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ウォルト・シンドローム

作者: 泉 羅卯
掲載日:2025/11/20

 宇宙船ピーグル号の行く手に、突然正体不明の宇宙船が立ち塞がった。三人の宇宙飛行士は警戒したが、地球語で乗船許可を求められたので、その船の者を迎え入れた。

 乗り込んできたのは、未来人だった。

 未来人は三人に告げた。

「地球の文明は、もはや風前の灯だ」

 それを聞き、飛行士のレイチェルはすぐさま察した。

「やはり、地球温暖化が進んで……」

 レイチェルの言葉を遮り、未来人が言った。

「それは違う。君たちが地球を飛び立った頃は、その問題が騒がれていたな。しかし、地球の文明を衰退させた原因は、むしろ環境保護活動そのものだよ」

 未来人は、ふうと溜め息をついた。

「実はな、地球温暖化の原因は二酸化炭素ではなかったんだ。科学ってやつは、いつでも間違いを犯す。別の科学的説明がないと、そのことに気づかないもんだ。それまでの歴史が物語っていたのに、我々はまた、同じ過ちを犯してしまったんだ」

 三人が黙っているので、未来人は話を続けた。

「問題は、誤った科学を盲目的に信じ、世界全体の産業が衰退したことなんだ。そればかりじゃないよ。子供たちは、環境保護活動に明け暮れて、誰も学校に行かなくなったんだ。本も読まなくなった子供たち――。文化も思想も、痩せ細っていくのは、当然だろ。それが、地球の末路だ」

 未来人は悲しそうな目をした。その目を三人に順繰りに向け、

「そこで我々は、地球文明をもう一度立て直すことにした。あらゆる時空間に試験官を派遣して、文明を担える者を探すことにした」

 未来人の言葉に、レイチェルが目を輝かせた。

「私たちを、テストするんですね。そして、合格した者を、文明の担い手に……」

「察しがいいね」

「それで、どんなテストを?」

「簡単さ。君たちがいつも好んで見ている映画やテレビドラマ、そいつを調べるだけさ」

 未来人がそう言うと、レイチェルはさらに目を輝かせた。それなら、私なんてぴったりね――。そう思ってほくそ笑んだ。

 一方、レイチェル以外の飛行士はうかない顔をした。

 トーマスは俯いて、唇を噛んでいた。その顔を見て、レイチェルは心の中であざ笑った。

 あんたはヤクザ映画しか見てないもんね。真っ先に脱落ね。「文太あにいっ」なんて言ってる奴は、文明の担い手にはふさわしくないのよ――。

 もう一人の飛行士、マイケルも俯いていた。耳を赤く染めて、恥じ入っているように見えた。その顔を見て、レイチェルはまたあざ笑った。

 あんたもだめね。アダルトビデオにしか興味のない、変態野郎――。

 打ちひしがれている二人を眺め、レイチェルは勝ち誇った気分でいた。そうして、自分が普段愛してやまないキャラクター達を思い浮かべた。シンデレラ、白雪姫、人魚姫、七人の小人たち――。彼らの愛らしい姿に心和ませ、彼らに心和ませるような、自分の愛らしさに酔った。

 まもなく、調査は終了した。未来人が結果を告げた。

「私が未来に連れて行くのは、トーマスとマイケルにしたよ」

 未来人がそう告げるや否や、レイチェルは食ってかかった。

「そんなの、おかしい。どうしてこんな人たちが選ばれるのよ」

 未来人は平然と答えた。

「トーマス君は、生への渇望が強い。生きるためなら外敵に容赦ない。そして、何より素晴らしいのは、義理人情に厚いところだ。これって大事なことなんだよ。一方のマイケル君は、生殖力が抜群だ。それに、生殖器の正しい使い方もよく心得ておる。これも大事だろ」

 納得できないレイチェルは、「何それっ」と叫んだ。そして、

「じゃあ、私はどうして選ばれなかったの?」

 レイチェルの言葉に、未来人が答えた。

「清濁併せ吞む。文明にはこれも必要だ。しかるに、君のような女には、それは理解できんだろう」

 未来人はそう言うと、トーマスとマイケルを連れて宇宙の彼方に飛び去った。

 一人取り残されたレイチェルは、歌をうたい始めた。大好きなアニメの一場面を真似してみた。そうすることで、すべてがうまくいくのだと、本気で信じて……。

                                 〈了〉


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