運命の出会い⑶
あたりはすっかり日が落ちて、篝火の明かりがぐっと大きくなって見えた。
祭りもたけなわになり、人々のざわめきも、音楽に混じって祭りを盛り上げている。
火の回りで音楽に合わせて踊る人々を横目に、ウタハはエランとその場で軽快なステップを踏んでいた。知らないスッテプだったが、彼はゆっくり教えてくれ、まもなく楽しんで踊れるくらいにはなった。これまでトイサ村で踊っていたものとは、少し違っていた。
「そろそろ、食事にいかないかい?」
ウタハがうなずくと、エランはウタハの手を引いて、楽団の幕屋へ連れて行った。
幕屋の中には、入口付近に数人の男女の楽師たちが休んでいた。二人はその間を抜けて行き、エランは奥の垂れ幕を開けた。
そこには質素な木のテーブルといくつかの椅子、ソファもあった。テーブルの上には食器が置かれている。食事室なのだろうか。ウタハはこんなところに来るのも初めてだったので、不思議そうに周囲を見回した。天井には布が張られている。部屋の四隅には台座の皿の上で魔法の火が灯され、天井から吊るされたランプの中にも魔法の火が見えた。
エランは彼女を椅子に座らせると、自分も向かいに座った。
それから、入ってきた入口の反対側に掛けられた垂れ幕に向かって指を鳴らした。
すると、すぐ自分とさほどに変わらないと思われる年頃の、グレーのチュニックを着た二人の少年が、二人分の飲み物と食事を運んできた。
ウタハは、なぜ自分の分もあるのか不思議に思った。使い魔に連絡させたのだろうか? でも、踊っている間は、そんな様子はなかった。
もし、エランが上位の魔法師なら、あの子たちは弟子なのかもしれない。それなら、客がいることを感知してもおかしくはないのかも・・・と思い直した。
飲み物を持ってきた少年が、エランとウタハの前に飲み物の入ったカップを置く。もう一人の少年が、焼いた肉と煮込んだ肉、野菜の煮込み、果物と焼き菓子を次々と運んでくるのを、先の少年が受け取り、並べる。最後に柔らかなパンの入った籠を置いて二人は戻って行った。
「きみはなぜ、そんな不思議そうな顔をしているの? ここは私たちのために食事ができるよう用意していた場所だよ」
「わたしたち? って、え、わたしが来るのがわかってたってこと?」
彼は、微かに笑った。
「そうとも言えるね。正確には、きみと話したいと思って予定していたんだ。気を悪くしないでほしい。きみに断られたら一人で食事をするつもりだったからね」
「では、最初からわたしがウタハだってことがわかってたのです?」
「いや、初めは、つらそうな人がいるなと思って、声をかけた。そうしたらきみだった。実は、ある人にきみを紹介してもらう予定だったのだ。その手間が省けたというわけだよ」
「そうでしたか・・・」
そういうことなら納得できる。でも、ある人ってだれかしら?
「ある人というのは? お聞きしても?」
「そのうち、ここへ来るはずだよ。さあ、食べよう」
彼はウタハに起きた事件を知っているらしく、ハーズの沼で起きたことを聞きたがった。
ウタハは思い出しながら、少しずつ話した。
「じゃあ、そのゾエゲスという奴は逃げてしまったんだね?」
「ええ。行方はわかりませんが、建物の中から女の子たちが救い出されたのは、ほんとうに、よかったと思います」
「そうか・・・それにしても、きみは大変な思いをしてきたのだね・・・」
ウタハは、とりあえず一通り話したので、のどの渇きを覚えて、自分の前に置かれたカップを取り上げて、ごくごくと飲んだ。
あ、果実水じゃないわ・・・そう思ったときはもう飲み込んだ後だった。
頭が熱くなってくらくらしてきた。(っわ、どうしよう)
「すみません、水を・・・」
エランは、ウタハがテーブルに突っ伏す寸前になっているのに気づいて、あわてて保護魔法をかけた。
そのとき入口の垂れ幕を開けて一人の少年が入ってきた。
「どうしたんだ、これはいったい?」
(ああ、マロウズだわ・・・)
ウタハは保護の結界の中で椅子に座ったまま朦朧とした目で彼を見た。
マロウズはウタハを抱えてソファに移すと、奥の部屋の少年たちに持ってこさせた水を飲ませた。
「やれやれ、ワインくらいで、こんなになるものかい?」
「ううっ、飲んだことがなかった・・・ので・・ごめんなさい、ご迷惑を・・・」
「私が、そばにいながら気づいてやれなかったのだ・・・わるかったのは、こちらだよ」
そう言ってエランは彼女の上で聞きなれない呪文を唱え、白い光を生み出すとウタハを包み込んだ。
「まあ、これで、すぐよくなると思う。ワインくらいはね。毒でなくてよかった」
「だとさ。だから、ここでしばらく休んでおいでよ」
それからエランに向かって言った。
「ウタハはおまえに任せた。とりあえずおれに食事をさせてくれないか」




