第四幕 第五節:光と影
短めテイスティです
「恐らく今朝方影に襲われたときに卵でも埋め込まれたのじゃろう。」
ハイナのその言葉に詩架は心のそこから舌打ちをする。
「面倒な・・・どうすればいいんだ。」
「わしが知っている限り助ける術は無い。」
この中で一番影に詳しいハイナのその言質は、詩架を最悪な気分に陥れるには簡単な一言だった。
「くそが・・・」
ガクリと、うなだれる様に椅子に腰掛ける。
そんな詩架の様子を見かねて、フィルンが言った。
「ったく、君は鈍感にも程があるね。僕の情報ではそこの白髪金眼の彼女はいないはずだった。そして君が出て行ったときの彼女の優れない表情。これを考えれば答えは簡単だろ?」
そのフィルンの言葉を何度も噛み砕くが、一向に意味が分からない。
その様子をフィルンは見て感じとったのか、苛立ちながら言った。
「いつまでそんなところで野暮ったい休憩をしているんだ。」
「早く、追いなさい。」
そのフィルンの言葉に弾かれるようにして詩架は気付いたのか、バッと勢い良く立ち上がって由佳の言ったと教えられた方向へと駆けた。
「全く。お主、仕事放棄は良くないんじゃないかのう?」
ハイナのその声に、フィルンはどこからとも無くめがねを取り出してかけながら言った。
「知っているだろう?火大陸の根本にあるのは、情熱・・・さ。こんな状況で二人を止められるほど、仕事人間じゃあないんでね。」
そのフィルンの言葉にため息をついて呆れる。
(火大陸・・・そういえば、あいつは元気にやっているかのう・・・)
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ずっしりと濃厚な空気が漂う洞窟。
一筋の光すら差し込まない暗闇はそう。
影、と呼ぶにふさわしいだろう。
(ったくおあつらえ向きな場所が都合よくあるもんだぜ・・・)
ぴちゃぴちゃと水がしたたる鍾乳石に手を傷付けられながら進む。
何故、ここに一直線に向かってこれたか、という質問に対しては経験から来る憶測と。直感だと言うしかないだろう。
現にこの洞窟からあふれ出る負の感情は近くにいるだけで気分を沈ませる。
(まだ見えてないのにこのレベルか・・・体に宿してた由佳は一体どれだけ負荷がかかってたんだ・・・ったく俺のこの鈍感さもどーにかなんねーか。)
詩架は静かに、五感を研ぎ澄ましながら歩く。
すると。
突然眼前に黒の中でも識別できる黒・・・これは既に闇というレベルだろう。
巨大な闇が、現れた。
「おいおい・・・流石にこいつぁ・・・予想外なサイズじゃあねーの・・・?」
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「ところで、フェミニストの俺としてはきになるんだが、彼女を救う方法はあるのか?」
フィルンのその問いに、ハイナは静かに答える。
「だから言ったじゃろう。わしの知る限りは、無い。」
恐らくあの黒いものの名称すらしらないフィルンだが、詩架達のただならぬ表情に何か感じるものがあったのだろう。
「僕に何か出来ることは・・・ないのかい?」
そういうフィルンを見下ろして、ハイナは静かに言う。その声には怒気が含まれているとも感じられるだろう声色だ。
「人についてしまった影は抜けることは無い。ある程度体制のついた人間なら、無意識でも抑えることは可能だじゃが、由佳のように一朝一夕の期間では免疫は出来ていないだろうからの。方法は。殺すか。殺すじゃ。」
「二者一択と見せかけての一択。これほど胸糞の悪くなる誘導尋問は史上初だね。」
「全くその通りじゃな。」
「でも。それでもあきらめることはできるん・・・ですか?」
突然、今まで黙っていたコトリが突然口を開いた。
「それで・・・簡単に・・・命の恩人とも言える人を・・・見放して・・・いいの、でしょうか。」
コトリのその問いに、フィルンはいとも簡単に答えた。
「良い訳が無いだろう。」
「そうじゃな。」
そう言って、フィルンは思い体を必死に動かして立ち上がった。
「厳しいには厳しいけれどね。僕の本能はこう言っているよ。」「そうじゃの。わしもじゃ。」
《仲間を見捨てるのは、苦手なんだ。》
二人がそういうのをコトリが呆然として眺めていると、ふと背後に轟、と炎が燃え盛る。
「いやぁいい言葉だな。綺麗事とも言うけどな。けど私は、そういうの好きだぜ?」
突如現れた炎に一瞬敵意を向けて振り向くが、その現れた人間を見てハイナは喜びのあまり短い悲鳴を上げる。
「ホレイムッ!」
いつもなら冷静なハイナが今回ばかりは自制が効かなかったのか、懐へ飛び込む。
ぼふっと大きな布地に飛び込むと同時に、ハイナは意地悪な笑みを浮かべて言った。
「お主、太ったか?」
「うるせぇ!」
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(さ・・・て・・・どうしたもんか。)
人を救うというのは一体どういうことなのか。
(んなこと考えてる暇はねーんだがよ・・・・)
考えたいのは山々だが、眼前に控える動くモノは、待ってくれそうに無い。
「とりあえずは救うためにも・・・俺が生き永らえねぇとな・・・・っ!」
読んでくださってありがとうございます。
そろそろ大きく分けて二つ目の編が始まります。




