第二幕 第六節:夢と現
更新遅くなってすいません;
ザッ・・・
視界一面に砂嵐が走ったかと思えば次の瞬間には”アレ”に咥えられた少女の姿が目の前に映る。
込み上げて来る吐き気を止める事も出来ずに思い切り地面に吐き出すと、びちゃびちゃという音が立つ。
その音に反応してこちらを向く”アレ”は目の位置であろう部分が黒く落ち窪んでいた。
化け物。
かろうじてキツネかと予想が付けられる程度には体が形成されているものの、しかしその実そこに居たのは紛れもなくこの世の生き物ではなかった。
節々から漏れ出す黒いモノはどす黒く周囲を染めている。
グワッ!と咥えていた体を吐き出してこちらへ跳びかかってくる”アレ”の口で視界が一杯になってその夢は終わる。
「――――ッ!」
その夢から覚めると同時に息を思い切り吸い込むと、急に大量に入ってきた新鮮な空気に肺が驚いて咳き込む。
またか。
最近全く見なかったために忘れかけていたあの夢は久し振りにあの災厄をまざまざと思い起こさせた。
「大丈夫ですか?」
その未だに聞きなれないその声に顔を上げると、コトリが小さな顔をこちらへ向けて心配そうに顔を覗き込んでいる。
詩架は身を案じるその声に片手で答えると今の状況を整理し始めた。
確かギムニを退けてコトリを仲間にして、神塔に戻ったら丁度由佳が戻ってきて・・・恐ろしいまでの返り血を浴びていたから恐らくどちらかは死んでいるだろうが。
そして宝玉を神座に奉納したら突風が巻き起こって飛ばされて・・・気絶した。
確かこんなんだったか。
今までの状況を整理すると、ふらつく体を右手で壁に手を付き支えながら立ち上がると、中身が神座と呼ばれる宝玉を置く所以外何もない神塔の中を見渡した。
するとこれだけ高い塔なのに二階以上はなく、塔の先端まで空洞が出来ている。
無駄な構造だな。などと思うがまぁ宗教観点で何かしらあるんだろう。
そんな事を思いながら神座へ視線をもどすと、そこには初老の老人がすこし退屈そうに座っていた。
「何してんだおっさん。それ風の大陸ではかなり大事なもんらしいぞ?」
まだ頭が動かないのでとりあえず浮かんだその言葉を発すると、コトリと風大陸の一家が慌てふためいておっさんへ頭を下げている。
由佳は未だぐっすりと寝ているが。
「なんじゃ神様に偉そうに口を聞く奴じゃのぅ。ええ?」
笑いを含んだ顔でそういうと詩架は二・三秒思案した末に何かに気付いたように目を開いて言った。
「アンタ神様か!」
詩架がそういうと神座に座った神:アペリオテスは温和そうな表情を浮かべて頷いた。
普通ならそこで敬語になるのであろうがしかし詩架は神程度・・・と言っては何だがそういう存在には遠慮しない性格だった。
「いや、嘘だろ。普通に考えて。」
白けたような表情でそう言うと踵を返して由佳を起こしにいく。
肩をゆすって由佳を起こすと、まだ意識がはっきりしていないのか焦点の定まらない由佳を背負って神塔を出ようとすると、中央の神座に座っていたはずのアペリオテス(仮)は一瞬で詩架の目の前に出現した。
移動した のではなく 出現した のだ。
思わず反射的に後ろに跳び距離を取るが、足を動かしたようなモーションもなく一定の距離を持って再び出現した。
そのあまりに現実離れした動きに顔を引きつらせながら詩架はイラついたように言った。
「お前一体何物だ。」
詩架がそういうと、目の前のアペリオテス(仮)は温和に笑って言った。
「だから、アペリオテスという神じゃ。」
こうしてアペリオテス(仮)は晴れてアペリオテス(本物)になったのであった。
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「つまり、だ。アンタは豊穣を司る下位神で?一応しっかりとした本物の神様、と。」
詩架の言葉に目の前のアペリオテスは頷くが、詩架は自分で言っておきながらその言葉に疑いを持っていた。
が、しかし気配はおろか音までも一切合切消し切ってあの距離を一瞬で詰められるというのはかなり・・・それはもうとてもと言う言葉では足りないほどに異常。
”奴等”なら難なくやって見せただろうが。
「まぁいい。で、とりあえずアンタに宝玉を返す為に反逆者になったわけだ、が。その神獣が居なくなったら世界が荒れるってのは本当なのか?」
詩架がそう聞くと、アペリオテスは神妙に頷いて言った。
「正確には神獣・・・わし等が居なくなったらということではない。わし等が居なくなった結果、簡単に使えるようになる魔法が世界を荒らすのじゃ。」
「簡単に使えるようになる魔法・・・?」
詩架が顔をしかめてそう聞くとアペリオテスは深くため息をついて答えた。
「言霊、というものは知っておるな?」
「ああ。」
「わし等はその言霊をある程度調整する役割もあるのだよ。例えば誰かが誰かを恨んで死んで欲しいと願う。それは言霊として一度顕現するがそれをわし等が消滅させるという役目があってな。」
それはつまり。
神獣・・・つまりアペリオテスたちが居なくなればその言霊はあっという間にその恨みの対象に届くということになり。
「結果、その恨みの対象は死ぬ。」
そのアペリオテスの言葉に一瞬愕然とするが、アペリオテスは鼻で笑って続けた。
「そんな簡単な話になればいいんじゃがのう。」
アペリオテスがそう言って更に言葉を続けようとすると神塔の扉が勢いよく開かれた。
バガン!という盛大な音と共に開かれた扉の向こうには先程気絶させた兵隊達に加えて援軍であろう兵隊達が幾百という数で立っていた。
その数を見て詩架たちが面倒臭そうにため息をつくと、アペリオテスは先程とは打って変わって早口でまくし立てた。
「あの数に襲われてはたまらないのぅ、まぁ積もる話もあったが他の連中に聞けば良いだろう。お主達は良くしてくれたからの、おぬし達三人には風の宝玉を、そしてお主達には一生喰うに困らないようにしてやろう。」
アペリオテスはそういうと詩架と由佳とコトリにこぶし程の大きさの緑の玉を持たせた。
「さぁ、その宝玉を上手く使って着地しなさい!」
アペリオテスはそういうと右手を振るって詩架たち三人を兵士達が入ってくる入り口とは逆の位置にある窓から風を持ってして放り出した。
詩架にのみ、「由佳の裏の面には気をつけろ」と忠告をして。
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「うっうわああああああああああああああああああああああああ!?」
あまりの風圧に目を開けることすらままならない状態でその声の元を見てみれば、コトリが今にも泣き出しそうな・・・いや既に泣いてるか。
ともかくそんな状態で、俺達は風大陸から”放り出された”
放り出されたという事は広大な空を自由落下しているわけで。
「これ着地どーすんだよ・・・」
風圧で目が乾くので上を向きながらそう言ってため息をつくと、コトリに大声で話しかけた。
「お前着地の風魔法とかつかえねーのか!」
「多分宝玉の力を使えばつかえますけどおおおおおおお!」
じゃあ使えよ。
多少の悪意を持ってそう言うと、コトリは涙目ながらにうなずいた。
それを確認すると詩架はぐるりと周りを見渡して由佳を探す。
すると自分の斜め右下方向でキャハキャハと笑い声を上げながら落下を楽しんでいる姿が目に飛び込む。
『あの女の裏の面には気をつけろ』
先程アペリオテスに言われたそんな言葉が詩架の脳裏に浮かぶ。
知ってるさ。
アイツは誰よりも危うい。
言ってしまえば危険だ。
その程度じゃあ見捨てないけれども。な。
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