第四幕 第一節:山狩り開始
「んで。チェイサーズが出発してから既に三時間が経過したわけだが。」
ホレイムが椅子に座りながらため息をついてアクルアに対して愚痴とも取れぬ言葉を吐いた。
「その言葉三度目だぞ。」
本を読みながらも、丁寧にホレイムの言葉に返答を返すアクルアはそれなりに優しいということなのだろうか。
「だってよー。私は一応奴らのことを買ってるわけだけどよ?ぶっちゃけチェイサーズの連中にかてるかっつーとそんな訳は無いと思うんだよナァ。」
ホレイムはそう言いながら手元にある資料をもう一度流し読み、再びため息を吐いた。
「勝ち目、なくね?この面子だとよ。どんだけ本気出してるんだあのお坊ちゃんは。」
そう言ってまた更にため息を吐いて放り投げた資料には四人の人間の顔写真と名前と概要が書かれていた。
その一番上に載っているのは。
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「チェイサーズの火大陸部隊隊長・・・・フィルン・・・です。」
コトリの後ずさりしながらの説明を聞くが、特に知っているわけでもないので警戒のしようもない。まぁ隊長っていうぐらいだからそれなりに強いんだろうが。
「戦闘連発しすぎじゃね?最近。」
はぁ、と詩架がため息を吐く隣で、多少顔の優れない由佳も同意するように腰を降ろした。
「めんどくさい。」
「だな。」
ゴロ、と地面に二人が寝転がるのを横目に、ハイナもため息を吐いて腰を下ろす。
「なんじゃお主等、そんなに切羽詰っているわけでもないのか。」
ハイナのその言葉に、詩架は少しあくびをしながら答える。
「いや、最初は結構焦ってたんだけどな。良く考えたら俺があいつらの心配する必要ねーし。三年前に誰かさんが送ってきたせいで対抗策はそれなりに出来たんでな。」
その詩架の言葉に、ハイナは地面から勢い良く上半身を起こして反応した。
「本当か!?」
その勢いに少し物怖じしながらも、詩架は答える。
「お・・・おう。一応な。でもどっちにしろここじゃあできない技なんでお前達には関係ないけどな。」
ふあぁああああ・・・と大きくあくびをしている詩架を睨み付けながら、ハイナは問い詰める。
「どういう攻撃なんじゃ!?」
「そりゃ・・・あれだ。原子っての、知ってるか?」
****
「思ったんだけどよ。こんな武器を簡単に作り出しちまうのって実はとてつもないんじゃね?」
礫のその言葉に、悠介はため息を吐いて反応した。
「あのねぇ・・・今更?あれだけ戦ったのに今更そんな感慨を感じるわけ?」
その悠介の言葉に、礫は唇を尖らせて答える。
「だってよーあの頃は掲示板みたり命を掛けた死闘をしたり掲示板を見たり主に掲示板を見たり。それはもう忙しかったじゃないか。それどころじゃねーっつの。」
「掲示板が最初に思い浮かんだり行動の四分の三が掲示板って当たり流石礫ってところだよね。」
「うっせーな。おれは命の次に掲示板が大事なんだ。」
「廃人乙。」
「だまってろヴァーカ」
そんなとてもかつての壮絶な戦いの始まった場所での会話とは思えない会話を聞いて、氷見はひそかに笑いながら思った。
(やっぱり、さっきの真剣な空気は10分と持たなかったね。)
クスリと笑った声が聞こえたのか、二人が振り返って何かいいたそうにするが、それを誤魔化して琉雨に聞く。
「ねぇ、どう?いる?」
氷見が聞くが、琉雨の顔は晴れずに機械と顔を突き合わせている。
(この表情は居て、険しいのかそれとも・・・)
「久しぶりに使うと操作方法忘れるものね。」
後者でしたか。
呆れた顔で琉雨から探査機を受け取ると、リリに手伝ってもらいながら起動する。
「琉雨は勉強できるくせに機械音痴だからなぁ・・・」
礫がニヤニヤと笑いながら言うと、琉雨が顔を真っ赤にして怒って礫に一撃加えんと剣を振り回すが、礫の器用な動きがそれを全て交わしてしまう。
というか。
(それ当たったらしゃれにならないよ・・・)
内心ヒヤヒヤしながら攻撃をかわす音をききながら機械を操作する。
すると。
「あ。できた。」
ピコン
そんなちゃちな電子音を伴ってうっすらと現れる画面には、青い点が四つ。
と。
(と・・・?)
赤い点が。
一つ。
「・・・・・っ!」
その赤い点を見た瞬間に全員の顔が青ざめる。
「どこだ・・・っ!」
位置的には青い点の中央。ということは。
「下か!全員離れろ!」
その琉雨の言葉に弾かれるようにして後ろへ跳ぶと、四人の居た場所の地中からボコボコと黒いものがあふれたかと思えば、気づいたときにはそこには黒い人型のものが立っていた。
「手遅れか・・・っ!」
琉雨の悲痛な声に心を同調させて悲しくなりつつも、自分の命までくれてやるものか。
氷見はそう決心しなおして腰から折りたたみ式の槍を抜き出した。
「聖紋・・・かい・・・ほう!」
氷見がそういうと、既にわかれ場所の見分けのつかない程に同化した左足の義足の付け根の太もものプロテクターが勢い良く開いた。
すると体の重さがスッと取れる。
「久しぶりに・・・やりましょうっ!」
****
「いや、ね?これでも俺君たちを捕まえに来たんだよ?なんかね?そこの風大陸の少年のように驚くなり戦闘態勢をとるなりしようよ?」
インテリ風な顔をした火大陸のその男は、困ったように詩架たちに何故か頼んでいた。
「いやーだってよ。勘違いしてるかもしれないけどな?俺は基本的に争いごとは好きじゃないんだ。誰が好き好んで戦うかってんだ。疲れるし。」
うるさいな、とでもいいたげな顔をして、詩架は寝返りをうって言った。
「もともとさっきまでの仲間を必死に助けるどこぞの少年誌みたいな乗りのほうが異常だったんだよ全く。誰だよこんな展開にしたの。」
ジロ、と詩架は火大陸の相手を睨み付けて言う。
その視線に少し心外そうな顔をして、男は答えた。
「俺に言われてもな。というか俺の聞いた話では三人の筈なんだが。そこの白髪のお穣ちゃんは何なんだ?」
ナンパか?とその後に続く男の言葉をハイナの異常な視線で潰すと、ハイナはため息を吐いて答えた。
「少し体に蜘蛛の巣がはったんでの、ちょっとばかし暇つぶしに旅にでも出ようと思ってるのじゃ。」
そのハイナの言葉に詩架は事実は伏せるのか、とすこし意外そうにして口を開いた。
「何でも良いけどよ、実はお前も結構面倒なんだろ。実は。」
詩架のその言葉にためらいもなく頷く男。台無しである。
そのあまりにも気だるげな雰囲気にコトリも肩透かしをくらい、構えていた武器を下げる。
すると。
ブォッ!という炎が巻き上がる音が周囲を埋め尽くし、視界を炎の光が包んだかと思った次の瞬間には。
「おいおい、敵を前にして警戒を解くのは・・・まずくね?」
今にもコトリの首を貫かんとして突き出された敵の槍を左手で握りながら詩架は呆れながら言った。
「え・・・でも・・・え・・・?」
状況に思考が追いつかないコトリに、詩架は言った。
「ダルいって事は事実だが、いつ攻撃されても対応できるようにはしていたしな。お前はそこらへんもうちょっと分かってくれると、うれしいんだがなぁ。」
詩架は呆れたようにそういうと、握っていた相手の槍をパッと離した。
「しゃーねぇ。仕切りなおしだ。仕方ないけどこの少年誌の乗りに乗っかってやるよ。どうせ暇だしな。」
詩架はそう言って、コンタクトをしたままに剣を構えた。
「1on1だ、気障野郎」
****
「っらぁ!」
ヴン、と空気を切り裂いて礫の刀が影に襲い掛かる。
しかしその攻撃を後ろとびで交わされる。
「くそっ!氷見!仲間が居るかも知れねぇ!一瞬で片付けるぞ!」
礫のその言葉に氷見が頷く。
「コードレッド・アンチシャドウ発動!」
氷見が声高にそう叫ぶと、四人の装備している機会が一斉にけたたましくモーター音を響かせる。
「原子分散器の調子はどうですか!?」
氷見のその問いかけに、三人は好調だという意味をこめて頷く。
三人の頷きを確認した氷見は、突然右手を掲げた。
「この山を消し飛ばす勢いでやります!」
再びあの悲劇を起こすわけには行かない。
氷見が右手を掲げたのを三人が視認すると、あわてたように氷見の後ろに下がる。
すると。
氷見の右手に装着されたアーマーがカタカタと音を立てて展開を始め、1秒もたたずに巨大な砲台となる。
「出力最大!」
ヴィィィィィィィィィィィン
モーター音が聴覚の全てを占める。
「くらえええええええええええええええええ!」
ドゥン!という爆音と共に音速以上に加速されたエネルギーが影に向かって一直線に進む。
あまりの速さに攻撃をかわせなかった影に当たったその弾は影を飛散させ、そのまま直進する。
すると、エネルギーの塊が地面に接地した瞬間に、その爆発は起こった。
視界の全てが真っ白に染まった次の瞬間に、とてつもない爆風が来る。
はずだった。
「大丈夫か?」
光にやられてぼやける目を開けて見てみれば、そこには自身の左足を展開させてドーム状に全員を守っていた礫が立っていた。
「あ・・・ああ」
やはりこういうときに一番行動が早いのは礫か。
ある種の尊敬の意を持ちながら立ち上がると、礫に礼を言って言った。
「さ、て。今ので大体の確立だが消し飛ばしたはずだ。問題は・・・」
マスメディアか。
「奴らはいつでもゴキブリみたいに沸きやがるからな。」
三年前の取材攻めで完全にアンチマスメディアとなった礫が辟易したように言う。
「まぁ、正直私たちにもどうにも出来ない問題だし。どこから生まれるのかもどこから来てるのかも分かってないとは言っておいたしね。それに、再びくる可能性がある。って。」
「それはそうなんだがな。あと一つ疑問があるんだ。」
琉雨の疑問とは。
「何故、奴等は出現したのに障壁は出現しなかったのか、だ。」
障壁。
三年前にそれが理由で戦わざるをえなくなったの、だが。
「出てきて直ぐだったからじゃねーか?」
「それはあまりにも・・・やっつけだとは思わないか?」
琉雨のちょっと呆れたような答えに、以外にも悠介が答えた。
「いや、それは案外正解かもしれないよ。琉雨の事だし。多世界解釈っていう説は当然のように知っているよね?」
悠介のその問いに琉雨は頷いてつらつらと説明を始める。
「多世界解釈。エヴェレントだとか原子量とか色々専門的なことはあるが・・・まぁそんなことを言っても面白みはないだろう。この場合の説明として正しいのは言葉の通りに言うことだろうな。」
多世界解釈。
もはや一般的な説として出回るこの説は言葉の通り世界は複数あるというものだ。
たとえば三年前の災厄が起きた世界と起きなかった世界があったり。
または三年前に影の打開法が分からずに結局負けた世界があったりするわけだ。
つまり起こった事象に対して起こりうる可能性の数だけ世界があると考えてくれても良いだろう。
どちらにせよこちらからの一方的な力では観測は出来ないのだから。
「なんで出来ないんだ?」
礫のその問いに、琉雨は車の扉を使って答えた。
ウィーンと、窓を開けて琉雨は後部座席へと入って鍵を閉めた。
「簡単に言ってしまえばこの状態が世界間の壁だと思ってくれ。こちらの世界とそちらの世界。この場合はこっちにしか鍵は無いが実際はそっちにも鍵があると思ってくれ。」
琉雨はそう説明して礫に扉を開けるように促した。
「開けられるわけなくね?」
「だろう?つまりそういうことだ。こちらの協力の鍵を開けるという行為無しには違う世界への扉は開かない」
「そして実際にはこちらの世界にも内鍵があってそっちも同じ状況に・・・って事か。」
「ああ。」
しかし。
「でも、さっき世界に張り巡らせた生命に反応する反応装置に引っかからなかった詩架たちの出現と音声。確かにあのときには生命反応があったとリリは言っている。そして影の出現。」
「馬鹿なことを言うな、あれは違う世界だとでも言いたいのか?」
琉雨の鋭い眼光にひるみながらも、悠介はしっかりと答えた。
「馬鹿?何を言っているんだい?まず、三年前に僕たちが体験したこと自体が完全に現実離れしている。しかも今もほとんど同じ状況さ。壁が無いというだけでね。」
悠介はそう言ってから一呼吸置いて続けた。
「一つのファンシーが起こったなら、他の全てのことに対してファンシーを考慮すべき、というのは考えることじゃないのかな。」
その悠介のもっともな言葉に琉雨は歯噛みしている。
「ま、お前の現実主義も分かるが、残念ながらこれが現実だ。今のお前は自分の主義に反して、夢に生きてる。」
そんなものはあるはずが無い、という夢。
「それはただ単に夢。現実は違ったな。」
礫のその言葉に、琉雨は段々と肩を小さくしていく。
(ちょっと言いすぎよ。)
(いいんだよ、琉雨の奴にはこれぐらい言っても大丈夫だ。っつかこれぐらい言わないと、な。)
「分かった。じゃあ多世界への道が開いたとして考えよう。まず連中の出現条件がいくつかあったな。それを挙げよう。」
琉雨の言葉に、三人がしばらく思案した後に答えた。
「負の感情?」
「ああ。確かそうだったな。誰かしらが怒っている。または悲しんでいるときに良く現れた」
負の感情に反応するのは別に珍しいことではない・・・のだが。
「ということはこちらの扉をの鍵を開けたファクターが負の感情だという仮説は・・・立てられないか?」
「かなり強引だけどありえないことは無いね。」
「加えて言えば知っている限り影と最初に出会ったのは詩架と・・・」
「鈴・・・か。」
鈴という名が出たとたんに、全員の顔が曇る。
『あ・・・あの・・・たぶんお姉ちゃんはあんまりこういう風にしんみりして欲しいとは思いませんし・・・とにかく今は解決策を探しません?』
リリのその言葉に四人は励まされる。
「ありがとう。そうだな。まずは解決策・・・といいたいんだが。詩架が居ないとこの先は効率良くは行かないな・・・とにかく筑波山を洗うか・・・」
はぁ・・・と琉雨はため息をついて立ち上がって指示を出す。
「氷見は原子分散器の充電と掲示板への書き込み。悠介は魅麗姉妹を連れてきてくれ。」
「うん。」
氷見の快い返事とは別に、悠介の顔は曇っていた。
「僕はあの二人苦手なんだよね・・・・」
「どんまい。」
ケラケラと笑いながら悠介の方を叩く礫に、琉雨は冷たい宣告をした
「君は麓から山頂に向かって隈なく頼んだぞ。」
「うへぇ・・・・」
次は礫が肩を叩かれる番だった。
最後まで読んでくださってありがとうございます。
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