第三幕 第三節:御伽噺
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・まるで御伽話だな。」
パタン。
とアクルアに手渡されたレポートの中のエクリプス・マギカの起きてしまった原因となった事を記した部分を読み終えてホレイムはふぅ、と一息吐きながら言った。
どーなってやがる。
ぐるぐるとまとまりのつかない思考を一生懸命に纏めようとするが一向に成功する気配がない。
次章はこれから解決していく話となっているが今は読む前に整理をつけたい。
私たち生まれる前、なんていう昔の話ではなく。
三年前にやっと終わりを告げた長い長い戦い。
それはつまり私も身をもって知っているはずの戦いだ。
何故、この大陸の広さに比例せずに住民が少ないのかと思っていたのだが、こんな背景があったとは。
ホレイムはパラパラとページをめくって一番衝撃的だった事が書いてあったページにさしあたって指を止めた。
エクリプス・マギカによる死傷者。
約 1500万人。
1500万人。
何度見てもそれは私の心に衝撃をもたらす。
1500万人。
今の人口はおよそ三千万人と言われている。
ということは。
三分の一が三年前に終わりを告げた、そしていつから始まったか分からない戦いではなく。
一つの魔法によって命が奪われていったのだ。
許す許さないと言う問題ではないのではないのだろうか。
これはもうその次元を超越しているきがする。
さらに言えば。
褒めるべき人間はいても、責めるべき人間は、もう、いない。
そこまで思考をめぐらせたところで大きくため息を吐くと同時に部屋の入り口の戸が控えめに叩かれた。
「なんだ?」
思考を強制終了させられたために少し苛立ちながら聞くと、さらに不快な単語を聞かせられることになる。
「チェイサーズの送出式が始まります。顔を出したほうがよろしいかと。」
チェイサーズ。
何かあったときに動く評議会”の”親衛隊だ。
実際は風と地の大陸の奴等に占有されているも同然だけれどな。
今回の送出だって私とアクルアは反対したのにもかかわらず、多数を取れない場合はその決議を見送ると言うルールを無視して送出という話に持っていかれたのだ。
若輩者。
その言葉がホレイムを苦しめる。
「年がちょっと若いからってなんだってんだ・・・」
一応貸しを作るという意味でも送出式には出席してやるか・・・
心の中で方針を決めると、再び深くため息を吐いて立ち上がった。
なんとか、彼らにこの状況を伝えなければ。
****
「これが、エクリプス・マギカが発動した時の状況とそのちょっと後の話じゃの。」
ハイナはさらりと言うがその状況は詩架や由佳にはいやと言うほどに伝わった。
いや、記憶がよみがえったと言うべきか。
視界にちらつく凄惨な光景を頭を振って振り払うと、ハイナに続きを話すよう促した。
その詩架たちの行動に何か気づいたのか、物悲しげな顔をしてハイナは頷いて口を開いた。
「立ち上がったわしらは、先ず戦争を止める前にエクリプス・マギカを封印することを目標として動いたのじゃ。」
****
部屋の前でどうしてもすくんでしまう足を無理やり動かして凄惨な光景が広がる部屋へと押し入る。
再び目に入ったその光景に催してしまう吐き気を噛み殺してエクリプス・マギカを発動させると言ってから魔法師たちがひたすらに読み漁っていた文献をすべて抜き出すと逃げ出すようにしてその部屋を後にする。
「これがエクリプス・マギカの詳細じゃ。」
そういって兵士たちの前に現れたハイナが取り出したのは分厚い本に挟まれていた藁半紙だった。
それを兵士たちに回すようにして見せると、ハイナはそれを読み上げた。
「エクリプス・マギカ(日食の魔法)と呼ばれるこれは、人の悪意をえさにして成長する自立型の魔法生物である。」
そのハイナの一言に、兵士たちが小さくどよめく。
いつもなら静かにしろと一言言うところだが、内容が内容だけにその気持ちは痛いほどに分かるためにそれを流す。
「対抗策は、無い。」
大きな文字で書かれているところを見ると、どう試行錯誤してもこれには勝てないという傲慢な意思が感じ取れる。
どうしてここまで馬鹿なのか。
思わず頭を抱えたくなったときに一人の剣士が手を上げて発言した。
「ハイナ様。霊光の地の伝説というのはご存知ですか?」
その言葉に小さいころに母に教えてもらった神話を思い出す。
しっかりと内容を思い出せたので頷くと、兵士は続けた。
「あの霊光の地の伝説は実際にあった事なのではないのでしょうか。火の無いところには煙はたたないといいますし、それになにより。」
その男がいったんそこで口を噤むが、ハイナにはその先に出るであろう言葉が安易に予想できた。
「魔法の専門知識も無いわし達がすばやくたどり着く唯一の方法・可能性。ということじゃな。」
「ええ。」
ハイナの言葉に兵士が頷くと、周囲の兵士からも賛同の声が上がった。
「まぁ静かにせい。確かにそれが一番有力ではあるが、宝玉を戻す必要があるだろう?それはどうする?」
ハイナの言葉に兵士たちはあっと口を閉じた。
今は四大陸がすべてバラバラになっており、それぞれ敵国の宝玉を持っている状況だ。
確か火大陸は水を、水は風を、風は地を、地は火を。
エクリプス・マギカを打倒するという名目で話しかければ応じてくれるだろうが恐らく私たちでは無理だ。
何故なら。
エクリプス・マギカを発動させた本人だからだ。
恐らく懸命に部下たちの暴走だと言うにしても信じてはもらえないだろう。
経過はどうあれエクリプス・マギカが発動されたのは事実なのだから。
ここで再びハイナは頭を抱える事になる。
どうすればいいんだ。
どうすればいい・・・!
脱出口が閉じられたと思ったその瞬間だった。
バタン!と広間の戸が乱暴に開けられた。
「話は聞かせてもらった!」
どこかで聞いたような芝居かかったその言葉を口にしながら現れたのは。
火・水・風大陸の男女六人だった。
敵国ともいえるその六人の出現に兵士たちが一斉に武器を構えるが、相手側には敵意が無いことがわかるとハイナは武器を下げさせた。
「何者じゃ、うぬら。」
ハイナが問うと、芝居がかった台詞を吐いた火大陸の女性が真っ先に、そして次いで水大陸の女性が自己紹介を始めた。
「私はホレイム・ハイミア。」
「私はミル・アクルア」
二人の女性が名乗ると、他の人間の自己紹介を待つ前にホレイムと名乗った女性はニヤリと笑って言った。
「な~んか楽しそうなことになってンじゃねーか?」
****
「いやいやいやいやいやいやいやいや」
先ず反応したのはコトリだった。
それもそのはず。
ある種の神話ともいえるハイナの話に出てきたのはあの軽薄なホレイムと冷静なアクルアだった。
今あの地位にいるのだからそれなりに何かしたのではと思ってはいたのだがまさかこの話に出てくるとはおもわなんだ。
意外な展開におどろいていると、ハイナが続きを早く話してしまいたそうにしているのでその先を促した。
これは確実に俺達の世界に関係しているはずだ。特に三年前のエクリプス・マギカを終わらせた瞬間が。
****
闖入者たちはツカツカと兵士達を掻き分けてハイナのそばへ寄ると、ゴン!と拳で頭を叩いた。
その行動に兵士達が武器を構えるが、ホレイム以外の仲間がそれを制するように武器に手をかける。
「安心しろ、殺しはしないさ。ただ一言言いたくてな。」
ホレイムは肩越しに兵士達を見ながら言うと、再びハイナに向き直って簡素なドレスの襟をつかんで引き上げた。
「よぉお嬢ちゃん。でかい頭が今の一撃で割れて軽くなったんじゃねーか?」
ホレイムが言うと、軽く涙目になったハイナが不平そうな顔をしてホレイムをにらみつけた。
「おーおー良いねその顔。アンタ女王なんだろ?こいつら統治するんだろ?だったらよ。」
ホレイムは兵士達をあごで指して言った。
「すべては私がなんとかするぐらいの意気でやれよ。他の国が協力してくれないなら捻じ伏せろよ。独裁?んなこたしるか。経過がどうだろうと結果がすべてだってのはお前が一番しってんだろ?この魔法で分かったはずだ。だったらよ。」
ホレイムはそういってハイナの額を指で弾いて続けた。
「宝玉を各大陸から奪い取ってもとの位置に戻して、この魔法をとっとと終わらせちまえばいいんだよ。」
ホレイムのその言葉にハイナは顔をしかめて答えた。
「わしはできるだけ流血させたくないし、それになによりやるにしても兵力が足りないじゃろ。」
しかめっ面でそういうハイナにホレイムは笑ってこういった。
「ばっかやろう計画を進言したんだからそれなりのことは考えてるさ。はいってこいよ!」
ホレイムがそういうと、広間のすべての扉から各大陸の大人から子供まで、男性女性問わずになだれ込んで来た。
「んな・・・っ!」
その圧倒的な数、そして不可解な行動に目を丸くしていると、ホレイムが答えた。
「もともとお前らがわざと・・・というより悪意を持ってやろうとしてたんだったら今すぐに乗り込んで切り刻もうとしてたんだけどな。」
ホレイムがそういうとハイナは顔を暗くしたのだが、ホレイムのその後の言葉に顔を上げることになる。
「今の話を聞いて急に方針が変わってな。確かにお前の年じゃ回りも言う事を聞いてくれなさそうだしな、それに何より現段階で一番解決に向かっているのは、停戦に積極的なのはお前のようだ。加えていうなら。」
お前が良人格ってのは割りと広まっていてな。
あの魔法が地大陸発だってのを聞いたときにはここに居た全員が驚いたもんさ。
もともとお前がやっただたなんて思ってない。
ホレイムのその言葉にハッと顔を上げると、そのなだれ込んで来た民衆のなかには見知った顔が多々あった。
戦が始まって、城に居ると逆に危険というときに他大陸に行ったときに腹をすかせていた一家や、お金に困っていた一家。
ハイナが気まぐれ・・・と言う言葉は少し語弊があるだろうがそのような意気で助けた者たちが一斉に顔を揃えていた。
いやはやまったく。
親切は人の為ならず。
だったか。
まったくそのとおりだ事。昔の人間はこんなことも分かっていたと言うことなのか。
敵わないな
最後まで読んでくださってありがとうございます。
来ましたお得意超展開。
一応は元々かんがえていた展開だったんですけどね、なんか実際書いてみると超展開にしか見えませんよね。
感想・評価ありましたらよろしくおねがいします




