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第二幕 第十節:悪い予感

男が飛び込んできた後に聞こえる悲鳴に弾かれるようにして建物を飛び出すと、そこにはおよそ人と同じような大きさの黒い縦長の物体が居た。


「なんなんだ・・・これ・・・」


こいつ、と言うことすら可笑しく思えるようなその形状のものは、ゆっくりと、しかし着実にこちらへ向かってくる。


その余りにも現実離れした、しかし三年前と似たようなこの状況に呆気にとられ動けずに居ると、後ろからの鬼の女性の叱責によって我に変える。


「死にたいのかっ!」


全身の力を振り絞って発したその言葉に我に返った詩架達四人は一斉に踵を返して鬼の女性の居る方向へと走り出す。


と、同時に。


ビチャ、という水しぶきが奔る音を伴って影が一直線に迫ってくる。


速い!


肩越しに姿を確認したときには既に距離は5Mほどまでに迫っていた。


「いつもはあてもなく破壊を続けるだけなのに・・・!」


鬼の彼女にとっても予想外だったのか、隠しきれない焦燥の表情が滲むその声を聞いて逃亡の走りを続ける足に更に力が入る。


が。


ゴッ!という地面が砕ける音がしたかと思えば影は由佳の体を通過した。


「え・・・?」


予想外の展開に思わず由佳が足を止めて自らの体を確認するが特に以上は無いのか首をかしげている。


その由佳の様子を確認して次いで影の居場所を確認すべく視線を戻すと、詩架の1・2mほどの距離に佇んでいた。


一体、なんなんだ。


その言葉が全身を縛る。


逃げるべきなのだろうがしかしスピードでは実体を持たない奴のほうが上だ。


ならば戦うのか?  いや、さっきも言っていたではないか。


実体が無い為に、物理攻撃は効かない、と。


万事休す。


再びその言葉が脳裏に蘇ると、危機感に埋もれた思考に水を浴びせるように甲高い声が聞こえた。


「ヘル・ゲート!」


何事かと思いその声の方向へと視線を向けると、そこには人の姿は無く、とてつもなく大きな扉が一つあっただけだった。


扉が何故、というのも十分に驚くに値する事なのだがそれ以上に驚いたのは。


何故、その扉に聖紋が描かれているのか、という事だ。


しかしその驚きも次の事実に打ち消される。


バタン!と大きな音を響かせて扉が開いたと思うと次の瞬間には一瞬で影がその扉にすいこまれそして同時に。


『詩架さん!由佳さん!今何処にっ―――――!』


大きな声の呼びかけの途中でブツッと途切れたその声は聞きなれたあの無機質な声。


笠花 リリ のものだった。


そしてその声が聞こえた途端に段々と頭の中のばらけていたピースがはまっていく音が聞こえるかのような錯覚を覚える。


まさか。


これは――――――





****



時をさかのぼる事一時間。


笠花孤児院中庭。


「つまり詩架と由佳が行方不明。そして嫌な予感がするために笠花を再起動した。と、そういう事か?」


琉雨のその詰問するかのような鬼気迫る表情での問い詰めにたどたどしく頷く。


悠介のその様子にため息をつきながらこめかみをおさえて琉雨は二・三確認したいことがある。と言った。


「奴等は最近来るのか?」


この場合の奴等、とはKASAHANA.projectの技術を欲しているRAINという企業だ。


その言葉に礫が首を振って答える。


「いんや、奴等何故か最近めっきり来なくなってな。せいせいした所さ。」


礫のその言葉に琉雨は疑問を覚えた。


三年間執拗に技術を狙ってきていたRAINがそう簡単に技術を諦めるとは思えない。


それならばRAINが詩架達を攫ったと考えるべきか・・・?


しかしそう思ってからその考えを捨てた。


連中は技術を良心的に使うということを前提にいつも交渉に来ていたはずだ。


そういうことは無い・・・と思いたいものだ。


琉雨はそう考えると悠介に二つ目の疑問を投げ掛けた。


「何故、リリを起こしたんだ?」


リリ。


そう呼ばれる少女を語るのはすこし長くなるだろう。


いやすこし、と言うレベルではない。


過去の災厄の事から全てを話す必要がある。


なのでそれはしばらく後で語るとしよう。


「何故、もなにもリリがいなきゃ分析も何も出来ないだろうが。」


礫のその言葉に琉雨は食って掛かった。


「なにもリリを起こさずとも――――『詩架さん!由佳さん!今何処にっ―――――!』」


突如襲った大音量のリリの声に無理やり会話を中断されてすこし顔をしかめながらリリに問いかける。


「どうしたんだ?」


『詩架さんと由佳さんの反応が・・・あったんです。』


あった。


「何故過去形なんだ?」


琉雨のその問いかけにすこし気落ちしたような声色でリリは答えた。


『すいません・・・一応と思って世界中に張っておいた生命関知に二人が突然引っかかって直ぐに消えてしまったのです・・・』


その台詞を聞いて、琉雨は確信した。


「場所も特定したな。」


その事も。そしてその先に続くであろう言葉も。


『ええ。琉雨さんには全く敵いませんね。その場所は―――筑波山の胎内巡り。あの災厄の、始まりの場所です。』


その言葉を他の無線機を使って聞いていた礫や悠介も同じように表情を凍りつかせた。


まさか。


悪い予感とは言ってもここまでに・・・・


ここまでに当たってしまうものなのか。


そう思って頭を抱えそうになった三人の居る部屋の入り口に立つ氷見は青ざめた顔をして言った。


「筑波山に肝試しに行った二人が、行方不明になったって今ニュースで・・・」


その言葉を聞いたとたんに悠介は耐え切れなくなったように口を押さえてトイレへと駆けて行った。


私もそうしたいぐらいだ。


まだ筑波山の胎内巡りの場所だけならいい。


しかしそれに加え、同時に二人の行方不明者。


そして悠介の悪い予感。


これはもう。無視できない。


あの災厄の再来だけは絶対に、防がなければ。

最後まで読んでくださってありがとうございます。


これで二幕は終わりです。

次の幕では過去編を中心に進んでいくつもりです。

なぜ悠介の予感をそんなに重要視するのかというのも分かってくるのでし過ぎない程度にご期待ください!


感想・評価ありましたらよろしくおねがいします。

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