第一幕 第二節:御目通し
コンコン、という戸を叩く音にまどろんでいた意識が一瞬で覚める。
「どうぞ」
それだけ言って入室を促すと、ガチャリと控えめな音を立てて昨日の老人が静かに入ってきて言った。
「よく眠れましたか?」
「微妙だなぁ・・・疲れていたから寝たには寝たって所かね。」
「寝れたのなら上々でございます。食事の後に評議会の方々に面通しをする必要があるのですが、よろしいですかな?」
評議会・・・たしかあのセンス皆無な太ったオヤジの所属する・・・まぁいいや。
「拒否権は、ないんだろ?」
「まぁ、恐らくは。」
「今行くからちょっと待っててくれ。」
「分かりました。では部屋の外で待っていますね。」
老人は再び静かに部屋から出て行った事を確認すると、昨日はあまりの疲れで出来なかった事をする。
サッと部屋全体に目を通し、何か戦闘に使えないものが無いかどうかを探す。
話では民衆はこの評議会に反感をもっているそうだし。どこに暗殺者が潜んでいるかしれたものではない。
俺も由佳がいないという状況でなければ評議会に手を貸すなんてことは無かっただろうけどな。あんなゴッテゴテのセンスの無いやつ言う事なんざ聞けるかってんだ全く。
そう文句をぶつぶつ言いながら用意された服に着替えながら視線だけで部屋を見渡す。
あった。
おそらく観賞用であろう短剣が壁にかけてある。
ここは客人用だから短剣を壁にかけてもいいだろうという事だろうか。
まぁいい何にせよこれである程度の身の安全は確保できる。
自分の世界にいた時にきたらどこぞのアニメの協会に所属する人間のコスプレだと思われそうなこの服は多少動きにくいかわりに短剣を隠すところはそれなりにある。
右肩から左肘までかぶるようにしてかかる布の左うでの後ろの部分に短剣を鞘ごと引っ掛けるようにして持つ。
これなら激しい動きをしなければ落ちないだろう。
左利きだからできれば逆に布をかけたかったのだがデザイン的に無理だろう。というか怪しまれる。
準備が出来たので扉を開けて朝食はいらないといって老人に評議会の連中のところまでの案内を頼む。
最悪人を殺す事になるだろうから腹に何かを入れていて最悪な気分にはなりたくない。とは説明しないけれども。
そうして昨日とは打って変わってどちらも無言でしばらく歩くと、高さ5Mはあろうかという巨大な石でできた扉の目の前についた。
前に立つだけで威圧されるその扉はその向こうに待ち構える評議会とやらの地位の高さを否応無く思い知らせてくる。
心の中で盛大に舌打ちをして、老人に扉を開けてくれるように頼む。
さぁ、ここからが正念場だ。
主導権を俺が握るか相手が握るか。
勝負と行こうじゃあないか。
****
「おい聞いたか?」
「なにをだ?」
「評議会がとうとう勇者を召還して魔物を退治するんだとよ。」
外に置かれたテーブルに腰掛けて酒を飲む男は愉快そうに言った。
「評議会・・・本当に評議会のやることが正しいとは誰も言えない今の状況でそういう大きなことを強行するのはどうなんだ?」
「たしかに・・・な。しかし魔物ってのはどれを指すんだろうな。」
「さぁね。」
どうせ俺には関係ないさ。種族から追い出された俺には。
****
「君が召還された笠花 詩架かね?」
おぉっとこいつぁ・・・女もいるのかよ。
女には攻撃しない主義・・・なんだがな・・・
出鼻をくじかれた詩架の目の前には左から水大陸のロン毛美女 火大陸の短髪で活発そうなこれまた美女 風大陸の10歳程の子供 地大陸の例のおやじ
おいまじかよおい。人選どーなってんだ。
「人材不足じゃねぇのか・・・?とでも思っているのか?」
ニヤニヤと笑いながらいう真っ赤な髪を携えた彼女は言った。
「いやだってよ・・・」
女がいることはまぁまだいい。
しかしおい。
10歳児ておい。
おい。
オイしか言う事ねーよ!おい!
「お主、私に思いっきり場違いそうな目を向けておるがな、コウ見えてもわしは500歳超えておるぞ?」
「嘘を吐くな」
思わず反射的に言ってしまったその言葉に、水大陸の青髪の彼女はこめかみを抑え、火大陸はげらげら笑い転げ、地大陸は卑しい笑みを浮かべた。
肝心な風大陸の少年はため息を吐いて仕切りなおすように言った。
「まぁいい。取り敢えずこちらだけお主の名前を知っていてこちらは名乗らないというのも失礼な話だ。とりあえず自己紹介をしようか。」
そう言って少年は火大陸の女性に目配せをする。
「いいこでちゅねー失礼なんていう難しい言葉を知っているなんてすごいでちゅねー風大陸のおぼっちゃま?」
「きっきさま・・・っ」
思わず吹き出しそうになる笑いを堪えながらそういうと立ち上がってこちらへ向きなおり自己紹介を始めた。
「私はホレイム ハイミア。大陸ごとの色は知っているような顔をしているからまぁ予想はついているだろうけど火大陸のトップをやってる。」
彼女はそういうと座り際に風大陸の少年の頭を撫でてさらにおちょくっていた。
その様子を横目に、ゴホン!という大きな咳払いをして立ち上がるのは髪の長い水大陸の美少女。
火の大陸のホレイムがまぁ・・・スレンダーと言っておこうか。それに対しこの水大陸の人は・・・うん。まぁなんだ。いわゆるボンキュッ『ゴホン!』
「私はミル アクルアです。水大陸の長をやらせてもらっています。よろしくおねがいします。」
見た目的には水も火も20歳前後だろうか。
アクルアはホレイムと違ってどうもキッチリした人間のようだ。いや、第一印象ならホレイムより適当な人間なんざそうそういないだろうけど。
アクルアの自己紹介が終わった事を確認して、先程から多少蚊帳の外感が否めない髭を蓄えた小太りな男が立ち上がった。
ちっさ!
改めてみると小さいなお前も!
と、突っ込むわけでもなく立っていると、いかにもこちらを見下している口調・態度で自己紹介を始めた。
「わしは地大陸の王ギィヌ ムィヌだ。」
男はそれだけ言うとすぐさま座って再びふんぞりかえった。
感想は、まぁなんだ。人の悪口は賢明じゃないさね。
他の三人の自己紹介が終わった事を確認すると、自称500歳の少年が立ち上がった。
「我はウィミン ヒナだ。この評議会の代表をやらせてもらっている。よろしくな、少年。」
少年。という言葉がウィミンの口から発せられる時に、なんとも形容しがたいプレッシャーをかけられる。
空気が一瞬で今までの数倍の重さを持って自分に襲い掛かってくる。
しかしこの程度で怯むほど修羅場を潜ってきていないわけではない。
ひるんじゃいねーぞこの野郎。というメッセージもこめて口端を吊り上げて皮肉に笑って言い返す。
「ああ、よろしくな。」
俺がそういった途端、評議会の四人の顔が多少驚愕に歪んだ所を見るとそうとう骨無しに見られていたのだろうか。
まぁいい。
これで立場は同等に近くなったはずだ。
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