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フォラードの光  ― 星の記憶者 ―  作者: あけの星
第三章

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年越しの舞踏会⑷

 

 翌日、夫人に呼ばれて、本邸の夫人の部屋を訪れた。


 夫人は三着のドレスを用意していた。

「これなど、どうかしら?」

 ウタハを等身大の鏡の前に立たせて、ドレスを当て、自分ものぞき込みながら言った。それは、濃い緑のシックなドレスだった。


「こちらでもいいかしら」

 今度は淡いピンクのドレス。

「少し可愛らしすぎるかしらね、では、こちらはどうかしら」

 三つ目のドレスは光沢のある濃紺のドレスだ。


「気に入ったのはあるかしら?」

「では、それを」

 ウタハは濃紺のドレスをお願いした。


「このドレスは少し大人っぽく見えて素敵ですよ。そうね、それに似合うアクセサリーが必要ね。明日、ドレスと一緒にフローリに届けさせるわ。ちゃんとお仕度するのですよ。フローリが手伝ってくれますからね」

 ウタハが礼をすると、夫人は満足そうに「アクセサリーはどれがいいかしら」と、つぶやきながら奥の部屋へ行ってしまったので、ウタハも離れへ戻った。


 離れに戻ると、入口の近くの木にとまっていた白い鷹が、ふわりとウタハの肩に止まった。使い魔なので、軽いし、爪も立てない。嘴にエランからの手紙をくわえていた。


 肩に鷹を乗せたまま部屋に入る。

 ソファに腰を下ろして手紙を読んだ。

『館長の屋敷に移動魔法で行くのはまずいので、そちらには行けないが、明日、城で年越しの舞踏会があるから来ないかい? 馬車をよこすよ』と書いてあった。


「ちょっと待ってね、お返事かくから」

 鷹をテーブルの上に下ろすと、持ってきた荷物の中から便箋と羽ペンを取り出して、『館長夫人に誘われて一緒に行くことになってるから、会えると思います』と書いて使い魔に渡した。

「よろしくね」

 ウタハがそう言うと、今日は鷹はゆっくりと姿を消した。

 アルを出していなくてよかった。

 

 *


 次の日は、昼食後から大仕事が待っていた。もっとも、一番大変なのはメイドだったけれど。

 フローリがドレスとその上に羽織るケープ、アクセサリーなど舞踏会用の一式を、離れに持ってやって来た。


 フローリは来るとすぐに風呂の用意をして、湯浴みするよう言った。頭も身体も洗ってくれようとしたので、自分でするからと、固くお断りした。

 風呂から上がると、頭を布にくるんで乾かしている間に、香りのよいオイルを使ってウタハをマッサージをしてくれる。それが終わるとウタハは用意されたドレスに見合った下着とドレスを着る。

 簡単に思えるが、社交用のドレスを着るのは一苦労。一人で着るには困難過ぎると、あらためてわかった。

 布に隠れた、たくさんの小さなボタンが後ろについていて、自分では留められない。メイドに留めてもらってやっとだ。しかもぴったりしているので、お肉が多いと押し込むのが大変だそうだ。

 フローリは「ウタハさまは、まだ細くていらっしゃるから楽ですわ」そう言いながら、背中のボタンを留めてくれた。ドレスを着ながらウタハは、ひとりでにボタンを留められる魔法を考えよう、と思ったのだった。


 ウタハの髪の毛をまとめようとフローリが手を伸ばした。

「あっ」と彼女は声を上げて自分の指を押さえた。

「今、なぜかビビッとしましたわ」

「ああ、うっかりしてました。痛みますか?」

「少し。何だったのでしょう、あれは」

「ごめんなさいね、わたしの髪は――ほとんどの人は触ると痛いらしいのです。手を見せてくださるかしら?」

 フローリは右手の指を見せた。少し赤くなっている。

 ウタハは彼女の手を取って、ヒールの光を送った。


「ヒールもおできになるのですねえ、ありがとうございます。もう大丈夫です。痛みも取れました」

 そう言って見せた指は赤味も消えていた。

 ウタハはフローリに両手を出してもらい、保護結界をかけた。

「はい、これでもう痛くならないと思います。保護の結界をかけました。まだ痛いなら追加しますから、ちょっと髪を触ってみてください」

 フローリはうなずいて、ウタハの髪におそるおそる触れた。

「ああ、大丈夫ですわ。さあ、きれいに結い上げましょう」


 フローリはウタハの髪を器用に編み込んで、美しく結い上げてくれた。

 それから薄く化粧をする。軽く頬紅を()いて仕上げた。ウタハは化粧をするのも、してもらうのも初めてだったので、慣れた手つきで動くメイドの手を興味深く見つめていた。

 髪に青い花の髪飾りの櫛を挿し、イヤリングとお揃いのサファイアのブローチをつけて支度は完了した。


「さあ、ご自分でもごらんになってくださいな」

 フローリに手を引かれて本邸から運んできた等身大の鏡の前に立った。

 そこには、見たことのない、うら若い一人の女性が立っていた。

 濃紺のドレスの首周りはタートルネックになっていて、そこから胸までは同色のレース。そのきわに小さくフリルがついていた。長袖の袖口にも同じフリルがあしらってある。胴回りは黒に近い紺のサッシュで後ろにリボンを作る。スカート部分はふんわりと足元まで。濃紺地の光沢が絶妙で大人っぽすぎず、かといって幼過ぎないドレスだった。

「まあ、とっても素敵ですよ。よくお似合いです」

 フローリは首の下のブローチの位置を手直ししてにこりと笑った。

 出来栄えに満足したらしかった。


 その後、本邸に移動すると、襟元から裾まで金糸で刺繡された華やかな緑のドレスを着た夫人が、リビングで子どもたちと話をしていた。

 夫人は、待ちかねていたらしく、ウタハの姿を見てほっとした表情になった。

「まあ、素敵な仕上がりになりましたわね。こちらにいらして」

 そばにいたフレシアとフィデリスが一斉にウタハの方を見た。

「ウタハさん、とってもきれい! ドレスがお似合いよ。いつもドレスにすればいいのに」

 フレシアの裏表のない素直なほめ言葉に、ウタハは恥ずかしげに微笑んだ。

「ありがとうございます」

 ウタハは三人に向かって、淑女の礼をして見せた。

「淑女の礼もお出来になるのね、少し安心しました。魔法師の礼でもいいのですが、やはりね、舞踏会ですから」

 ウタハは一瞬リモーネ先生の顔を思い浮かべた。(教えてもらっててよかった・・・)

「さあ、出かけましょう、フィデリス、エスコートして差し上げなさいな。フレシア、ポーサに、面倒かけてはいけませんよ」

 夫人は家令やメイドにいくつか注意を与えてから、フレシアに手を引かれて馬車へ向かった。ウタハが、貸してもらった白いケープを羽織ると、フィデリスがおずおずと手を差し出した。


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