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フォラードの光  ― 星の記憶者 ―  作者: あけの星
第二章

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30/44

山の賢者⑴


 マロウズは、いかにも仰々しく礼の形をとってから、エランをちらりと見上げ、何か言いたげな笑いをにじませた目でうながした。


 エランは少しあわてた様子で小さく咳払いすると、ウタハを見て言った。

「私は第三王子のウェラム・リーヴォア・フォラードだ。驚かせてはいけないと思って、黙っていたのだけど・・・あ、そんなに改まらなくともよい。それに、ほんとうは、どちらが礼をすべきかわからないのだから」

 ウタハが礼をとろうとするのをやめさせて、さらに続けた。

「どうだろう、もしよければ、私たち三人は秘密の同志ということで、ここで誓わないか? こっそり城を抜け出すのだからね」

 それを聞いたマロウズが「いいね、いいね!」と興奮気味に叫び、ウタハとエランの手を取って自分の手の上に重ね合わせた。ウタハは、マロウズは酔っぱらっているのではないかと、少し不信に思ったが、うれしそうなエランとマロウズを見て、まあ、いいか、と思ったのだった。


 一人ずつ、宣誓の言葉を述べていく。ウタハも二人をまねて宣誓する。

「わたし、ウタハ・トイサは、大いなる精霊神の名のもと、ここに秘密の同志となることを誓います」

 最後にみんなで「誓います」と唱和したその時、パッと白い炎が燃え上がって重ねられた三人の手の上に一瞬とどまり、すっと消えた。

 意外な出来事に、三人は顔を見合わせた。

「精霊神に受け入れられた、ということかもしれないね」

 エランの言葉に、ウタハもマロウズもうなずく。

「かもしれない、ってことは、もうおれたち同志だね」

 マロウズは、ウタハとエランの肩に手を回して、うれしそうに笑った。

 やっぱり酔っぱらってる、とウタハは思った。


「さあ、乾杯しよう」

  エランは、弟子を呼んワインの入った大きな陶器の水差しとブドウ水の入ったカップを持ってこさせた。そして自分とマロウズのカップにワインを注ぎ、ブドウ水のカップはウタハに渡した。

「これは、ワインじゃないから大丈夫だよ。では、乾杯!」

 三個のカップの端を同時にぶつけ合って、飲み干す。それが儀式の締めくくりであった。この小さな秘密の儀式で、今はまだ何も解らぬまま、運命の糸は三人を結びつけたのだった。


 やがて小さな儀式の余韻がおさまってくると、またワインを飲み始めたマロウズを見て、エランが言った。

「マロ、飲み過ぎるな、行くのは明日だよ」

「大丈夫さ、このくらいはね」

「ウタハもそろそろ帰った方がいいね。マロ、送って行けるかい?」

「もちろん。移動魔法は完璧だし、一人くらいなら大男だって連れて行ける」

(大丈夫かしら)ウタハは、心配げにマロウズを見た。

 彼の前に置かれていたワインの水差しは、ほとんど空になりかけていた。

「わかった、やはりウタハは私が送って行こう」

 彼は、弟子たちに、これ以上マロウズに飲ませないよう指示を出してから、ウタハを呼んだ。


「さあ、しっかり掴まっててくれるかい」

 彼はウタハの腕を自分のウエストに回して持たせると、脇に彼女を抱えて呪文を唱えた。ふわっと大気の渦が自分たちを取り囲んだ、と思うと魔法師の館の近くに降りていた。人目のない木の陰だった。まだ村の方からは、音楽とざわめきが聞こえていた。

「これ以上館に近づくとまずいからね、ここで」

 ウタハはうなずく。「ありがとうございました」


 しかし、なぜかエランはウタハから手を離さなかった。温かな彼の体温が伝わってくる。ウタハは緊張しながら、エランを見上げると、熱を帯びた瞳が自分を見つめている。どきりとする。(まただわ・・・)かれの熱が自分の中に流れ込んでくるのを感じた。いま彼の瞳はウタハの瞳を通り越して、ウタハという器の中にいる誰かを見ている――そんな気がした。エランの熱は夜の大気のやわらかな渦となってウタハをとりまいていた


「も、もう行かないと・・・」

 ウタハは落ち着かない気持ちになって言った。

「あ、ああ、そうだね」

 エランは、我に返ったらしかった。ウタハを抱えていた手をおろすと、今度は彼女の手を取って、礼儀正しく手の甲に軽く、くちづけした。それから「おやすみ、明日だよ、忘れないで」と言い残し、移動の魔法で姿を消した。

 

 ウタハは自分の部屋へ戻っても、先ほどの熱がずっと自分の中にとどまっているのを感じた。頬に手を当てると少し熱い。おそらく紅くなっているかもしれなかった。触れるか触れないほどの手の甲への挨拶も、思い出すと動悸がした。

 (何もかも初めてのことで、ちょっと落ち着かないからだわ、きっと)

 そう言い聞かせてはみたが自信はなかった。 

 さいわいミルルは帰っていなかったので、ほっとした。自分の変化に気づかれずにすんだ。なにしろ、ミルルはほんとに目ざといし、感の良い少女なのだった。


 


 

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