第二幕 第八節:依頼
いつぞやの災厄の時と似た状態にもどりつつある周囲の状況に慣れてきた体は、睡眠から覚めた瞬間に体のだるけは吹き飛ぶ。
コキコキ、と肩を鳴らすと、枕元においていた剣を手にとって整備を始める。
整備と言っても本格的なのは昨夜済ませたために流し見するだけなのだけれども。
特に異常がない事が分かり、剣を柄にしまって近くのベットから聞こえる物音の方へ視線を向けると、コトリが起きて寝ぼけ眼を擦っていた。
「詩架さん・・・起きるの早いですね・・・まだ朝五時ですよ?」
コトリのその言葉にすこし苦笑しながら答える。
「習慣、かな。」
詩架がそういうと、コトリは何か好奇心を持ったような顔をして詩架に聞いた。
「そういえば、詩架さんの世界ってどんな世界なんですか?由佳さんの話も途中で終わっちゃいましたし。よければ教えてくれませんか?」
コトリのその言葉を聞いて、由佳に視線を移すがまだ彼女は目が覚める雰囲気はない。
仕方ない、俺が説明するか。
詩架は心の中で小さく面倒そうにため息をつくと口を開いた。
「俺の世界では技術が発達していてな。それはもう20階建ての建物なんてのもザラさ。テレビっていう映像を映し出す機械もあるし人間の形をした自動で動く機械もある。歩かなくてもいい技術なんかもな。」
詩架がそう言ってもとの世界の説明をしていると、しばらく目を輝かせながら聞いていたコトリはふと首を傾げて、というよりもすこし顔をしかめて詩架に聞いた。
「と、いうことはやっぱり戦争とかではそういう先端技術が使われているんです・・・か?」
聡いな。
詩架はコトリのことをすこし見直して言った。
「確かにそうだな。だけど今の世界は平和なもんさ。一部を除いてな。」
一部。とはこの場合は内戦の起こっている国々の事だ。
しばらく災厄の事は伏せておく。
「一部・・・ですか。」
そこから先は踏み込まない方がいいと判断したのか、コトリはそれだけ言ってそれ以上の言及をしてこなかった。
すると会話が終わるのと同時に由佳がむくりと上半身を起こして寝ぼけ眼を擦って二人に「おはよう」と言って枕もとの槍を確認する。
まぁ、そういう流れになるよな。
コトリは驚いているような顔をしているが実際俺たちはいつもこんな生活だった。
交代で寝て起きた時には異常がないかを見渡してから武器を確かめる。
そんな生活だ。
そうして過去の記憶を思い起こしていたのだがその思考は部屋をノックする音に遮られた。
「王がお三方を呼んでいます。」
いよいよか。
由佳の武器点検が終わったことを確認するとこの部屋へと案内してくれた時と同じ執事について王の居る部屋へと案内される。
ガチャ、とドアノブを回して入室すると、そこには大きな広間の中心にこれまた巨大なテーブル。そしてその上には豪華絢爛という言葉がぴったり当てはまるような食事が所狭しと並んでいた。
元々食べることが好きで今にも飛びかかりそうな由佳を腕で軽く制しながら王の姿を探す。
部屋を二巡三巡と見渡すと、今詩架たちが居る扉とは違う扉から王がゆっくりと入ってくる。
そして王も同じく詩架たちのことを視線で探し当てると、王はにこやかに笑って椅子に座って食べ物を食べるように促す。
「腹が減っているだろう?すこし厳しい依頼をこなして貰いたいからな。とりあえずエネルギーをたっぷりと貯蓄するといいだろう。」
伸びたあごひげを撫でながらそう言うレイギナにはなかなかどうして王の威厳というものが感じられる。
そんな事を思いながらとりあえず山積みにされた唐揚げに手を伸ばす。
そういえば唐揚げなんて久し振りに食べるな。ってか唐揚げってなんか王宮に出されるような食べ物じゃない気がするんだが。
なんてことを思いながら上手く揚げられた鶏肉をたべていると、ひとまず皿に盛った一種類の料理を食べ終えたレイギナが口を開いた
「食べながらで構わないから聞いてくれ。といっても君たちはそういう上下関係はいい意味でも悪い意味でも気にしない人間のようだけれどね。」
悪かったな。
詩架のそんな心の中の毒づきにも気付かずにレイギナは話を進める。
「君たちにやってもらいたいのは今我らの旧市街に住み着くなにものかの退治だ。」
退治と言う言葉がレイギナの口から出た瞬間に、三人はそれぞれ違う表情を浮かべた。
詩架は面倒そうな顔。
コトリはとても緊張した顔。
そして由佳は頬張った食べ物のおいしさに頬を緩ませていた。
内心由佳のあまりの話への無関心さに呆れながらもレイギナは話を続ける。
「とくに詳細と言うほどのものではないのだがね。君達はどうやらとても力がある存在だそうだね?だからどうしてもお願いしたくてね。」
そのレイギナの依頼に詩架が一つの疑問をぶつける。
「何故自分達で解決しないんだ?もっときつい内容を選んでも良さそうだけどな。」
詩架の自分の首を絞めるとも思える質問にレイギナは苦笑しながら答えた。
「その住み着いてる魔物って言うのが地大陸の私達にとっては天敵とも言えるもの・・・らしいんだ。街の町長が言うにはね。」
彼のその説明に一応納得して再び食事の皿へと視線を戻せば既に半分以下へと量が減っていた。
相変わらずよく食うなぁ・・・それに・・・
心の中で呆れながら自分の食事も終えるとガタッと椅子を鳴らして立ち上がる。
「一宿一食の恩とも言うしな。いいさ。やろう。」
詩架はそう言って飯、美味かったぜ。と王の横に控える料理長に一言かけてスタスタと部屋を後にした。
それにコトリが慌てるようにして続き、そして由佳が名残惜しそうに料理の並ぶ皿を見つめながらも後に続く。
バタン。とドアが音を立てて閉まると何処からともなくホレイムが出現する。
「ばれたかな。」
ホレイムのその言葉にレイギナが頬を掻きながら答える。
「おそらく・・・・は。」
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「私が案内役を務めさせて頂きます。レギンです。」
小男という言葉が当てはまりそうなその男は畏まった礼をすると、詩架たちに握手を求めるように右手を差し出した。
この握手の文化は世界を跨ぐのか。などと思いながら一応その右手を握り返すと、レギンと名乗った男は嬉しそうに笑って踵を返して歩みだした。
ついて来い、という事なのだと一瞬送れて気付いて後について歩き出す。
一面・・・と言うほど広くもない真っ黒な洞窟に入ると、延々と沈黙が流れる。
「一体何処に向かってるんですか?」
たまらずにコトリが聞くと、レギナと名乗った小男は肩越しにこちらを見ながら答えた。
「旧市街、という所に向かっております。そこには三年ほど前から・・・というか記憶が始まった時からずっと、旧市街には正体不明のモノが住んでおりまして。その町長・・・今は亡き文面だけの存在の町長ですが、その町長の話によれば襲ってきたモノは地大陸の魔法を一切受け付けないらしいのです。」
レギンは聞きやすいハキハキとした口調でそういうと手に持ったランプにサッと火をつける。
「ここから更に暗くなります。絶対に離れないでください。」
先程とは一転して真面目な口調でそういうと、レギナは慎重に歩みを進めた。
カツン・・・カツン・・・と靴の金具が立てる音と布の擦れる音以外何も聞こえないその通路をしばらく歩くと突然大きな広間に出た。
「ここです。」
そこはかとなく緊張が混じるレギナの声が聞こえた瞬間に三人は武器を構える。
予想以上に、暗い。
地下だとは思ったが旧市街と街の名がつくだけにそれなりに光があると思っていたのは勘違いだったか。
見えないのならばと、瞳を閉じて聴覚、嗅覚を研ぎ澄ます。
スッ――――と余分な情報が消える。
コトリと由佳とレギナの吐息も聴覚から消す。
するとどうしたことか。
小さな、それはもう小さな吐息が幾百幾千と聞こえてくるではないか。
まずい。
ここは大きく騒ぐべきではない。
頬を伝う冷や汗を肩で拭いながら隣に立つ由佳に小さく耳打ちする。
コイツなら下手に騒がないだろう。
「囲まれた。数は千を超えてるかもしれない。」
詩架がそう言うと、由佳が息を呑む音が聞こえる。
正体不明と言うのは何度戦っても慣れるものじゃあない。
戦い方は分かるが精神的には幾度戦いを重ねても強くなるものではないのだ。
なぜならそれは、分からない・自分の常識を逸脱したものが正体不明なのだから、といえばいいのだろうか。
とにかくこの時点で俺達は。
迂闊にも数千の敵に囲まれ命を落としかけているというのは確実だという事だ。
最後まで読んでくださってありがとうございます。
新キャラバンバン出てきますね。私の癖ですけどね。でも人数いっぱい居るのって良くありません?そうでもない?ですか?
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