約束の行方⑵
侍女は二着のチュニックドレスを見せた。
「素敵に仕上がっていますわ。残りの依頼分は、来週にはできると申しておりましたよ。さ、今日はどちらになさいます?」
薄いバラ色と、深い緑のドレスはどちらも美しい布で仕立てられていた。
ウタハは、深い緑のドレスを選んだ。チュニック風に仕立てられているので、舞踏会に着るドレスとは違い、一人でも十分着られるものだったが、侍女はそれでも手伝いたがった。
鏡の前に立つ自分の姿を見て、少し意外な気がした。背がいくらか伸びたらしい。身体も少しふくよかになった気がする。チュニックはゆとりがあるが、それでも以前のようではなく、採寸して仕立ててもらったせいだろう、ぴったりと身に合っている。
肌も以前よりさらに白くなった気がした。
ウタハは、髪は自分で梳かすと言って譲らなかった。
「結い上げなければならなくなった時には、よろしくね」
侍女はあきらめたらしかった。
「長いまま、垂らしておいでになるのも素敵ですわね。この緑のドレスに合いますわ。では、私はお食事をお持ちしてまいりますね」
侍女は礼をして部屋から出て行った。
ウタハは窓を開けて外を見た。
前方に見える塔の三階はエランの部屋だ。向こうの窓から、この中二階の窓も見える位置にあった。彼は、昨日からマロウズのところへ応援に行っているはずだ。何かあったのかもしれない。北の国の状況は、エランから聞いていた。ウタハは窓を閉めた。やはり開けているには、まだ寒い。
朝食の後、ウタハは中二階を見て回ろうと決めた。部屋に籠っているのもつまらない。来週には帰郷した者たちも戻ってきて、古の魔法師の館も通常通りになるだろう。ウタハはノクィース教室にも行きたくなった。
ウタハは、アルを呼び出した。
「待ちくたびれたにゃ~ようやく出してくれたにゃ~」
そういえば、あの日以来、出していなかったことに気づいた。もう四日も経っている。
「あは、ごめんねぇ・・・わすれ・・・じゃない、忙しかったのよ」
「ほんとかにゃ~?」
疑わしそうな目で見るアルを撫でながら言う。
「ほんとよ~、ほらカキカキしてあげるから、いい子にして」
アルはウタハの膝に乗っかると目を閉じた。
「それでね、アルに聞きたいんだけど、この部屋か、中二階に次元の入口はないかしら? わかる?」
アルは、耳をピンと立てたが、すぐにいつもの形になった。
「うんにゃ、なくはないにゃ~」
「なくはない? ってどういうこと?」
「開かれてにゃいにゃ~、閉じてるにゃ」
「どこなの、その場所は?」
「この部屋のにゃ、隣の部屋にゃ~」
「中二階に他の部屋があるの?」
「あるにゃ~」
「わかった、ありがとう、後で行って見るわ」
アルは撫でられて気持ちよさそうに喉をゴロゴロ鳴らした。
(こういうところは、普通の猫みたいだけどね・・・)
ウタハは変身したアルの姿を一瞬、思い浮かべた。
同時にルシクリオンの顔も。あれは・・・
「ねえ、アル、ノクィース先生と、ルシクリオンは関係あるの?」
アルはびくっとして身体を起こした。四つ足立ちになった。毛が逆立っている。
ウタハはいぶかし気にアルを見た。
「どうしたの、急に。ね、教えてくれる?」
「ルシクリオン・・・様はにゃ・・・ノ・・・にゃ、・・・にゃ~」
「え、何言ってるの? わからないわよ、ちゃんと言って」
しかしなぜか、アルは突然普通の猫になってしまったみたいに、にゃ~にゃ~しかしゃべらなくなった。何か言っているのだが、猫の鳴き声なのだ。
「どうしちゃったの~? アル、しっかりして」
しばらく抱えて撫でていたが、あきらめた。
「ああ、もういいわ、いったん戻って。帰りなさい」
アルは、姿を消した。
いったい、どういうことかしら? しばらく考え込んでいたが、いつもの弟子の長着を羽織ると侍女を呼んだ。
「お部屋にじっとしていると、気分が良くないの。散歩してくるわね」
「外は寒うございますよ」
「大丈夫、外には出ませんから。この部屋の周りを少し歩いてくるわ。何かめずらしい部屋とかあるかしら? 図書室でもあるといいのだけど」
「この中二階には、後二つお部屋がございますよ。ただ、両方とも今は倉庫になってしまっておりますけれど・・・ああ、図書室ではありませんが、退屈しのぎなら、書物庫にしている部屋がございますよ。お好きな本をお読みになるのもいいかもしれませんわね」
「行ってみたいわ。本は大好きなの」
「では、鍵をお持ちしますね、少々お待ちを」




