新たな結界⑵
「――夜中に城に戻って、父上に・・・王に報告しに行ったのだ。緊急事態だったからね」
「何があったのです?」
「以前から各地に大穴が開いているのを、調査していたのは知っているだろう?
あれの正体がはっきりしたのだ。地中から飛び出した白い乗り物――向こうの星の言葉で言えば、宇宙船だ。円盤状の。
私が行ったときには、すでに消えかかっていたが、それでも形が分かるほどだった。何機ものそれが、空中で動いていたのだ。しかし、しばらくすると消えてしまった。
マロウズが言うには、初め一機が上空にあり、見る間に山影から十数機現れたそうだ。なぜだろう? まるで私たちに姿を見せつけているようだった・・・」
ウタハは、はっと息を呑んだ。
「年越しの最後の鐘が鳴ったとき、わたしはそれに吸い込まれそうになったのです。次元の揺らぎ・・・たぶん次元の隙間から、それがわたしを狙って・・・でも、あのかたに、ルシクリオン様にまた助けられました・・・」
「そうだったのか! しまった、きみを一人にすべきじゃなかったね。許しておくれ」
「いいえ、しかたのないことでしたもの」
「――彼は不思議な人物だね。闇の魔法の使い手だと聞いているが・・・会えたら礼を言わねば。きみを助けてくれたのだから」
ウタハはうなずく。
「それにしても、してやられたかもしれない。あの円盤の者たちの目的は、きみだ。向こうに姿を見せたのは、そのための陽動だ。そうとしか思えないね」
「ええ」
「そうなると、きみをこちらに来させた王の考えも悪くはないか・・・報告に行ったとき、きみをこちらに滞在させると王は言ったのだ。こんなに早くなるとは思わなかったが。
この部屋は城の中でも安全な場所だ。結界も十分張られているし、侵入者がいても、ここまで来るには困難な場所でもあるからね。私もきみのために新たな結界を張っておこう」
エランは立ち上がって、呪文を唱え両手を空中で動かした。光り始めた手の動きに合わせて空気が波打ち震えた。濃密で透明なベールが部屋を覆ったのを、ウタハは感じ、見てとった。
「今のは?」
ウタハがたずねた。
エランはウタハの手をとって立たせ、抱きしめると、ウタハの髪を撫でながら言った。
「私の結界以外の中に、きみを入れたくないのだ。だから、前のを解除して張り直したのだよ」
彼はくすっと笑った。
*
「くそ! 私の結界をやすやすと解除するとは・・・」
ヴィデールは悔しげに悪態をついた。
自分の張った結界が消えたことを感知したのだ。
それを聞いていた弟子の古の魔法師が驚いた顔をした。
「ヴィデール様の結界を解除できる者がいるとは、信じがたいことです」
ヴィデールは椅子から立ち上がって、自室の暖炉の前に移動する。
「あのかたの結界魔法には、誰も及ぶものはないだろう。それほど魔力があるということだが・・・」
「それは、いったい、どなたです?」
「第三王子だ。天才と言ってよいほどの魔法師なのだ。まだ十八になるかならぬ歳なのだがね。それですでに古の魔法師なのだから王も一目置かれるわけだ」
「第三王子殿下のことは、聞き及んでおります。そうでしたか、どこの結界を解除されたので? お聞きしても?」
「例の娘が滞在することになった中二階の部屋だ」
「そうでしたか、あの部屋の・・・」
「しかも、あのかたは新たに自分の結界を張ってしまわれた。私の眼が見通せぬ結界。実に腹立たしいが・・・ここは我慢するしかないがな」
「お茶をお入れしましょうか? 少し気持ちも落ち着かれましょう」
「いや、それはよい。王がお呼びのようだ」
ヴィデールは、すっとその場から消えた。
*
ここは、とある国境近くの地下深い場所――
いつの間に造り上げられたのか、格納庫らしい広い空間に、今、一機の白い円盤が降りてきて停まった。開かれていた格納庫の天井は、それが着陸すると同時に閉まる。
中から現れた黒っぽい長着を着た男は、まっすぐ奥の扉を開け、地下に続く階段を降りた。
その少し先に円形の扉が見える。男は扉に手をかざした。すると扉は静かに左右に開いた。
男は慣れている足取りで中に入って行く。
男の立ち止まった場所は、白い長着を纏った老人が座る机の前だった。
長い髭を撫でて、老人は口を開いた。
「ぬかったな」
「面目ない、まさかあの者が現れようとは・・・」
「闇の貴公子とか、言われておるやつか?」
「あの者はいったい・・・知っておられるか?」
「――おそらくは、娘と関わりのある者であろうな・・・」
「関わりというと?」
「あの娘の素性に関わる者じゃ。おそらくな」
「しかし、あの娘は例の魔女がこの地に呼び寄せた者。やつはそれを知っているのだろうか?」
男は首をかしげた。
「うむ、鍵はあの魔女にあるな・・・」
老人はつぶやく。
「魔女を捕えよう」
「やめておけ、あれは、この世界の者ではない。捕えようとしても、無駄なだけじゃ」
「では、どうすれば?」
「娘の仲間を片付ける方が早いかもしれぬ」
「なるほど、案外、自分のことは油断しているかもしれませんな。策を練りましょう」
「北は順調か?」
「はい、そろそろ報告が来る頃」
「我ら『古き者たち』の望みを叶える第一歩じゃ。心せよ」
男はうなずいた。
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