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フォラードの光  ― 星の記憶者 ―  作者: あけの星
第一章

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魔力のめざめ

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 ウタハが放った光の粉は、地上の大気に溶け込み、さらに風の中に紛れて四方へ散らばった。


 その光を最初に受け取った男がいた。

  黒いマントに、つば広の黒い帽子を被った黒ずくめの男は、鏡の沼にほど近い丘の上で沼を眺めていた。

  ここ数日も経たぬ間に、鏡の沼が広がったことを不審に思い調べに来ていたのだ。少し前までは、沼はこの丘からはかなり離れていた。それが今はイヲの森の西側をぐるりと回って、ここまで広がっている。


 何が起きているのか? 男は考え込んでいた。

 そのとき、風に乗った光の粉が肩に落ちてきた。男は光の粉を肩から指に移し、ウタハの声を聴いたのだった。

 男は鏡の沼の広がった理由も一瞬にして理解した。

 男は暗闇の世界にかかわる者、魔物をも統べる者だった。

 彼は片手を上げて風を起こすと姿を消した。



  *


 光の粉はさらに、王都の西北にある古い城壁の周囲をめぐり、最上階の開け放たれた窓の中にキラキラと入りこんだ。

 最上階の部屋の中には、フードのついた白い長衣を着た老人が、古木で作り上げられた机の前で書き物をしていた。

 彼はこの国の最高峰の古の魔法師のひとりだった。

 老人は羽ペンを止めて、目の前に落ちてきた光の粉をじっと見つめた。彼もまた、ウタハの声を聴き、状況を察知した。



  *

 

 ウタハの放った光の粉は、トイサの村の村長の館にも届いていた。

 

 それを受け取ったのは、アイジェルと叔父のタージェルンだった。

 即座に村長に伝え、これからなすべきことを三人は話し合った。


 アイジェルはすぐにもウタハの救出に向かいたかったが、タージェルンが止めた。

「待て。これは只事ではない。師匠の魔法師に知らせるべき案件だ。たとえ今やみくもに救出に出たとしても、反対にやられてしまうだけだ。それなりの準備をして向かわねばならぬ。もしかすると、王にもお話せねばならぬやもしれぬぞ。その前に、わが師と領主にはお知らせせねばなるまい。

 いや、待てよ、われらが知るほどの光だ、もう古の魔法師たちや、王は知っておられるかもしれぬな。感知していれば」

 それでも、タージェルンは師匠の魔法師のところへ出かけて行った。帰ってくるまで、待てと言って。


 落ち着きなく部屋の中を歩き回る息子を見て、村長のゴーシェルは、なだめるように言った。

「落ち着け。お前の気持ちはわかる。だが、()いてはことを仕損じる。こうなったら、もう話しておいたほうがいいだろう・・・その(とき)が来たのやもしれぬな」

 父親は、息子に椅子をすすめ、向き直った。

 それまで傍で、心配そうに様子を見ていた母親は、二人の邪魔をしないよう、歳の離れたアイジェルの弟を連れて二階に上がって行った。


「その刻とは、何ですか、父上」

 アイジェルはいぶかしげに椅子に座り、いつもにまして誠実で真剣な顔をした父を見つめた。

「ウタハのことじゃ。おまえとも関係がある話でな・・・よく聞け」

 ゴーシェルは、記憶をたどる遠い目をして話し始めた。

 

「十五年前に、この国で魔物が暴れていた話は聞いたことがあるだろう? 

 魔物の王と和解するまでの三年間、この地方でもかなりの村人が命を奪われたのだ。

 ただ、トイサの村は、おまえの叔父のおかげで被害が少なかった。あいつは魔法師の弟子だったからな。師匠の古の魔法師とともに、この村に防御結界を張ってくれたのじゃ。

 薄くはなったが今でもその効力は残っておる。


 そのころだ、この村に一人の女の魔法師がやってきた。赤子を抱いて。育ててくれる者はおらぬかと言ってな。ちょうどアミラが子を亡くしていたのを思い出して、赤子を託すことにした。そのとき、魔法師は言ったのじゃ。『あなたの息子が魔力を発現するとき、この子の魔力もめざめる。この国を左右する赤子じゃ。大切に育ててほしい。ただこのことは他言しないでくれ。狙うものがいる』と。

 父の話をアイジェルは驚きながら聞いていた。


「おまえには魔力があると、わしも感じておった。まだ大きな魔力ではないことも。あの魔法師は予言者でもあったのかもしれぬ。

 だが、ついにおまえは魔力を使ったな?   

 おそらく消えたウタハを思うあまり発現したのだろう。大きな魔力だった。わしもおまえやタージェルンほどではないが、少しは感じる程度の魔力があるのじゃよ」

 父親は息をついでさらに語った。


「他言せぬように言われたが、わしには大きすぎる話だった。それでタージェルンと師匠の魔法師に相談した。かれらは他言しないと約束してくれたよ。それからは、刻が来るまで三人で見守ろうということになった。師匠の魔法師はウタハに強固な防御の結界を張った。彼が言うには、ウタハにはすでに保護の結界が張られているとな。だが用心のため、その上にさらに結界を張ったのだ。ただ、それの副作用というか、そうなのだろう、とわしは思う――ウタハが寝つくとなかなか起きられないというのは」

 語り終えた村長は、長い息を吐いた。

「そのようなことが・・・」

 アイジェルは父の話を聞いて考え込んだ。まだにわかには信じがたい。ウタハと自分のことも予言されていたとは・・・

「しかし・・・今回ウタハがさらわれたということは、その防御結界さえもしのぐ力が働いたと考えるしかないだろう」

 その言葉にアイジェルは、うなずくしかなかった。




  *


 村はずれにある樫の木の下の、小さな祠の前で、アミラは一心に祈っていた。

 精霊神を祀った祠には、清水の入ったつるりとした白い器、その手前にはアミラや村人たちが供物として捧げた果物や花が置いてあった。

 アミラの祈りは、ただひとつ。ウタハの無事であった。

 しばらくして、目頭を押さえながら彼女は立ち上がり、大きく息を吐くとわが家の方へ歩き出した。

 肩を落として歩き始めたその姿は、かなり憔悴しているのが見てとれた。


 昨日起きたウタハの失踪を、神隠しだと村人たちは噂し合っている。

 アミラは彼女をハーズの沼に行かせたことを後悔していた。


 ああ、なんで、神隠しの話を聞いたとき、すぐに追いかけて行かなかったんだろう。引き留めて連れ帰ってくればよかった。でも、だれが鏡の沼が、あんなところにあるなんて思っただろうか。本来ならばイヲの森の奥の方にあるはずだったのに・・・

 わたしは大事な娘をまた亡くしたのだろうか? 

 いいえ、きっと生きてる。そう信じたい。村長もアイジェルも、必ず助けると言ってくれた。そうよね、あの子は普通の子じゃないもの。魔法師様だっておっしゃってた。


 アミラはウタハが魔法師に連れてこられた時のことを思い起こした。


 十五年前のあの日、昼間はひどい雨が降ってたのに、夕方にはからりと晴れて、夜には星が美しく輝いていた。


 アミラが夕食の片づけをしていると、村長と赤子を抱いた魔法師がやってきた。育てられない事情があるので、アミラ夫婦の養女にしてはもらえないか、と村長が言った。自分が後見になるとも。アミラたちは、赤子を病で亡くしたばかりだったので、願ってもないことと、喜んで養女にした。


 魔法師の女は、この子が将来魔力を発現したら、魔法師になる道を選ばせなさいと言った。

 わたしは、そんなことはどうでもよかった。亡くした娘が戻ってきた気がして、ただその喜びに胸がいっぱいだった。

 その翌年、夫のゴーフは魔物の被害にあって亡くなった。でも、わたしにはウタハがいた。どんなにつらくても、育てる決心をしたんだ。二人で生きるつもりだった・・・

 赤子を受け取ったとき、ちょうど春の精霊祭の前だったので、お供えに使うウタハという白い器の名前をとって名付けたのだった。

 ほんとに白くって、つるりとした肌はぴったりの名だと、あのときゴーフも言っていた。

 ウタハの幼いころの姿が浮かんできて、また涙ぐんだ。

 「あの子は、死んでなんかいない、きっと生きてる」

 その言葉を呪文のように呟きながら歩いて帰った。



  *


 ――その頃、王城の一室で王直属の魔法士団長と、紅いフードを被った女の魔法師が、水晶の球を眺めながら話し合っていた。

 古い時代と思われる獣と葛の模様を施した卓の上に、人の肩幅ほどの大きな水晶が置かれていた。

 今、水晶は鏡沼の底にある奇妙な建物をおぼろげに映し出している。

「そろそろだとは思っていたが、意外に早かったようだな」

 白髪混じりの五十は過ぎていると思われる魔法士団長が言った。

「ええ。まだほんの少しと思われますが、魔力がめざめたのは間違いないかと。でも・・・まさか鏡の沼のあれが手を出すとは思わなかった。『古き者』どもが、見出すのが先だと思っていたのですが・・・」

 女の魔法師がうなずいて言う。

「いや、あの光は我らだけでなく、やつらにも届いたに違いない。あの者たちの感知の力は侮れないからな」

「そうなると、やっかいですね・・・」

「そうだ、やつらが動き出す前に我らのもとに保護すべきだろう。だから鏡の沼を一刻も早く落として救い出さねばならん」

「王には?」

「もう諒解はいただいておる」

 ふたりは声を潜めて、これからの作戦を話し合った。 





 

 

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