それぞれの覚醒⑵ ミルルside
「まったく、あいつときたら・・・いつまでたってもヘタレな男だね・・・」
ミルルは口の中でつぶやく。
マロウズは何度、旅を・・・時空を移動しても変わらないな・・・まあ、まだすべてを思い出していないんだろう。わたしのこともまだわからないらしいし・・・
ミルルは、先ほどのマロウズの姿を思い浮かべた。
相変わらず、美少年風のたたずまいを見せる彼は、館の少女たちの憧れの的だ。それなのに、彼女たちが目に入らないのは、ウタハのせいだとミルルは知っている。いや、もしかするとエランのせいでもあるのかもしれなかったが。
ミルル自身は、なぜかわからないが、何度移動しても、そのままの意識を保っているのだった。たとえ、姿かたちに変化があろうとも。だが他の連中はかなりあやふやだ。すべて記憶を思い出したつもりでも、どこか、ずれていたり、ぶれがあるらしい。
ミルルは、かつてはマロウズの幼馴染で許嫁に近い存在だった。彼の親が冗談めかして許嫁にしたらと言ったのが、そのままになっている。
ミルルはこんなふうに、移動する原因になった一番最初の時代も覚えていた。ただ、その世界は思い出してもノイズがかかって見えるのだ。だからほんとうに正確かどうかは怪しかった。
ミルルは、マロウズの去った後の花壇に腰を下ろし目を閉じた。
意識を集中させる。やがて目の奥に扉が現れた。記憶の扉だった。次々と開いてゆく。そして最初の時代の扉を開く――
――
光沢のある白い通路の途中で、栗色の髪をした少女が、金茶色の髪をした少年を呼びとめていた。
少女が声をかける。すると少年は物憂い目をして言った。
『おれさ、やっぱり行こうと思うんだ』
彼は引きとめる少女を振り切って立ち去った。
その少女――ミルルだった――は、決心したのだ。追いかけて行こうと。彼女が後を追ったとき、ノイズが激しくなり、記憶の扉は閉じてしまった。
――
ミルルは、はっと目を開けた。頭が重い、くらくらしたが、頭を両手で抱えて治まるまでじっとしていた。いつもそうだ、古い時代をさかのぼるほど、きつい症状が起きてくる。
彼女は大きく息を吐いた。
記憶の中の少年はマロウズだった。
ミルルは、生まれたときから彼の近くにいて、ともに遊び、良き話し相手でもあったのだ。
しかし彼が上級の学園に入ってからは、いつのまにか二人の間に距離ができた。
でも――とミルルは思う。わたしは彼と繋がっているのだ。ウタハとエランほどではない微弱な光かもしれないけれど・・・わたしの中にある何かがそれを求めるのだ。約束として、枷のようにわたしを繋いでいる・・・彼から離れてはいけないという思いになって――
彼を追いかけて幾度の旅をしただろう。今もこうして、この身体のミルルとして生きている。わたしは忘れないけれど、どんどん彼は忘れていく気がする。
それでも、彼のそばにいたい。余計なことたくさん言ってしまうかもしれない、嫌われてしまうかもしれないけど。それがわたしの宿命なのだ。
それに・・・今のわたしは館長の配下の影として動く。それを受け入れたのは、やはり少しでも彼のそばにいたいから。
ウタハの部屋と同室になったのは館長の計らいだ。つねに彼女の行動に気を配れという命令だった。
わたしが影に向いているという素質を館長は見抜いていたらしい。たしかに素早い行動や細かいところを見逃さない性質は、自分でも嫌になるくらいだった。
その命令のおかげで、ウタハがどういう少女なのか、少しずつわかってきた。覚醒はほとんどしていない。少し魔力は目覚めてはいるが、実態はまだ霧の中だ。
一番安心したのは、彼女がエランと出会ってくれたことだった。今回、もしエランが現れなかったら、マロウズがウタハと結ばれる未来になったかもしれない。そうしたら、この世界は恐ろしい展開の分岐の宇宙になる可能性だってあるのだった。
ミルルは、その未来を見たくなかった。
マロウズの動きは、いくら彼が結界を張っていても、彼とわたしは繋がっているから居場所はすぐに特定できる。
古の魔法師でも見えないほどの微弱な光だが・・・
ただ・・・彼のそばにいたいという強い想いが、愛と言われるものなのかどうかは、自分にはわからない・・・
今回も読んでいただき、ありがとうございました!
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