約束の行方⑶
侍女は、鍵番から借りてきたと言いながら、ウタハを書物庫になっている部屋の前まで案内し、開けてくれた。
扉を開けると、古い本があちらこちらに山と積み上げられている。
以前は客間であったらしく、火のない暖炉と、応接のテーブル、椅子が見えた。その上にも本は積み上がっていた。
侍女は窓の前に積み上げられていた本を寄せて、窓から明かりが入るようにしてくれた。
これなら、充分本を読めそうだった。
テーブルの上の本を壁際へ移動させる。ウタハも手伝った。すっきりしたテーブルの上にキャンドルを置きながらマールムは話してくれた。
「ここは、今の魔法師の総長様が、総長におなりになる以前、まだ古の魔法師でいらした頃に、しばらく滞在しておられた部屋なのです。向こうにお移りになられてからは、ここは書庫になってしまいました。本がお好きな総長様は山ほど本を積み上げておられて・・・ほとんどが、そのままでございます。まあ、後から私どもが運び込んだものも、かなりございますが」
「そうでしたか・・・」
「今、暖炉に火を起こしますから、お好きな本をお選びになってくださいませ」
侍女は手慣れた手つきで火を起こした。火の魔法を使えるらしい。
「魔法を?」
「簡単なものだけですわ」
そう言って微笑んだ。
ウタハは積み上げられた本を調べにかかった。読めそうな本はないかしら。
埃っぽい本の中から、いくつか古い表紙の本を取り出すと、テーブルの上に置き、一冊は手に持ってソファに腰を下ろした。
「ここでしばらく読んでいますから、もう下がっていいですわ。終わりましたら、呼びますね。本を読むときは一人にしてもらいたいの」
「かしこまりました。終わりましたら、いえ、御用がございましたら、これでいつでもお呼びください」
マールムは、テーブルに呼び出し用の銀色のベルを置いて出て行った。
侍女が出て行ってしまった後、手に持っていた本をパラパラめくった。王都の歴史らしかった。後で読もう。その前に探すのが先ね。
ウタハはアルを呼び出した。
テーブルの上にボッと姿が現れる。
「にゃ~にゃ」
「あら、まだ話せないの?」
「にゃ~にゃ~」
「困ったわね、まあ、しかたないわ。あとでヒールをしてあげる。効果があるかどうかわからないけど」
アルは、まだしゃべれない。だが、こちらの言うことはわかるらしい。
「アル、次元の入口はどこかしら? 教えて」
アルはふわっとテーブルから降りると、積み上がった本の間を器用に通り抜けて、真っすぐ、部屋の奥へ向かった。
部屋の奥にある木の扉を開けると、そこは寝室だった。さすがにベッドの上には本はなかったが、その周りにはうず高く積み上げられた本が、ぎっしり並んでいる。
こんなに、本があるなんて・・・総長様はよほど本がお好きだったのね・・・ウタハは本の山を見回した。
ベッドの少し手前に、使われていない暖炉が、積み上げられた本の間にあるのが見えた。
アルは、その暖炉の前に座っている。
「そこにあるのね?」
「にゃ~」
そうだと言いたげにアルは鳴いた。
ウタハは、本を寄せ、暖炉とその周囲の壁が見えるほどに本をどける。そして暖炉の周りの壁に手を当てて、静かにそろそろ動かしていく。すると、微かに感じる光の痕跡があった。
そこに手を当てたまま、集中して光を集めた。ウタハの髪が、微かに虹色にきらめき、二つの光がふわりと現れた。ウタハが手を離すと、その光は痕跡の上をなぞってから、ふっと消えた。
ウタハはその痕跡にまた手を当てて集中した。「開け、次元の扉」手から光を流し込んだとたん、そこがパッと開いてウタハを引き込んだ。「わっ」次元の入口が開いたのだ。同時にアルが飛び込んできて、ウタハの背を支えてくれた。
「ありがとう、アル。そうよね、ここは意識で動くのだったわね」
ウタハは保護結界をかけると、古の魔法師の館にある、次元の入口を強く思い浮かべた。ノクィース教室へ入る入口を。
一気に、一人と一匹はノクィース教室のある建物の入口へ放り出され、入口はあっという間に見えなくなった。
まだここを離れて数日しか経っていないのに、懐かしく思いながら辺りを見回した。誰もいないようだ。ウタハは結界を解除すると、建物の中へ入って行った。
ウタハはノクィース教室には入らず、五階へ上がり、さらに奥の階段へ向かう。
階段の踊り場にある扉に手を当てた。かけられていたはずの結界はなかった。「えっ」と思ったとき、扉が開いて、中に引き込まれた。次元の入口? そう思ったとき、後ろで扉が閉まる音がした。次元の空間に入った感覚――前方には、応接の椅子に腰を下ろした人の姿が見えた。
「来ると思っていたよ」
聞き覚えのある声だった。
今回も、お読みいただき、ありがとうございました!m(__)m
最終話は、次回になる予定です☆




