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フォラードの光  ― 星の記憶者 ―  作者: あけの星
第三章

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47/65

年越しの舞踏会⑴


 今年も後、三日ほどで終わろうとしていた。


 古の魔法師の館では、ほとんどの弟子や見習いは帰省して、館にはわずかしか残っていなかった。教師の魔法師たちも同じであった。この村に家のある者や、王都に屋敷がある者たちも同様に館を後にしていた。マリエヌやフレイムも帰って行った。

 残っているのは、最低限の館を維持していくに必要な人々だった。


 同室のミルルも早々に「家に帰る」と言って帰ってしまった。

 ウタハは、トイサには帰れないとあきらめているので、寂しさはあったが、もう悲しむことはなかった。かえって静かになった館とノクィース教室を往復する毎日は、そこそこ楽しかった。そばには猫のアルが――使い魔なのに使われてしまうウタハだったが――いてくれるおかげかもしれなかった。


「頭を搔いてくれにゃ~」「足もんでくれにゃ~」という度に、その通りにしてやるのだが、アルを撫でたりマッサージしたりすることで、かえって癒されていると感じる。しかも、落ち着かないと思った黒い毛先の金ピカも、見慣れてしまえばなんということもない。


 それにアルの肉球は毛の色に似合わないピンク色で、見るだけで可愛い、まるで子猫のようだった。もしかしたら歩くことがあまりない使い魔だからかもしれない。

 ただ、大人しく命令を聞くことは、あまりない。文句と不平はたいていついてくる。ノクィース先生やエランの前とは、態度が全く違うのだった。


 エランとマロウズには、この前、アイジェルとみんなで会った日以来、会っていなかった。二人とも新たな調査で忙しいらしい。アイジェルは、静養を兼ねてトイサに戻ったと聞いていた。


 ウタハは、トイサから持って来ていた小さな鏡を見ながら、髪を一つにまとめ、弟子の証である淡い水色の長着を羽織った。


 さきほど、館長から呼び出しがあったのだった。ウタハは支度を整えて部屋を出た。館長室は、この棟の最上階、五階にあるのだが、行くのは初めてだった。それに、ひとりで館長に会うのも。


 アルに声をかける。

「館長様に会いに行くから、消えてちょうだい」

「うんにゃ~、ついて行くにゃ~、ウタハを守るにゃ~」

「ダメ、大事なお話かもしれないからね。いい子にしたら、帰ってからパンをあげるから」

 このところ、アルは夕食に出る小さいパンがお気に入りなのだ。一度残りを持って帰ったとき、アルはそれ見つけて、「欲しいにゃ~」というので、ちぎってやると、なめたり噛んだり、しまいには、鼻の上に載せて、鼻息でふーふー浮かせて遊んでいる。変な猫だ。

「約束にゃ~」

 そう言って、しぶしぶ消えた。


 ウタハが緊張気味に館長室へ入って行くと、館長は執務用の机の前に座っていた。彼はそばへ来るように言った。

ウタハは上位の魔法師に対する礼をとってたずねた。

「ご用は何でしょうか?」


 館長は顔を上げて、眼鏡の奥からウタハをじっと見た。白髪は混じり始めているがマロウズと同じ金茶色の髪に、緑がかった茶色の瞳をしている。

 館長は眼鏡をはずしながら、口を開いた。

「館での暮らしには慣れたかね?」

「はい、すっかり慣れました」

「それは、よかった。しかし、もう暮れだ。ほとんどの者たちは帰省しているが、きみは帰れないでいるね。そこでだ、今日から館が休みの間、私の屋敷に来なさい。娘もいるし良い話し相手になると思う。もう屋敷内の離れを使えるようにしてある。そこで年を越すといい。どうかね?」


 思いがけない提案だった。ウタハは返事に詰まった。これは命令に違いなかった。だが、ウタハのことを気にかけて考えてくれた提案なのだろう。断ることもできなかった。

「ありがとうございます、よろしくお願いします」

 ウタハは頭を下げる。

「では、すぐに支度をしなさい。昼食後に迎えの馬車がくるよう手配してある」

「わかりました」

 ウタハは、急な話に驚きながら、返事をすると礼をして館長室を出た。


 ウタハは急いで自室に戻り、数少ない着替えと身の回り品をかき集め、トイサから持ってきた大きな布に包んだ。

「さあ、これでもう大丈夫だわ」

 昼食には少し間があったので、アルを呼び出した。


「アル、あなたお使いはできるわよね?」

 今まで連絡をさせたことがなかったので、聞いてみた。

「もちろんにゃ~。どこだってにゃ、大丈夫にゃ~」

「ほんと? じゃあ、エランのところ行ける? 調査に行ってるんだけど、場所はわからないのよ」

「それは無理にゃ~、うんにゃ、行けるにゃ~エランわかるにゃ~」

「じゃあ、伝えてくれる? 今日からウタハは館長様のお屋敷に行くことになりました、って」

「伝えてくるにゃ~」

 アルは勢いよく姿を消した。

 エランに会いたかったのかしら? と思うほどだった。自分も行きたくなった。会いに行きたい。移動魔法が使えたら・・・でも――と思う。調査の邪魔になりそう。それに――みんなは思い出していることが、自分にはまだ思い出せていない、それが申しわけない気持ちになるのだった。


 昼食後、ウタハは館長が手配した馬車に、布で包んだわずかな荷物を持って乗り込んだ。

 行先は王都にある館長の屋敷だった。



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