絵の中の使い魔⑷
二人がエランの部屋に着地したとき、エランは机の上に広げられた地図を見ているところだった。
「いったい何があったのかな?」
エランは地図から目を上げてたずねた。
「さあ、そこにかけて。突然来たわけを話してもらおうか」
エランの言葉に、二人は応接の椅子に腰を下ろして、彼に向き合った。
「ごめんなさい、急に来てしまって。でも、どうしても助けなくてはならない人がいるのです」
ウタハは緊張した面持ちでエランを見た。
一瞬、彼は愛しさのこもった眼差しを投げかけたが、すぐ真顔になった。
「それは、どういうことなのか、聞かせてくれないか」
「エラン、先月の山崩れの事故を覚えているだろう? あれに巻き込まれて、意識不明になった魔法士がいたのを知っているよな?」
マロウズが口をはさんだ。
「ああ、覚えているとも。私たちが駆けつけたときは、下敷きになった者たちが運び出されて行くところだったね」
「そう、その中の一人、今まだ意識を取り戻せていない男が、ウタハの助けたい人らしい。兄のような人だって」
「なんだって、兄?! もしかして・・・マロは、もう思い出したか? 私たちの関係を」
「ほぼな」
「私たちの同志は、もう一人いるのだ。彼女の兄だよ」
「あっ」
マロウズは、はっと気づいた声を上げた。
「なかなか出会わないので、どこにいるのかと思っていたのだが、こんな近くにいたとは・・・わかった、急ごう、彼の元へ行くのだ」
「じゃあ、おれは先に行って、医師におまえたちが来ることを知らせておくよ」
「場所は?」
「救護所の一番奥の部屋だ」
「わかった。だが、できるだけ内密にしてくれるかい?」
「了解」
マロウズはうなずくと、すぐ移動魔法で姿を消した。
ウタハは、二人の会話が、何を言っているのかよくわからなかった。
(兄? 幼馴染で兄みたいだけど、本当の兄ではないし・・・もう一人の同志って?)
「まだ、きみはよくわかってないって顔をしてるね。そのうちわかるよ、さあ、私たちも行こう」
エランは立ち上がって、ウタハの前に両手を広げた。
彼のそばへ来たウタハを、エランは胸に引き寄せて抱きしめた。
熱いものが二人を包む。
「会いたかった・・・きみは?」
エランは囁いた。
ウタハも、こくんとうなずく。こうして自然にうなずけるのが自分でも不思議だった。つかの間の抱擁であったが、ウタハはエランの胸の中で、先ほどまでの動揺と不安が和らぐのを感じた。
「安心して。私が助けるから」
彼はそう言ってウタハの頭を撫でた。
それから二人は移動魔法で城の救護所へ向かった。
*
ウタハたちが、救護所のアイジェルの部屋に着いたときは、マロウズが一人、ベッドのそばでアイジェルを見つめていた。
「アイジェル!」
ウタハは駆け寄った。
ベッドの上のアイジェルは、蒼白な顔をして、ほとんど息もしていないように見えた。
「しっかりして! わたしよ、ウタハよ、目を覚まして!」
ウタハはアイジェルの腕を軽くゆさぶった。
「さっき、息が止まっていたらしい。おれが少しヒールをかけたら、いくらか息をするようになったが・・・エラン、やってみてくれるか?」
マロウズが神妙な口調で言う。
「わかった、やってみよう」
エランは、アイジェルの顔をのぞき込んだ。それから彼の額に向けて手をかざし、呪文を唱える。彼の手から白い光がアイジェルの額に吸い込まれていく。やがてその光はアイジェルの頭の周りから次第に全身を包む。白い光の繭にも見えるその光は、しばらくそのままとどまっていた。
――と、白い光は、徐々に薄くなり、すうっと消えた。
アイジェルは、穏やかな息をしていた。顔色も少しよくなったかに見えた。
「一度では無理かもしれないね、しばらく毎日、私がヒールをしに来るよ」
エランがそう言ったとき、部屋の入口から声がした。
「もう、よろしいでしょうか? 容体を見たいのですが」
救護所の医師である魔法師だった。
マロウズは、エランの顔を見た。
彼がうなずくのを見て、マロウズが返事をした。
「お入りください。だいぶん落ち着きましたよ」
青年の医師は部屋に入ってきた。エランの姿を見ると、上位の魔法師に対する礼をとった。
「明日から、毎日ヒールをしたいが、よいかな?」
「もちろんでございます! お待ちしております。ああ、大分呼吸が楽になってきているようでございますな。ありがとうございます」
エランは、ウタハとマロウズをうながして、彼の部屋を出た。
入れ違いに魔法士らしい少女が部屋に入って行くのが見えた。




