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フォラードの光  ― 星の記憶者 ―  作者: あけの星
第三章

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42/44

絵の中の使い魔⑸


「ほら、見てごらん」

 エランが広げた地図の印をした場所を指さした。

 ウタハは言われた地図の位置を見た。

 エル・フォラード王国と国境の少し上までが描かれた地図だった。

 北方に近い国境の辺りには、羽ペンで書いたバツ印がいくつも並んでいた。

「これが、今年の夏から今日まで異変のあった場所だ。きみも、知っておいてもいいと思ってね。館長たちは知らせたくないだろうが・・・私たちの同志が揃ったということは、用心するべき時に来ているのかもしれない。あれらの思惑より真実を見る方が先だ」


 ウタハはわからないなりに、エランが大事なことを言っているのだろうと思いながら聞いていた。たしかに、地図に記された異変の場所はかなり多い。


 マロウズは調査団のいる駐屯地へ戻って行ったので、彼の意見は聞けなかったけれど、エランと同じであるだろうと予想はついた。


「これからは、きみとも会わねばならない時が増えてくるはずだ。その度にマロウズを呼び出すのは忍びない。だから、この間から別の方法を考えていたんだ。ようやくその方法が見つかった。かなり私にとっても危うい魔法だったけれど、試してみた価値はあったよ。最後に、きみが行き来できるかどうか試して完成だ。一緒に行ってくれるね? 一度、館に戻るんだ」

 ウタハに異存はなかった。エランはうなずいた彼女を抱きしめた。

「アイジェルが現れた場所はどこだったの?」

「四階の通路よ。本館から、別棟のノクィース教室へ渡る通路ね」

「よし、そこへ行こう。うまくいけば、アイジェルも救えるかもしれない」


 二人は移動魔法で館の四階の通路に降りた。

 さすがに夜も少し更けてきて、人の通る気配はなかった。


 エランはウタハにアイジェルが現れた位置をたずねた。

「最初東側に現れて、西側へ移動したのよ」

 ウタハは思い出しながら言った。

 彼は、それを聞いて花壇の間を抜けて東側へ歩いて行った。そして別棟の建物の入口で立ち止まり、手をかざした。

「ああ、ここだ。アイジェルの微かな痕跡があるよ」

 ウタハは驚いて彼の手の先を見つめた。じっと集中して見つめていると、うっすらと青い光の粒子が点在していた。

「これが、アイジェルの痕跡・・・?」

「そうだね、おそらく。ここからなら、私の実験も確実だと思う。ここは次元の入口、扉だよ。一緒に行く勇気はあるかい?」

「行くわ」

 ウタハは真剣な声で言う。

「よし、では行くよ、いいね」

 エランはウタハの手を握って、片方の手を痕跡の上で動かす。そして呪文を唱えた。しばらくそれを繰り返していると、いきなり入口が開いた。二人は同時に暗い空間に突き落とされた。ウタハが落ちる!と思ったとき、エランの手がウタハを引き上げた。

「大丈夫だ、上に昇る意識を持ってごらん、そう、落ち着いて呼吸して」

 ウタハは、ふわふわと浮く自分の身体を感じた。

「ここは、すべて意識で動くのだよ。周りを見てごらん」

 ウタハは辺りを見回した。

 まるで夜空の星の中に自分たちが浮かんでいる。そんな感じに見えた。まぶしいほど輝く星々、渦巻き型のものや、不思議な形状の星の塊や、赤や紫の光を放つ星の雲も見えた。

「きみは自分を守る保護結界は、もう学んだかい?」

「ええ。教わりました」

「じゃあ、自分に張ってみて。そのとき、水泡の形を思い浮かべてごらん」

 ウタハは、保護結界を発動させた。エランの言う通り水泡の形を思い浮かべて。

「うん、いいだろう。ここに来たときは、そうしておけば安心だね」

 彼はウタハの周りに丸く水泡の形の保護結界が出来ているのを見て言った。それから自分も同じような形の保護結界をかけた。

 

「今度は、前に進むことを意識してね、いいかい?」

 ウタハはうなずく。

 二人は手を繋いだまま、前に進んだ。星々の少し先に大きな樹が無数に枝分かれしているのが見えた。その無数の枝先には幾千幾万の星々――と見える分岐した楕円状の宇宙が連なっていた。その大樹の林が広大な空間にどこまでも広がっている。


それぞれの人々が、生きてきた人生の選択をする、その度に生まれた未来と過去が、この大樹となっているのだった。一つ、新たな選択をすると、樹の枝から新たなその人の宇宙が生み出される。分岐された宇宙だ。その無数の星々とも見える宇宙の様は壮観でもあった。


「この中かから、彼の樹を探し出すのは大変だから、呼ぶしかない。ウタハ、きみがアイジェルの名を呼び、彼の姿を思い浮かべるのだ。きっと、彼のところへ導かれるよ。さあ、やってみて」

 ウタハは言われるままに、アイジェルの名を呼び顔を思い浮かべた。何度も強く思い浮かべていると、突然、ぐんぐん引き寄せられて、一つの大樹のそばに来た。

 エランがウタハを樹の上に引っ張り上げて、無数に枝分かれした先の分岐した宇宙の一つの前で動きを止めた。

 その楕円状の宇宙には、アイジェルがベッドの中で目を閉じていた。呼吸は静かに規則正しかった。

「さあ、きみがまずこの宇宙の中にいる存在に挨拶して、自分がしたいこと、アイジェルを助けたいことを、祈りを通して伝えるんだよ、そして彼に癒しと愛の光を送ってあげるのだ。私もきみを補助しよう」

 ウタハは心からの祈りを捧げ、アイジェルに向けて手を伸ばし癒しと愛の光を送る。その上から、エランの白い光が重なってアイジェルを包んだ。


 やがて――眠っていたアイジェルの宇宙は、するっともう一つの宇宙を分岐した。その宇宙ではアイジェルがゆっくり目を開けていた。ウタハとエランの癒しの光に包まれて。彼は微かに口を開いた。

「ああ、なんて優しい光だ・・・」

傍らにいた少女が、白金の髪を揺らして、彼の手を取り涙を流していた。


 エランはウタハに、光を送るのを止めるよう合図した。

「戻ろう、もう彼は大丈夫だ。それより私たちの方も急がねば危なくなってきた」

 二人は大樹の林を急いで離れた。


 二つの水泡の結界は繋ぎ合ったまま、星々のきらめく空間に戻ってきた。

「さて、ここからだ、館と私のところを行き来する方法だよ。さっきのやり方を思い出して。強く私と私の名前を思い浮かべて念じるのだ。そうすれば、私のところに引き寄せられるから。いいね、先に帰って待っているから、来ておくれ」

「わかりました、やってみます」

 エランはウタハの手に軽く口づけすると、一瞬で消えた。

 ウタハは、大きく息を吐いて、熱い思いでエランと彼の名を思い浮かべて念じた。すると――ぐっと強い力で引き寄せられる――この力は何なのだろう? わからぬまま気がつくとウタハはエランの居室で、彼の腕の中にいた。

「よかった! 成功だね」

 彼はきゅっとウタハを抱きしめて、額にキスをした。

「さあ、今度は向こうへ帰るよ」

 エランは立っていた後ろの壁に向かって手をかざし、呪文を唱える。すると、そこに雲の幕に似た入口がぽっかり空いた。

「さっき、きみはここから入ってきたんだ。心配なら保護結界をまたかけて。今度は、館の次元の入口を思い浮かべて、強く念じてごらん。すぐ、確認しに追いかけるよ」

 ウタハが保護結界を発動し、館の次元の入口を思い浮かべ強く念じた、と――いきなりまた壁の入口に引き込まれた。

「ああっ」と声を上げたとき、ぽんと館の次元の入口から吐き出された。

 ウタハは肩で息をつきながら、辺りを見回した。

(ついたわ! よかった・・・)

 ほっとしたとき、エランが姿を現した。

「これで、完全に成功だね!」

「おめでとうございます! ていうか、ありがとうございます、ほんとうに。アイジェルのことも・・・」

 ウタハは嬉しさのあまり思わず、彼を抱きしめてお礼の言葉を述べた。

 エランはウタハの顔を両手ではさんでそっと唇にキスをした。

 そして、少し照れた表情で「じゃあ、またね」と言い残して次元の入口に消えた。

 

 ウタハは彼が見えなくなっても、ぼうっとして消えた後をしばらく見つめていたが、やがて我に返って、ノクィース教室へ入って行った。


 テーブルの上には、猫の絵が置いたままになっていた。

 ウタハは椅子に座り、猫の絵に声をかけた。

「あなたに名前をつけてあげるわね、あなたはアウルムよ。いいわね。さあ、アウルム、出てらっしゃい」

 ウタハは絵の猫の姿を目の前に思い浮かべる。そして名を念じる。思い浮かべた猫の姿を現実の重さになるほど、ありありと目前に浮かべたとき、その思い浮かべた猫はついに実態を現した。額縁から前足を出し、次に頭を、そして全身を――

 

 アウルムは身体全体をふるふるさせて、ウタハに近づいてきた。おそるおそおるウタハの手に顔をこすりつける。

「いい子ね、さあ、いらっしゃい」

 ウタハは不思議な黒猫を抱き上げた。



今回も読んでくださって、ありがとうございいます!☆!

そろそろ佳境が一歩近づいたかもしれません。

引き続きよろしくお願いいたします☆

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