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フォラードの光  ― 星の記憶者 ―  作者: あけの星
第三章

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カウントダウン


 バルコニーから広間へ戻ってきたとき、ウタハは突然声をかけられた。

 声の方を見ると明らかに酔いがまわっている中年の男だった。立派な装束を身につけているところを見ると上級の貴族かもしれなかった。


「どうです、一曲お相手していただけないかな」

 ウタハは、踊れないからと言って断ったが、しつこく言ってくる。

「失礼します」そう言って離れようとすると、腕を掴まれた。


「まあ、いいじゃないか、一曲だけだ」

 ウタハが腕を振って放そうともがいたとき、男の手を引き離してくれた者がいた。

「私の連れに、失礼なことをしないでもらいたい」

 毅然とそう言って、ウタハをさっと男のそばから連れ出してくれたのは、黒い仮面と黒い装束に身を包んだ青年だった。後ろでは中年の男の、罵り声が聞こえた。かまわず、青年はウタハの背を押して、安全な場所へ移動した。


 夜も更けるにしたがって、大広間では音楽に混じって、いっそうにぎやかなざわめきが続いている。ここからこっそり抜け出した恋人たちや、酔って醜態を見せる貴族たちもいた。


「ありがとうございました、助かりました」

 ウタハは淑女の礼をした。

 青年は微かな笑い声をもらした。

「ちゃんとできるようになったのだね」

「えっ」

 ウタハは顔を上げて、青年を見た。

 黒い長い髪を一つに束ね、同じ黒い仮面をつけた黒ずくめの青年。仮面の奥の瞳には見覚えがあった。まるで夜空を映した濃い紺青の瞳――

「あ、あなたは、ルシクリオン・・・様・・・」

「おや、覚えていてくれたのだね」

「もちろんです、わたしを助けてくださった恩人ですから。あのときは、ありがとうございました。今回もまた助けられました・・・」

「気にすることはない。私は自分のしたいことをしただけだ。そうだ、そろそろ年越しの鐘が鳴る。気をつけたまえ、過ぎる年と新年の境目には揺らぎが起こりやすい。次元のずれが起こることもあるのだよ。一瞬の刻にしか過ぎないが、注意するに越したことはないからね。何かあれば、使い魔を呼びなさい。では、よい年を」

 ルシクリオンは、片手をちょっと上げて、去って行った。その後ろ姿を見ながら、なぜか先日のノクィース先生の姿がだぶって見えた。


 何かあった時は、使い魔を呼ぶ・・・ってことは、アルよね。マロウズは忙しいから。

 そう思ったとき、アルが見えない空間を足で搔きながら、早く呼べにゃ~と催促してる気がした。まだ何も起こってないわよ。ウタハはアルに言った。聞こえたかどうかはわからないけれど。しかし、たとえ出したとしても、助けになるのかどうか、はなはだ疑問であった。反対に、こちらが助けることになるのでは、とクスリと笑う。


 年越しの鐘が鳴り始めた。

 広間では、音楽が止み、集まった人々は鐘が鳴るたび声をそろえて、鳴った鐘の数を叫んだ。鐘は十二回鳴って、新年になる。花火目当ての者たちは、数えながらバルコニーへ移動し始めていた。ウタハもその後に続く。


 バルコニーに足を踏み入れたとき、十二回目の鐘が鳴り始めた。と、そのとき、あたりの空気が震え、大きく揺らいだ。上空から青白い光が落ちてきた。見上げると空に丸く平板な何かが発光しながら回っていた。花火が打ち上がると同時にそれは青白い光を下に向けて放ってきた。あっと声を上げる間に、ウタハの身体が浮いた。しかし誰も気づいていない。もしかして、ここは次元の隙間? ウタハは逃れようと、魔法の風を起こそうとしたが、起こせない。ウタハを包む光が魔力をを阻害しているのかもしれなかった。ぐんぐん吸い込まれていく。ウタハはアルを呼んだ。

 アルは空中で一回転して、いつもの大きさになると、ウタハの背中にすがりついた。

「――なんなのぉ、そこにいないで、なんとかして、アル!」

「だめにゃ~、動けにゃいにゃ~、す、吸い込まれるにゃ~」

 そのとき、ウタハを追ってきた黒装束の青年が、丸い平板なものに向かって大きな稲妻を放った。轟音があたりに響き周囲の空気を震わせる。

 ウタハはもう吸いこみ口が見える位置まで来ていたが、それはぐらりと揺れて、吸い込みを止めた。同時にウタハは悲鳴を上げた。ウタハとアルは落下していく。そのとき、黒装束の青年――ルシクリオンが叫んだ。「ウォラー、アウルム! 翼を出せ!」

 その声とともにアルは見る間に巨大化して翼を伸ばした。黒い身体が金色に変化する。アルはそのままウタハを背に乗せ、金色の鷲に似た翼を羽ばたいてルシクリオンのところまで行き、彼も乗せた。


 アルの激しい魔力の表出にウタハは意識が朦朧となってアルから落ちかけた。が、すぐに彼に抱きかかえられるのを感じた。ルシクリオンの言葉が響く。

「――目覚めよ、彼方の星の記憶、今ここに――」

 彼はウタハの額に自分の額をつけた。

 ウタハは幾重もの光の環に包まれるのを感じたが、覚えているのはそこまでだった。


 気がついたときは、ウタハはいつものアルを抱えて、バルコニーの片隅でうずくまっていた。花火はクライマックスを迎えていた。人々の視線は花火に向けられ、ウタハに気づいた様子もなかった。

 あれは・・・いったい・・・

 



今回も読んでいただき、ありがとうございました!☆!

誤字、脱字など、見つけられましたら、お知らせいただけると助かります。

よろしくお願い致しますm(__)m


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