第四幕 第四節:刺客
「済まなかった。」
張ったテントの中で珍しく殊勝に謝る詩架の相手は左手を包帯でぐるぐる巻きにしたハイナだった。
「いや、いいんじゃ。別に命が無くなった訳ではないしの。」
そう言うハイナだったが、その顔は優れない。
「やっぱり痛むのか?」
詩架の質問に首を振るハイナなのだが、やはりその顔は優れない。
どうしたもんか、と詩架は考えるが大して良い事は思い浮かばない。
ったくこういうのは苦手なんだよ・・・
詩架はそう頭の中で呟いて由佳に顔を向けるが由佳も由佳で顔色が優れない。
(大方向こうの連中を気にしてか戦闘に疲れてか・・・だろうけどな。)
こういうときは下手にこえ掛けはしないほうが良いと考える詩架はそのまま由佳を通り過ぎてコトリへと視線を向ける。
(アイツもアイツで忙しそうだな・・・)
いそいそと包帯を巻くコトリをみながらコトリも手が離せないと判断する。
結果的に
(俺が何とかするしかないってことか・・・?)
そんなこんなでどーするかと考えている詩架にふと、ハイナが声をかけた。
「ちょっと、いいかの。」
覗き込んでくるその顔はひたすらに真剣な表情でとてもではないがはねつけることは出来ないだろう。
無言で頷き立ち上がると何事かと由佳が聞いてくるが、詩架も分かってないためにうやむやにして誤魔化す。
「悪いな。」
詩架はそう言ってハイナについて外へいく。
しばらくの無言の歩みが続いたかと思えばふと、ハイナは足を止めてこちらへ向き直った。
「お主は一体、何者なんじゃ?いいや正確にいおうかの。お主は本当に、由佳と同じ世界の生き物なのか?」
一瞬何の話だ、とも思うがしかし思い至る事実は一つしかない。
「さっきの魔法の話か?」
「ああそうなんじゃが―――――」
ハイナがそういいかけたところで、テントからコトリの甲高い悲鳴が聞こえる。
バッと勢い良くテントへ振り向くと、テントは跡形も無くなり、そしてそこには嫌な記憶を思い出させる黒いものがもうもうと立ち上がっている。
あれは・・・・
「影に襲われたときに・・・」
自分で口に出してテントが影に襲われたと気付いた詩架は真っ先にテントへ走り寄りながら思考を纏める。
第一に。
影はまだいるのか。
そして第二に。
全員無事なのか。
大方考えるべきはこの二つ。
なのだが。
二つ目の疑問は予想外な形で答えられることになる。
「由佳さんが・・・急に影に包まれて・・・そして・・・」
それ以降のコトリの言葉は頭に入らなかった。
由佳が、襲われた?
いや襲われたという表現は正しくは無いのかもしれない・・・・というよりも正反対か。
由佳が、襲った?
****
「ここ・・・なのか?」
琉雨の質問に礫は頷く。
「ここがRAINの社標があったところだ。」礫はそう言って先ほど目印にと不自然な、けれど注目しなければ分からない程度に折っていた草を掻き分けてそこにあるものを指差した。
するとそこには扉のようなものにRAINとかかれた小さな正方形なものがあった。
「なんだこれは・・・・」
「あんまりむやみに触らないほうがいいんじゃねぇか?」琉雨が好奇心のあまり無意識のうちに触ろうとしているのを見かねて礫がそう忠告する。
「あ・・・あぁそうだな。」
自分が触ろうとしていた無警戒さに心の中で悪態をつくと調べ始めた。
「リリ、これが扉かどうか判別できるか?」
琉雨の言葉にリリは直ぐに返事をした。
『はい。これは扉ですね。わずかにですが空気がこちらへ出てきているので。』
リリの言葉を聞いてふむ、と一つため息をついた琉雨はスッと立ち上がった。
「ひとまずは全員集まるのを待つべきか・・・」
琉雨のその言葉に礫は頷いた。
(さっきみたいな戦闘があっちゃあ面倒だしな。)
ここでとっこむのはB級ホラー映画で言う死亡フラグというものだろう。
「別に私は死亡フラグとか思ってたわけではないぞ。」
「勝手に心読むんじゃねぇ。」
****
「あらぁ・・・早速ニュースになってるわねぇ。」
梨魅が早くも支度を終えて椅子に腰掛けてテレビを見ながら呟いた。
「ん?」
悠介がその言葉につられてテレビに視線を移すと、超遠望カメラという文字が左上に浮かんでいる画像が浮かんでいた。
「いや、注目するところはそこじゃない。」
そう言って指差すところには、筑波山の大部分が削り取られた画像が移っている。
《どういうこと、なんでしょうね。再び茨城にあれが舞い降りたということなのでしょうか?》
などとニュースキャスターは好き勝手なことを言っている。
(まぁ外れてはいないんだけどね。)
《笠花さん達に取材は出来ないんですか?》
ゲストの芸能人がキャスターにそう聞くが、キャスターは答えられずにうやむやにして話題を転換した。
「まぁ、僕達は絶対に取材を受けないスタンスだってことあんまりしられて良い気分はしないだろうしね。」
悠介はそう言ってお茶をすすった。
ある意味目の敵にしているマスコミという存在は本当に、厄介だ。
勝手に話を盛り上げたり勝手に話を改変したり。
手に負えない。
そんなことを思っていると、魅麗も着替えが済んだようで寝室からひょっこりと顔を出した。
「終わりましたーお待たせしました。」
彼女のその言葉を聞いて二人は立ち上がると外に控える車に乗るべく玄関を開けた瞬間に
パシャぱしゃぱしゃぱしゃぱしゃぱしゃぱしゃ
視界をフラッシュの光が包んだ
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
今にでも殺してやろうかという雰囲気が滲み出る梨魅を前にしても続けて写真を撮ろうという度胸は買おう。
しかし。
相手は選ぶべきだな。
悠介が心の中でため息をついた瞬間に、記者達の持つ機械という機械は音を立てて壊れた。
一瞬にして消え去った光とシャッター音に梨魅は満足して車の中へと入っていく。
そしてそれに続くようにして魅麗も続いた。
「まぁ、自業自得、だね。」
悠介はそう言って運転席に腰掛けた。
****
ガサッ
草を踏みしめる音に弾かれるようにして後ろを振り向くと、礫達と同じような年齢の少女が一人立っていた。
不気味なまでに表情の無い顔に見入るが、礫はこれをどこかで体験したことがある。
「また・・・なのか?」
礫は立ち上がって出来るだけ陽気に振舞って少女に問いかけた。
「ここは立ち入り禁止って知らないのか?」
ツカツカと歩み寄る礫。
こんな状況をどこかで聞いた。
ああ。また、というのは彼女のことか。
花憐。
礫が茨城を歩いているときに出会った少女だとか。家族はいないと答えたので保護したらしい。
そんなことを考えていると、礫が助けを求めるように琉雨の方を見る。
(自分で話しかけておいて手詰まりなのか・・・)
琉雨は心の中でため息をつきながら、探査機を手に少女へ歩み寄りながら言った。
「やぁ、君はどこから来たんだい?」
その琉雨の問いにやっと答えるようにして動いた少女が先ず最初にやったのは。
カチリ。
「え?」
パンと、乾いた音が、響いた。
無茶な展開がやってまいりましたっ
そろそろ分かってきた人は分かってくるのかも、しれません




