星の記憶⑷
エランとともに救護所のアイジェルの部屋へ着いたときには、マロウズがもう彼のそばにいて、二人ともベッドに腰を下ろして話をしていた。
入ってきたウタハとエランを見て、アイジェルは立ち上がった。
近づいてきたエランと懐かしげに肩を叩き合い、握手をした。そしてエランの後ろにいたウタハの方を見た。
ウタハがアイジェルに駆け寄ると、彼はしっかりとウタハを抱きしめた。
「よかった・・・元気になってくれたのね」
「ああ、お前たちのおかげだよ。二人の癒しの光を感じたんだ」
ウタハは、懐かしい、温かな胸のぬくもりを彼から感じたとき、ふと、幻影が浮かんだ。一人ではない、三人の人影――が、自分に何か言っていた。誰? 何を言ってるの?
そのとき、エランの咳払いが聞こえた。
はっとしてエランを見ると、抱擁が長すぎだと言いたげな顔でウタハを見ていた。
(うっ――)
ウタハは、アイジェルの腕から少し離れて言った。
「今、幻影を見たの」
「何を見たんだい?」
アイジェルがウタハの目をのぞきこんだ。
「誰かの人影が・・・男の人みたいだった・・・三人いて、わたしに何か言ってた。でも、よく聞こえなかったの」
「――たぶん、それは・・・おれを含めたおまえの兄たちだ。向こうの世界では、おまえは、おれの妹なんだよ」
ウタハが不思議そうにアイジェルを見る。
「向こうの世界? 妹?」
「まだ本当に何も思い出せないのか?」
「――ときどき、断片みたいに 浮かぶものはあるのだけど、それが何を意味するものか、わからないのよ」
ウタハは悲しげに首を振る。
「もしかすると・・・」
エランが口を挟んだ。
「ウタハには、古い保護結界がかけられているのだよ。知っていたかい? それが記憶の回復を遅らせているのではないか、と思えるのだが、どうかな?」
「ああ、そう言われれば、以前トイサの親父から聞いたことがある。保護結界がかけられていると。それは解除できないのかな?」
「残念ながら今の私には、まだ無理のようだ・・・」
「エランは、古の魔法師の称号を得ているんだよ。それでもできないということになると・・・もっと上位の魔法師ということになるね、結界をかけたのは」
それまで黙って聞いていたマロウズが言った。
「魔法師長くらいかな?」
アイジェルは、マロウズの顔を見た。
「いや、もしかすると、もっと上だ」
「それなら、後は総長しかいないぞ」
「総長は、ほとんどこちらには、おられないからなあ」
「まて、結界をかけたのは、向こうの星の誰かではないだろうか?」
エランが言った。
二人は、びくりとしてエランを見た。
「まさか、赤の魔女・・・?」
アイジェルがつぶやく。
「あり得るな。しかし、そうだとすると何のためだ?」
マロウズが首をかしげた。
「やはり、時間の調節かもしれないね」
「エランは、まだ始まっていないというのかい? あれだけのことが、起こっているのに。アイジェルだって、こんなめに・・・」
マロウズは不満げに言った。
「そうだ。まだ館長たちが動いていないのだから、そうなんだろう」
考え込みながらエランが言ったとき、入り口の天幕の向こうから声がして、年配の女性が顔を出した。救護所の救護士長だった。病人の処置や世話、管理を引き受けているのだ。
「失礼いたします、そろそろ皆様、お時間です。お引きとりいただけないでしょうか、患者様がお疲れになってしまいますので」
有無を言わさぬ声と態度だった。
「おれは、まだ疲れてないし、大丈夫だよ」
アイジェルが言った。
「いいえ」すかさず、救護士長は言う。「起きられるようになったばかりです。まだお身体は完全に回復しておりませんわ。一ケ月も寝ておられたのですよ。少しずつ慣らしていくことが大事です。お医者様から、そう言われておりますの。もう今日は少しお休みください」
彼女はアイジェルの背を押してベッドへ向かわせた。
それを見て、エランもマロウズも逆らわず、ウタハをうながした。
「じゃあ、またな、アイジェル」
マロウズが声をかける。
ウタハもエランとともに手を振る。
「ああ、みんなに会えてよかったよ、またな」
返事をするアイジェルは、思いのほか疲れていたのか、少し顔色が冴えなかった。
ウタハは、救護士長が来てくれてよかった、と内心思いながら部屋を後にした。
今回も、読んでいただき、ありがとうございます!
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