減不貞腐れてんじゃねぇ!」



詩架が喉が張り裂けんばかりの声量で叫ぶと、ビク、と由佳が反応する。



「お前いつまで泣いてんだ!お前はいつも明るかったろうが!あの笑顔はどこやったんだ!あれがお前の長所だろうが!自分で自分の長所つぶしてなにがしたい!」



詩架は不条理とも言えるその台詞を更に叩きつける。



「お前はぁ・・・・!」


詩架が再び叫ぼうとした瞬間に、詩架に刺さった二本目の触手から一瞬で詩架に情報が流れる。



「君は何故生きているんだい?」「お前が殺したんだ!」「お前が!お前さえいなけりゃあよぉ!」「なんで助けなかったんだ!」「この人殺しぃ!」「死ね!」「アイツが死ぬぐらいならお前が死ねばよかったんだ!」「お前は裏切ったんだ!」

「いい加減気付けよ!お前はもう死んでいるんだ!」「お前は亡霊で!生きちゃあいねえんだ。お前はここにいちゃあいけねえんだよおお!」「この馬鹿野郎!」



「「「消えうせろ・・・・・っ!」」」



それはいつぞやの災厄のトラウマとも呼ばれる言葉達だった。


コイツ、俺の心までも侵略しようというのか。


そう思うと同時に、由佳に常にこれと同等かそれ以上の攻撃を加えてきたと考えると腸が煮えくり返る。


「くそ・・・・・っ!」


いまだにぶつぶつと続くその言葉達を振り払うように、右手に更に力をこめる。


「ハッ!今更この程度の精神攻撃じゃあきかねぇよ・・・・っ!今俺は忙しいんだ・・・っ!ごちゃごちゃいってねぇで!」



「黙って消えろぉおおおおおおおおおおおおおおおお!」


喉を引き裂くほどの声量で叫び、そして渾身の力でお返しとばかりに精神攻撃を加える。


すると。


パァン!とはじける様にして影は消え去り、幾分か明るくなった洞窟には、泣きはらした目をした由佳が立っていた。



「私は・・・誰なの・・・・?」



「お前は笠花由佳。」



「俺の悪友で、親友で・・・・幼馴染で・・・そんで・・・・」


詩架はそこまで言って、少し顔を赤くして照れたようにして一拍置いていった。






「家族さ。」

読んでくださってありがとうございます。


今回は前々より暖めていた由佳と詩架の関係というものを書いてみました。詩架は一応自己中なのですが、仲間は大事にするというスタンスのようです。某鏡を思い出しますね。

実はここいらの話も絡めている、というかそんな感じの文も入っています。

物語上は関係ありませんが。

あと毎度のように登場人物の多い私の作品なのですが、また次の話で増えます。


感想・評価ありましたらよろしくお願いします!

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