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フォラードの光  ― 星の記憶者 ―  作者: あけの星
第二章

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34/44

山の賢者⑸




「――それは、いつの話かは分からぬが、昔々、天の神々の住むさらに彼方の国の王に、不思議な赤子が生まれたという。その子が成長すると光輝くばかりに美しい娘となり、手には魔法の力があったということじゃ。

 ある日王女は彼女を妬む魔女の誘いに乗って、石の棺に閉じ込められてしまった。そして天の海に捨てられてしまったのだと。

 それを知った、王女を溺愛していた兄の一人と、彼女を慕う者たちが王女を探しに出かけた。

 しかしどうなったかは、解らずじまいでな、その後の話は伝わってはおらぬ・・・」

 賢者はそこで話を止めた。


「なぜ、それがトイサの赤子の話と関係あるのですか?」

 ウタハは思わず口に出した。

 賢者は、何かを見通す目をしてウタハをじっと見つめた。

「さてね、わしにもわからぬ。ただお伝えしたくなった。それだけじゃよ」

 そう言ってかすかに笑った。

「鏡を使ったことは、おありかな?」

「ありますけど・・・」

 突然の問いにウタハは首をかしげた。


「鏡に映った姿は、たとえ、その鏡が割れて飛び散っても、その破片に映るのは、ご自分でいらっしゃいますぞ。たとえどのような形の破片であっても」

 ウタハは、はっとした。先ほど自分の中で起きた不思議なイメージを思い出したのだ。

  だが、何か大事なことを言っている、というのはわかったが、それ以上のことは今のウタハには理解できなかった。


「まだ、すべては現れてはおりませぬ。ですが、いずれ明らかになるでありましょう。あせらず、刻をお待ちなされ、虹の姫よ。星はいつも頭上で瞬いております」

「えっ、それはどういうことですか・・・?」

 ウタハが驚いて聞き返したとき、もう賢者は三人を見ていなかった。半眼になった目は、すでに彼が瞑想の中に入ってしまったことを示していた。


 *



 ウタハたちが賢者の小屋を後にして、王城へ戻ったときにはすでに日が落ちていた。


 エランの居室には、すでに夕食の用意がなされていた。

 三人が食卓に着くと、弟子が銀製の水差しを運んできて、それぞれの前に置かれたやはり銀製のカップに水を注いだ。それから詰め物して焼き上げた鳥肉を薄く切ってそれぞれの皿に載せる。煮込んだ温かいスープと茹でてソースをかけた野菜なども運ばれてきた。

 最後に軽く焼いたパンをそれぞれの前に置いて、控えの部屋へ下がった。


 三人とも山から戻る間、ほとんど話もしなかった。山の賢者の話を聞いて、考えるところが多かったのだ。

「さあ、食事でもして、ゆっくり今後のことを考えよう」

 エランの言葉にウタハもマロウズもうなずく。


 しかし、いつもは饒舌なマロウズも、今は静かに食べている。ウタハは山の賢者の言葉が気になって、食事もなかなか喉に通らない。エランも何かを思いめぐらせて、考え込みながら銀製のフォークで肉をつついているのだった。


 ようやくエランが何かに思いあたったらしく、うなずいてから言った。

「マロ、(かげ)の一族のことは知っているかい?」

「陰の一族? ああ、賢者の話に出てきた古代の戦の原因となった一族だよね、館長から聞いたことはあるよ。古の言葉を使う古い民だと・・・」

「そうなんだ、古き民だ・・・賢者が言ってたろう、今も地底に潜んでいるかもしれないと」

「そうだったな」

「この前、国境に調査に行ったとき、思いださないかい? 山の麓の崖下の地面に大きな穴が開いてたのを」

 マロウズは、はっとした目でエランを見る。

「たしかに、いくつか開いていたな。大きいのと小さいのが・・・そうか、あれがもしかすると、やつらか」

「確証はないが、もう一度調べに行く必要はありそうだよ」

「うむ・・・そうだとすると・・・今回の特訓はかなり厳しくなりそうだな」

 それを聞いてエランは軽く笑った。

「まだ、戦うかどうかわからないじゃないか」

「そうだけど、またぞろぞろ魔物が出てくるのは、うれしくないな」

「いや、喜べ、また魔力のランクが上がるよ」

 マロウズは肩をすくめた。

 それを聞いていたウタハは、彼らの特訓が魔物討伐だったのだと知って、目を丸くした。


 そのとき弟子がやってきて、手紙を銀の盆にのせて差し出した。

「マロウズ様、今、館長様の使い魔が、これをお渡しするようにと持ってまいりました」

 マロウズはうなずいて、手紙を受け取るとすぐに封を開けた。

「まずい、城を抜け出したことがばれたみたいだ。すぐ帰って来いとさ」

 やれやれと彼は立上がった。


「ちょっと先に戻る。後のこと、ウタハのことはよろしくな」

「そうか、悪いな、館長のご機嫌をあまり損ねないように。明日、私からも話しておくよ」

 マロウズは片手を軽く上げると、移動魔法で姿を消した。


 マロウズが抜けた後の食卓は、少し寂しい気がしたが、向かいに座っていたエランが何かと声をかけてくれるので、すぐにそれと変わって、落ち着かない気持ちになった。二人で向き合うとやはり鼓動が高くなる。(もう、なんでこうなるの・・・)


 食事が終わるころ、エランが弟子に竪琴を持ってこさせた。

「少し歌を聞かせたくなった、いいかい?」

 ウタハが首を縦に振る。

「本当はね、マロと二人で奏でようと思ってたのだけど、それは、また今度だね」

 彼は竪琴の弦を試して鳴らす。

 それから、弦の音に合わせて静かに歌い始めた。

 優しい声が、ふわりとウタハを取り巻く。緊張がほぐれてくるのを感じた。(ああ、また魔法だわ・・・心地よい癒しの歌・・・)


 一曲終わると、ウタハの手を取る。「こちらへおいで」彼は、ソファに彼女を座らせた。ウタハはなぜか、そうされることが嫌ではなく、むしろ嬉しい気持ちになっていた。

 エランは隣に自分も腰を下ろした。

 二曲目の歌を囁くほどの低い声で歌う。白い光の楽譜が二人の周りに渦を作った。ウタハの目の奥に懐かしい光景が浮かび上がってくる。

 どこかの庭の東屋の中で、自分でないウタハが、知っているけど知らないという不思議な感覚の青年と座っていた。顔はおぼろげでよく見えなかったが、彼はリュートを弾いていた。青年は、ウタハを見て微笑んだ――と、また映像はぼやけて消えた。


 ウタハが我に返ると、エランが、いつもの青みがかった深い光のある緑の目で見つめていた。またどきりとする。ウタハは自分の口元に手を当て息を吐いた。

「きみは、まだ何も思い出さないのかい? 私はいくらか思い出したよ」

「思い出す? よくわからない・・・でも、今日、山に行ってから変な幻が浮かぶの」

「どんな?」

「誰かと一緒にいるのだけれど、それが誰なのか、またその人と一緒にいるのがわたしなのか、違う人なのか、わからないの・・・」

「まだ、少し混乱しているのだね、焦らない方がいいのかもしれない・・・」

 つぶやくように言う。

「だけど、覚えておいて、その()()はきっときみを大切に思っている人だよ」

 エランはくすりと笑った。





今回も読んでくださって、ありがとうございました!m(__)m

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