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フォラードの光  ― 星の記憶者 ―  作者: あけの星
第三章

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54/65

新たな結界⑴

 

 ウタハは、先ほど侍女が運んできてくれた温かい紅茶を飲みながら、ため息をついた。


 新しい滞在場所となった、王城の部屋の客間から窓の外を眺めた。クリスタルガラス越しに、花のない花壇から続く通路の先に東の塔、その後ろに遠く山脈がかすんで見えている。


 年越しの舞踏会の翌日の今日、城からの使者がやってきて、城に滞在するよう言った。急な話ではあったが、王命ということで、あわただしく館長の屋敷を後にしたのだった。  


 昨夜は、花火が終わるころ、フィデリスが探しに来てくれて、館長夫人と合流することができた。おかげで無事に屋敷まで帰って来れたのだった。


 待っていてくれたフローリに着替えさせてもらうと、すぐベッドに入った。

 メイドが出て行ったのを確認すると、ウタハはアルを呼び出した。


 アルはいつも通りの顔で現れた。

「アル、さっきは助けてくれてありがとう。だけど、あれはいったい、どういうこと? なぜ、ルシクリオンがあなたの名を知っていたの? 教えて」

 アルは「あにゃ~うにゃ~」と、知らないふりをしようとしていたが、ウタハが怖い顔で見つめているので、観念したらしかった。

「それはだにゃ~、長い話になるのにゃ~」

「簡単でいいから」

「うんにゃ、アルはにゃ、ルシクリオン様ににゃ~創られた猫にゃ。あのお方はにゃ、わがにゃ~魔物王国のお世継ぎにゃのだにゃ~」

「魔物王国? そんなのがあるの?」

「だからにゃ~、長い話になるにゃと言うたにゃ~」

「わかった、話して」


 鳴き声がうるさいので、聞いた話を早送りでまとめると、次元を超えた場所にはいくつも世界があり、にゃにゃぁ(早送り)、その中の一つに、かつて魔物とともに暮らす人々の国があった。にゃにゃぁ(早送り)

 しかしその国が戦争で滅び、穏やかな性質の魔物たちが、他の世界に拡散してしまった。すると悪意ある者たちの手によって創り変えられ、魔物は世界に害なすものとなった。にゃにゃ(早送り)

 新たな戦いの末、それらの魔物を集め、統率した者たちがいた。にゃにゃぁ(早送り)やがて彼らの国が魔物王国とよばれるようになり、その国の王の息子で、強力な魔力を持つ彼が世継ぎと言われている。

「――と、いうことにゃ~」

「そういうことだったの・・・でも、ルシクリオンって・・・」

 彼から光の環が降ってきたことを思い出した。

「すごい魔力のあるお方にゃ~」

「ま、いいわ・・明日考えましょ。アル、寝よう」

 ウタハは、ベッドの上で、ひょいとアルを高く持ち上げた。

「こうして見ると、あの姿が信じられないけどね」

「にゃ~にゃ、うるさいにゃ」

 バタバタ足を動かすアルを傍らに下ろした。

「おやすみ」

 頭を搔いてやりかけて、そのまま眠りに落ちた。


 *

 

 昼前まで寝て、そろそろ起きようと身体を起こしたとき、フローリがあわてた様子で駆け込んできた。

「大変でございます、お城から御使者が来られて。馬車が待っています。すぐ、登城のご準備をなさってくださいませ」

 眠たげなアルを帰すと、ウタハは急いで身支度する。何事かしら?

 いつものチュニックの上に弟子の長着を羽織り、本邸に向かう。

 フローリがウタハの荷物をまとめ、布に包んで後についてきた。


 本邸のリビングでは、夫人が落ち着かなげに立っていた。

 ウタハを見ると、急いで近寄ってきた。

「ウタハさん、あなた、第三王子と婚約なさるの? 城に滞在するよう、お達しがありましたのよ」

「あ、ええ。婚約のお約束はしましたが、滞在とは? 何も聞いておりませんが・・・」

 驚いているウタハに、夫人は言った。

「夕べ、王とのお話はそれでしたのね。わかりました。さあ、使者が待っています。馬車の方へ」

 彼女はウタハを伴って、玄関口へ向かった。

「なんだか、わたしもよくわかりません。ご迷惑をおかけしたみたいで・・・」

 申し訳なさそうに言うウタハに夫人はうなずいた。

「いいのよ、あの方たちの、いつものやり方ですもの」

 ウタハは世話になった礼を言い、使者に手を取られて馬車に乗り込んだ。


 それが、先ほどまでの出来事だった。

 ウタハは部屋へ運ばれてきた遅い昼食を食べ終え、紅茶を飲んでいた。


 ウタハは目を閉じる。目の前には、数々の映像が次々に浮かび上がる。

 それら一つひとつの意味を、今はすべて理解していた。懐かしい人々、そしてこの星のこの地へ来た、勇気ある同志たち。そして愛しい人の顔も・・・


 ――そう・・・あのとき、赤の魔女はわたしを訪ねてきた。庭の東屋でお茶を飲んでいたわたし。ちょうど婚約が決まった日だった。彼女は赤いローブを纏って現れたのだ。


「――が、・・・に、なれるかどうかの実験でもあるのです。それには、あなたの力が必要なの。あなたの持って生まれたものは、かの星で培われ生まれたもの。それはこの星に、この世界に継承すべきものだわ。それが一つの運命を変える力もある・・・あなたは、ここで小さな幸せを得て、それで十分と?」

 わたしは彼女の言葉を聞いて、激しく動揺した。

「どうして? なぜ? そんなことが・・・わたしに力があるなどと・・・ありえないわ」

「それなら、なぜあなたの周りには光が揺らいでいるのかしら? それだけでも違いがわかるでしょう?」


 そう、わたしはいつも他の人と違うと・・・わたしの身体の周りには、たえず光の粒子が揺らめいていた。年齢を重ねるたびに、周囲の者から他の人との違いを指摘される。いつしか、ひとり閉じこもることが多くなった。両親や兄たちは心配して、常にわたしを守ろうとしてくれた。兄や理解ある兄の友人たちは、家庭教師としてわたしに学問を教えてくれたのだった。その中にマロウズもいて・・・ああ、そうだったわ・・・


「少し、考えさせてください」

 わたしがそう言うと、赤の魔女は「また来るわ」と――

 遠い記憶がゆらゆらとぼやけて消えた。


 ウタハはまた、ため息をついた。


 部屋の扉が軽く叩かれて、侍女が入ってきた。

「王子殿下がおみえになりました」

 ウタハは、少し驚いたが、うなずいた。

「お通ししてください」

 

 軽やかな足取りでエランは部屋へ入ってきた。

 今日は白に近いグレーの長着を着ている。

 ウタハは魔法師の礼で迎えた。

 

 応接のソファを勧め、侍女にお茶を頼んだ。

 エランは、その一連のよどみのない動作を見て、眉を上げた。

「ウタハ・・・もしかしてきみは――」

 ウタハは、にっこり微笑んだ。

「はい、思い出しました。といっても、まだすべてではありませんが・・・」

「そうなのか! よかった」

 エランはウタハの手をとって強く握りしめた。

 そのままソファアに腰を下ろし、ウタハも傍らに座らせる。

「侍女がきますわ」

「かまわない。私たちは婚約するのだし、事実あの星ではそうなのだから」

 ウタハは首を横に振った。それから彼の手を外して、向かいの椅子に座り直した。

「向こうとは、違いますから。それより、なぜ、こんなに急にわたしをお城に?」

「それなんだが・・・」

 話しかけたとき、侍女がお茶を入れて運んできた。

 彼女がテーブルにお茶を置いたのを見て、エランが言った。

「少し、はずしておくれ」

 侍女は礼をして部屋から出て行った。




ブックマーク、ありがとうございます!

              m(__)m☆

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