まやかし マロウズside
マロウズは、メティヤーム領にほど近いキューマ領の国境、魔法士の調査団基地へ、数人の魔法師たちと派遣されていた。
年明け以降は、不審な円盤は現れていないが、監視は続けている。
さきほど、エランからトォーザ王国の戦況について、連絡が来たところだった。
まだ、救援の要請は来ていないが、他の二国からは、外交使節がフォラードへ訪れているという。なぜ、トォーザは使者をよこさないのだろう? マロウズは不思議に思った。
北の王国は五つの国の中では一番大きな国土ではあるが、さほどに豊かな国ではない。ただ、王の自尊心は強大だとの噂であった。魔法の力を利用する王国の中で、魔法よりも科学に重きを置く国でもある。マロウズの目から見れば、いまだ拙い科学だったが。
基地の天幕の中にある執務の机に向かっていたマロウズは、一息入れるために外へ出た。
魔法師と、魔法士は、交互に見張りを立てて、周囲を監視している。
今日は、マロウズの当番ではなかったので、夕食時に軽く麦酒を飲んだ。ほろ酔いにも満たないが、気持ちは少し緩んだのかもしれなかった。
彼は、先日あの円盤が現れた山の方へ目をやった。
空はすっかり日は落ちて、濃い藍色の空に白い月が昇っていた。
マロウズは大きく息を吐いた。
あのような乗り物――向こうの星より少し旧式に見えた――が、この星の世界にあるということが、彼には驚きだった。
『古き者たち』とは、いったい何者たちなのだろうか?
そう思ったとき、目の先にある林で何か動いた気がした。彼は目を凝らす。
一瞬、木の陰に人の衣が揺れたように見えた。
彼は身構えた。そろそろと、その影に向かって近づいて行った。
敵か? ならば火の縄で拘束するまでだ。火の使い手でもある彼にはたやすいことだった。
マロウズが林に入ると、その人影は、さらに奥へ移動した。
彼はその後を追う。
しばらく行くと、その人影はうずくまった。
マロウズは警戒しながら歩を詰める。
そして、はっとした。
女だった。
薄茶のチュニックを着た娘が苦しそうにうずくまっているのが見えた。
マロウズは、警戒しながらも娘に近寄った。
「どうしたのだ? 大丈夫か?」
娘は両腕で胸を押さえている。どこか具合が悪いのだろうか?
「苦しいの・・・」
娘はうつむいたまま言った。
その声にマロウズは、息を呑む。ウタハ? 似ている声だ。
彼は、娘の肩に手を置いて、顔をのぞきこんだ。
「あ、ウタハじゃないか、どうしたのだ? こんなところで」
苦し気な顔で目を閉じているが、見慣れたウタハの顔だった。
「何かあったら、おれを呼べと言ったはずだろう? さあ、天幕へ行こう、医術師に診てもらうんだ」
マロウズは彼女を抱え上げようとした。苦しいせいなのか、彼に身を寄せてくる。
どきりとしながら彼女を見ると、目を閉じている。酔いのせいだろうか、急に閉じ込めていた熱い思いが湧き上がってくるのを感じた。思わず彼女の唇に顔を近づけた。そのときだった、ぱっと目を開けた娘は腰に差していた短剣をマロウズの首を目指して振り上げた。ウタハじゃない! そう思ったとき娘が「ぐっ」という声と同時にマロウズの前に倒れた。背には氷の刃が数本刺さっている。
顔を上げると、そこにはミルルが立っていた。
「甘いわね・・・よく見なさい」
マロウズは娘を見た――娘ではなかった――そこには小柄な男が血を流して倒れていた。
「わっ」あわてて、その場から一歩離れた。そして不審げに言う。
「なんで、おまえがここにいるんだ?」
「あら、ご挨拶ね、命の恩人に」
マロウズは、声を詰まらせて、一瞬、黙った。
「わるかった、助けてくれてありがとう」
そういえば、ミルルは水魔法の使い手だった。氷の刃は得意技のはず。それで助けてくれたのだ。そこは素直にありがたかった。
「ウタハだと思ったのね? あのくらいならわたしでもできるわ」
ミルルは自分の首の下に手を当てて動かした。光が揺らいで全身を包んだ。と、ウタハの姿がそこに現れた。
「どう? 気に入った?」
「やめろって」
「そう? いつもこれで、あなたに会いに来ようかしら」
「わかった、もうやめてくれ」
マロウズは自己嫌悪と恥ずかしさで顔を赤くした。
ミルルはホログラムを消して元の姿になった。
「冗談抜きに、気をつけた方がいいわね。やつらの手の者でしょう、おそらく」
「うむ・・・なぜ、おれを・・・」
「仲間だからじゃない?」
「・・・」
マロウズは黙り込んだ。
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