ウォルト・シンドローム
宇宙船ピーグル号の行く手に、突然正体不明の宇宙船が立ち塞がった。三人の宇宙飛行士は警戒したが、地球語で乗船許可を求められたので、その船の者を迎え入れた。
乗り込んできたのは、未来人だった。
未来人は三人に告げた。
「地球の文明は、もはや風前の灯だ」
それを聞き、飛行士のレイチェルはすぐさま察した。
「やはり、地球温暖化が進んで……」
レイチェルの言葉を遮り、未来人が言った。
「それは違う。君たちが地球を飛び立った頃は、その問題が騒がれていたな。しかし、地球の文明を衰退させた原因は、むしろ環境保護活動そのものだよ」
未来人は、ふうと溜め息をついた。
「実はな、地球温暖化の原因は二酸化炭素ではなかったんだ。科学ってやつは、いつでも間違いを犯す。別の科学的説明がないと、そのことに気づかないもんだ。それまでの歴史が物語っていたのに、我々はまた、同じ過ちを犯してしまったんだ」
三人が黙っているので、未来人は話を続けた。
「問題は、誤った科学を盲目的に信じ、世界全体の産業が衰退したことなんだ。そればかりじゃないよ。子供たちは、環境保護活動に明け暮れて、誰も学校に行かなくなったんだ。本も読まなくなった子供たち――。文化も思想も、痩せ細っていくのは、当然だろ。それが、地球の末路だ」
未来人は悲しそうな目をした。その目を三人に順繰りに向け、
「そこで我々は、地球文明をもう一度立て直すことにした。あらゆる時空間に試験官を派遣して、文明を担える者を探すことにした」
未来人の言葉に、レイチェルが目を輝かせた。
「私たちを、テストするんですね。そして、合格した者を、文明の担い手に……」
「察しがいいね」
「それで、どんなテストを?」
「簡単さ。君たちがいつも好んで見ている映画やテレビドラマ、そいつを調べるだけさ」
未来人がそう言うと、レイチェルはさらに目を輝かせた。それなら、私なんてぴったりね――。そう思ってほくそ笑んだ。
一方、レイチェル以外の飛行士はうかない顔をした。
トーマスは俯いて、唇を噛んでいた。その顔を見て、レイチェルは心の中であざ笑った。
あんたはヤクザ映画しか見てないもんね。真っ先に脱落ね。「文太あにいっ」なんて言ってる奴は、文明の担い手にはふさわしくないのよ――。
もう一人の飛行士、マイケルも俯いていた。耳を赤く染めて、恥じ入っているように見えた。その顔を見て、レイチェルはまたあざ笑った。
あんたもだめね。アダルトビデオにしか興味のない、変態野郎――。
打ちひしがれている二人を眺め、レイチェルは勝ち誇った気分でいた。そうして、自分が普段愛してやまないキャラクター達を思い浮かべた。シンデレラ、白雪姫、人魚姫、七人の小人たち――。彼らの愛らしい姿に心和ませ、彼らに心和ませるような、自分の愛らしさに酔った。
まもなく、調査は終了した。未来人が結果を告げた。
「私が未来に連れて行くのは、トーマスとマイケルにしたよ」
未来人がそう告げるや否や、レイチェルは食ってかかった。
「そんなの、おかしい。どうしてこんな人たちが選ばれるのよ」
未来人は平然と答えた。
「トーマス君は、生への渇望が強い。生きるためなら外敵に容赦ない。そして、何より素晴らしいのは、義理人情に厚いところだ。これって大事なことなんだよ。一方のマイケル君は、生殖力が抜群だ。それに、生殖器の正しい使い方もよく心得ておる。これも大事だろ」
納得できないレイチェルは、「何それっ」と叫んだ。そして、
「じゃあ、私はどうして選ばれなかったの?」
レイチェルの言葉に、未来人が答えた。
「清濁併せ吞む。文明にはこれも必要だ。しかるに、君のような女には、それは理解できんだろう」
未来人はそう言うと、トーマスとマイケルを連れて宇宙の彼方に飛び去った。
一人取り残されたレイチェルは、歌をうたい始めた。大好きなアニメの一場面を真似してみた。そうすることで、すべてがうまくいくのだと、本気で信じて……。
〈了〉




