第三幕 第六節:決戦Ⅰ-Ⅱ
ゴン、ゴン
転げ落ちてくる大理石に見向きもせずにハイナは一点を見据えた。
空を埋め尽くすほどの。
影。
「まさか・・・・・」
呼ばれた、とでもいうのか。
レギンの叫びに。
恐らくそうだろう。
なぜならばその空を埋め尽くす影の中央にはレギンが居るのだから。
これは・・・無理だ。
心の中にそのあきらめの言葉があふれかえる。
何時かのように。
勝てるわけが・・・ない。
魔法を発動させた当初より格段に増えている影を前に腰が抜けたのか、立とうにも下半身に力が入らない。
カクカクと笑う足を止めることも出来ずに呆然と座っている事しか出来ない。
もう、何も出来ない。
大量の影に影響されて、なのか、ハイナの心に諦めという言葉があふれ出す。
が。
「何をしているんですか!救世主!」
ダン!とエントランスの扉を開けて勢い良く入ってきたのは、地大陸の親衛隊隊長だった。
それに続き、地大陸の最初に私についてきてくれると言ってくれたメンバーたちが続々と侵入してくる。
23人の仲間達。
しかし。
「逃げろ!今すぐに!おぬし達では奴ら相手に一分と持たないぞ!」
ハイナがそう言って仲間たちを逃がそうとするが、一番非力な従者が一言叫んだ。
「今まで助けてくれた人間が困っているときに!逃げられるほどに!腐った槌はもっちゃあいませんよ!」
恐らく自分も恐怖で駆られているだろうのに。
それでも彼らは私を。
ハイナが生気を取り戻したように立つ。が。そのとき、大量にいる影の中の一体がその叫んだ従者に襲い掛かった。
「ま・・・っ!」
渾身の力でその影を止めるべく飛び掛るが間に合わない。
ここで私は・・・っ!
一瞬で自責の念に駆られるが、その悲劇は訪れなかった。
フワッと優しいかぜが吹いたかと思えば次の瞬間には、従者に襲い掛かった影は遥か彼方に吹き飛ばされたのか。視界から消えていた。
「全くいい仲間を持ったものだな。お前も。」
ツカツカと歩むその凛々しい姿は、かつて戦場を駆け抜けたその勇士と全く同じ。
「レイグ!」
「さぁ、この魔法が出現したのは私達のも原因がある。というか大方私たちの所為なのでな。協力させてはくれまいか。」
レイグの背後から出現した王は、いつもの礼服ではなく。本気だという雰囲気が滲み出る戦闘服に身を包んでいた。
「さぁ、最後の戦いだ・・・っ!」
****
「ハァ・・・ハァ・・・きっつ・・・」
あふれ出る汗を右手でぬぐいながらホレイムは悪態をついた。
「まったくね・・・」
アクルアもそれに賛同しながら、長い階段を上る。
何故先ほどの魔法を使わなかったのかという問いには容易に答えられる。
粉塵爆発。というものをご存知だろうか。
ある一定の空間に一定以上の粉塵が溜まった状態で火花が散ると爆発するというものだ。
使い方によってはかなり便利なものなのだが、この場合はそれは嫌な現象となる。
何故なら、乾いた土で構成されたこの神塔はわずかな風を起こせば一瞬で一寸先も見えないほどの土が舞う。
地属性の人間が居れば話は別だろうが、そうはいかないのが現実だ。
そして鎧と鎧がぶつかって火花が散れば最後、神塔は台座もろとも吹き飛ぶだろう。
だからこその足で歩くという行為なのだが。
残り2m程だからすぐなのだが。
それまで、ハイナ達は耐えられるだろうか。
****
ドドドドドドドドドドドドドドドド
息をつく間もないほどの連激を可能な限り捌く。
ハイナは剣だけだが、ヒナ王とレイグは風も使ってハイナの三倍以上の攻撃を捌いている。
ホレイムたちは最後の宝玉を納めに言ったとのことだ。
おそらく粉塵爆発の可能性を考慮して歩いているはずだ。
だとすれば恐らく・・・
ハイナがそこまで思考をめぐらせていると、右手に付けていた腕輪がボウ・・・と光り始める。
「来た!」
ハイナが声高くその言葉を発すると、守勢一方だった仲間達の士気が一瞬で跳ね上がり、攻勢へ転じた。
「さっさと帰って寝させろやあああああああああああ!」
そんな言葉を発しながら突進する近衛兵たちの無事を祈りながら、こちらは影を異世界へ飛ばす転移魔法を唱える。
ブツブツと長い呪文を唱えながらできないことは無いかと必死に探るが、今は仲間達に任せるほかにない。
そしてハイナが長い詠唱呪文を唱え終わると、ハイナは再び叫んだ。
「開けえええええええええええええええええええええええええええええええええええ!」
右手を掲げながら叫ぶハイナのその叫びに呼応するように、地面からゆっくりと巨大な扉が出現する。
異様なまでのその雰囲気にこれは本当に求めていた希望の扉なのか、と勘ぐるが、ゆっくりと開くその扉はとてつもない勢いで影たちを吸い込んでいる。
否、影がそちらへ好んで飛んでいるというべきか。
我先にというように扉の向こうに飛んでいく影達を全て見送ると、ハイナはペタリと地面にへたり込んで勝利の雄たけびを上げた。
「勝った!勝ったんだ!この戦いに勝ったああああああああああああああああああ!」
ハイナのその言葉に、やっと影との戦いが終結を終えたことを理解したのか、仲間たちが雄たけびを上げる。
「う、う、うおおおおおおおおおおおおお!」
ある者はむせび泣き、ある者は呆然として、ある者はテンションのあまり踊り始めるという異様な光景だった。
が。一方でレイグの顔は優れなかった。
(あの見覚えのない光景は恐らく異世界。異世界に影を飛ばしてしまって良いのだろうかということもあるが・・・何故、四大陸の神程度の力で開けられたんだ・・・?程度というのもおかしいか。言い換えれば何故、この”世界”からの干渉だけで異世界への扉を開けることができたのか・・・?)
それは言及しても仕方のないことだ、とは分かってはいるが、気になる。
そして更に言えば一つ心当たりがあるが・・・今はこのまま喜びを味あわせておこうか。
それに一概に悪い知らせとも言えない。
何故なら。
出力の足りない扉を開ける力の後押しをしたのは、この先の希望に満ちた人々の記憶。であろう推測が出来るからだ。
何故記憶なのか、と?
それは簡単だ。
記憶には、その人間の持った感情の全てが詰まっている。しばらく思い出せなくなるかもしれないが、おそらくしばらくたって記憶の感情が復活すれば。
この先の平和がいかに大切なものかわかって尚、平和を大事にするであろう。
知っているか?
思い出補正。
という言葉を。
最後まで読んでくださってありがとうございます
締めはどうでしたか?
なんか記憶失うの無理繰りじゃね?とか思うかもしれませんが、一応理由とかもあるので!納得できる理由かどうかはかなり不安ですが!
いつまでたっても過去編なのはちょっとあれなので次は少し現代編をやってからまた過去編に飛ぶ予定です。ではまた!
感想評価ありましたらよろしくお願いします。




