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第二幕 第九節:再開と出会い

ヒュッと空気が圧縮された次の瞬間には、圧縮された空気が砲丸のように詩架たちを襲う。


音速で襲い掛かるソレの音が聞こえた瞬間にはわき腹に重い衝撃が襲い掛かった。


「グッ・・・」


あまりの衝撃と痛みに声をあげる事もできずにひたすら耐えるとしばらくの押し合いの後に砲弾が消失する。


何が起こった・・・っ


あまりの激痛に断続的にしか回らない思考を無理やり繋いで考える。


音と同時に衝撃が来た、ということは。


音速の攻撃・・・?


攻撃の正体なんざこの際関係無い。


分かった事は唯一つ。


この攻撃をかわし続けるのは無理、ということだけだ。


音に頼りきりな今なのに、音が聞こえた時には手遅れと言うのは詰みだろう。


痛みからなのかこの状況からなのか分からない冷や汗を拭い取り対策を練っているとスタスタとこちらへ歩み寄る一人分の足音が聞こえた。


二足歩行・・・?


てっきり四速歩行の獣かとばかり思っていた詩架は予想外な展開にすこし驚くが直ぐに痛むアバラを抑えながら警戒する。


何時跳びかかってきても最低限致命傷だけは避けられるようにという程度の気概だったのだが、事実は詩架の予想の更に上を言った。


「お前達・・・影、ではないのか。」


「は?」


まさか正体不明の敵が言葉を喋れるとは思わなかった詩架は呆気にとられてそう言った。


詩架たちが言葉を喋った事を確認すると、声の主は詩架達が視認できる距離まで近づいて詩架に手を差し出してばつが悪そうに言った。


「すまない。君達の事を影だと思っていたのだがどうやら違ったようだ。もしよろしければ手当てをさせてくれないか?うちには打撲傷なら直ぐに治る薬がある。」


地大陸の住人とは打って変わって巨大な体を持つ・・・といっても慎重170cmほどだろうか。その女性が大きなフードを取りながら詩架にそう言った。


「それは・・・助かる。」


状況が飲み込みにくいがしかし目の前の人間が敵ではなさそうな事は確かだ。


それにおそらく影、というものが今回の討伐目標だろう。それの情報は少しでもあったほうがいい。


詩架はそう心の中で決めると三人に目で合図して女性についていくことに決めた。


****


「鬼?」


由佳がそう言うと詩架達を案内した女性は頷いた。


「そうだ。私達はいわゆる鬼という存在でな・・・」


女性はそこまで言うと、チラリとコトリのほうを見て詩架に一言耳打ちした。


「どうもずっとキラキラした目で見られるとやりずらいんだが・・・・」


女性のその言葉に詩架がコトリの方へ視線を飛ばすと、女性の言うとおりに目を輝かせていた。


なんだありゃ。


心の中でそう疑問に思いながらも、女性の言葉を伝えると直ぐに大人しくなる。


垂れる尻尾が見えるようにしょぼんとしてしまったが。


そんなコトリの様子にすこし気がかりそうな表情をするが、詩架が話の先を促すと女性は頷いて続けた。


「そうさな。事の起こりは記憶が始まった示憶と呼ばれる三年前なんだ。」


彼女はそういうと顔をしかめて続けた。


「三年前、私達の町だと刷り込まれていた街・・・刷り込まれてっていうのは何か変だな。愛着があった、と言っておこうか。その街に黒い正体不明のモノが現れたんだ。」


女性はそういってなにか気持ち悪いものに触ったようなジェスチャーをした。


「襲い掛かってくるやつらに攻撃を仕掛けるけど一向に物理攻撃は当たらないんだ。風大陸の連中に援護にきてもらったんだが淀んだ地下では浄化の風も使えないらしくてな。しばらく戦ってたんだがこちらの攻撃は当たらない。なのに相手の攻撃は喰らうという理不尽な状況でな。限界が来た為に逃げたんだよ。」


女性はそういうとレギナへ向き直って頭を下げて続けた。


「あの時はすまなかった。皆気が立っていてな。謝ってすむような事じゃないとは思うんだが謝らせてくれ。」


彼女のその誠意ある、と受け止められる行動をレギナは笑って受け止めた。


「そんな、謝る事はないですよ。貴方達も色々とつらかったんだろうし、それに私達が上にあわてて行ったときもけが人もなかったですし。むしろ貴方達には外に出るきっかけをくれたことを感謝したいぐらいですよ。」


レギナの寛容なその答えに感激したのか涙ぐむ彼女だったが、詩架達はそんなある種の感動ともいえるやり取りに興味を示さずに質問を投げ掛けた。


「悪いがこっちの話を優先させてくれ。その影とやらの形状は?数は?」


空気が読めないともいえる詩架の質問に感動のシーンを邪魔するその言葉にすこし驚きつつも鬼の一族と自分を紹介した女性は事態の重さを把握しなおしながら答えた。


「形状は無い。」


「無い?」


「ああ。やつらは自由自在に姿を変えることが――――――」


鬼の一族の彼女がそういい掛けたそのタイミングで、詩架達の居る家の玄関を勢いよく開け放つ影が飛び込んできた。


「影が・・・きやがった!」


鬼気迫る表情でそういう男性はすでに、右腕から血を流していた。









****



詩架達が地下にて謎の敵と遭遇したのと同時刻。


「リポップ。」


小柄な少女が小声でそう言うと、何処からとも無くイヤホンコードが出現する。


そのコードの元をたどってポケットの中の携帯音楽再生機を取り出すと、いつもの好きな曲を流す。


段々と音が大きくなりテンションの上がるその曲に合わせて自転車のサイクルスピードを段々と上げていくと、同じ学校に通う集団が追い越し際にこちらへ声をかけてくる。


琉雨るうさんじゃん、どうしたの?」


部活の帰宅途中なのか、学校指定のウィンドブレイカーに身を包んだ少女達が声をかけてくるので、イヤホンを片耳外して答える。


「あぁいや、そろそろ米が尽きそうでな。買出しだ。」


ありのままにそういうと、私に用を問うた少女は感心するように唸った。


「学校一勉強が出来てそのうえ家事もできるなんて、もう琉雨さんに敵う人は居ないね!」


明るく快活にそういう彼女に苦笑をしながらそんなことはない、というと、少女は右腕の腕時計を見て焦ったように自転車の速度を上げた。


「ご、ごめん塾に行かないと!またね!」


腕を振って別れの挨拶をしながら去っていく少女を見送ってスーパーへの道へ入る脇道へ進入する。


確かに。


確かに学校一勉強は出来る。テストの順位も一位だ。


これを口で言うとなんだこいつと言われると分かりきっているので口には出さないが、正直勉強と言うものは生きていくという上では無意味だ、という事が三年前いやと言うほどに理解させられた。


お得意の物理の知識は常識ハズレの存在に潰されるし、数ある数学の公式も戦闘の上では役に立たなかった。


琉雨が心の中で三年前の死闘を振り返っていると、心の中に先程の少女の言葉がよみがえる。


『もう琉雨さんに敵う人は居ないね!』


その言葉にそんなことはないといったのは謙遜でもなんでもない。


事実、あいつには全く敵う気がしないしな。


勉強が出来るのと頭がいいのは別の話、というのは詩架と出会ってからいやと言うほどに思い知らされたものだ。


三年前のあの勉強が全て、という考えの時はもちろん自分がリーダーになるものだとか傲慢になっていたものだが、奴がリーダーのときと私がリーダーの時の動きの早さの違い、動きの効率の良さは格段に違った、と言っても過言ではないだろう。


そこまで琉雨が思考を馳せていると、ふと携帯に何か連絡が来ていないか気になり右腕に収納された携帯を取り出す。


右腕を失った少女、とは私の事だったりする。


忘れたい過去の失敗のせいだけれどな。


そんな事を思いながら左手で携帯を開き、数ある新着メールから見慣れたメールアドレスのものを抽出して開く。


「なんだ?大量に来てるな。」


礫からのメール数 20


悠介からのメール数 15


どういうことだ。と疑問に首をかしげながら一番古いメールを開いてみると、そこには衝撃的な事実が記されていた。


『詩架と由佳が消えた。連絡ください。』


焦りのあまりかいつもの敬語がきえかかった悠介のそのメールに思わず自転車を止めて何があったのかと次のメールを開く。


するとそこにはさらに驚きの事実が記されていた。


『KASAHANA.project 起動しました。 :笠花 リリ』


そのメールを見て驚きのあまり眩暈を感じ、吐き気を催してしまう。


絶対に起動させないと誓った、けれども自分達の手から離れさせてしまうには余りにも危険な技術の集大成。


”KASAHANA.project”


これが起動したということは、三年前の災厄に匹敵する事象が起きようとしているのか。それに・・・


琉雨は驚きを隠せない動きでメールの最後に書かれた文字を見た。


笠花 リリ


彼女が、起きたのか。


その事実をしっかりと脳にやきつけた琉雨はゴムを削らせてUターンして孤児院へと急いだ。


自転車ではおよそ一時間。


遅い。


そう頭の中で思ったときには既に無意識のうちに聖紋開放コードを唱えていた。


一刻も速く、かつての仲間に出会う為に。

最後まで読んでくださってありがとうございます。


こういうかつての仲間達が集合するのってなんか良いですよね。


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