夏光祭⑹
久しぶりの屋外だった。
初夏の光がまぶしいほど、野原や畑に降り注いでいる。
ウタハとマリエヌは、数人の少女と少年に混じって、荷馬車に乗っていた。この荷馬車は、村から館へ食材を運んできたものだったが、夏光祭のときは、村へ行く足として貸し出されていた。
荷馬車を動かすのは、いつもは村人なのだが、祭りの日は、馬を扱える館の者が御者をする。今日はフレイムがその役割を担った。
館を出る前に、マリエヌに紹介された彼は、赤い髪に緑の瞳をした愛嬌のある少年だった。白い顔にはそばかすが浮かんでいた。今年十八になるのだという。
フレイムの父親は駅馬車組合の組合長をしていて、幼いころから馬車に馴染んでいた彼は、自分でも馬車を動かせるようになったのだと、マリエヌから聞かされた。
荷馬車は一番近い村に入って行った。
もう村には人が増えていて、広場からはタンバリンや笛の音も聞こえてくる。すでに飲み物や食べ物が長いテーブルの上に載せられていた。
広場の中心には、はや、祭りの象徴でもある、篝火が焚かれていた。日が暮れると村人たちはそれを囲んで心ゆくまで踊るのだった。
フレイムは、荷馬車から皆を降ろしてしまうと、ウタハたちに、申し訳なさそうに言った。
「祭りの責任者から、連絡がきたんだ。吟遊詩人が、向こうの森で足を怪我したらしい。連れてきてもらいたいとね。これでひとっ走り行ってくるから、遊んでて」
「わかったわ。大丈夫よ。わたしたち花冠を作ってるから。気をつけて行ってね」
マリエヌが彼にうなずく。
ウタハもうなずいて、手を振る。「いってらっしゃい」
彼の荷馬車が走り出したのを見送ると、二人は花の咲いている野原を探して、村の周辺を歩いた。
川べりにポポの花に似た白い花と、五枚花弁の青い花が咲いていた。
二人は、ここで花を摘んで編み、花冠を作った。
それからお互いに頭に載せ合って笑う。
「ウタハの花冠は、いま着ている空色のチュニックに合うわね」
その言葉にふと、ポポを思い出した。(あのときは、スミレだったな・・・)
懐かしさが、ふっと湧いた。
「ありがとう、マリエヌだって、蜂蜜色の髪に似合ってるわ。チュニックも素敵な紅色だし・・・」
ピンクがかった紅色のチュニックは、マリエヌによく似合っていた。お気に入りというだけある。
ウタハは、そんなことを思う自分が少し不思議でもあった。今まで、着る物のことなんて、あまり気にしたことがなかったのに・・・と。
そのとき、野原の少し先で、少女たちが数人こちらを見ているのが見えた。
マリエヌも気づいたらしく、彼女たちを見て囁いた。
「あの人たちって、もしかしたらマロウズの取り巻きの人たちじゃないかしら。うん、たしかそう、声かけられたことがあるから、覚えてるわ。仲間に入らないかって」
「マロウズに取り巻きがいるの? 仲間って?」
「そうよ。彼ってほんとに人気があるのよ。だから彼を好きな子たちが集まって、抜け駆けをけん制してる集まりなの。そのおかげで、わたしはちょっと覚めちゃったけど」
「そんなことが・・・」
ウタハは、目を丸くして聞いている。
すると、少女たちが三人ばかりウタハたちに近づいてきた。
彼女たちは、ウタハの前に来ると声をかけた。
「あなた、ウタハね」
金髪の少女が一歩前に出て言う。
「少し話があるのだけど、いいかしら?」
「ええ、何でしょう?」
「あなたのせいでしょ? マロウズが王城に連れて行かれたのは」
「え、そんなこと・・・わからないわ」
「彼が帰って来ないのは、あなたのせいだと、みんな言ってるわ。何をしたの?」
「そんなこと言われても・・・」
「はっきり言いなさいよ」
金髪の少女はウタハの肩を押した。よろけそうになる。
「やめなさいよ!」
マリエヌが、金髪の少女を押し返そうとした。すると、少女はスルスルと葛の茎のようなものを伸ばして、マリエヌに巻き付け動けなくした。
(土の魔法?!)ウタハは驚いて「やめて」と少女に飛び掛かった。それを見ていた他の二人も、ウタハを抑え込もうとして、取っ組み合いになった。
そのときだった、ポロンっと、弦の音がした。
「お嬢さんたちのすることじゃ、ありませんね」
低い声がした。
みんな手を止めて、一斉にその声の主を見た。
黒っぽいフードを被った男が竪琴をかかえて立っていた。
(吟遊詩人? もうフレイムが連れて帰ったのかしら――?)
ウタハがそう思ったときだった。
男は竪琴をかき鳴らした。
そして聞いたことのない言葉で歌い始めた。
弦の音と彼の声が少女たちの周りを取り囲んだ。身体が、動かない。音の糸に縛られでもしたかのように、全員がその場で固まった。そして、ひとりふたりと、その場にくずおれた。
(音の魔法・・・古い魔法の言葉だわ・・・)ウタハは、そう思いながら意識が遠くなるのを、どうすることもできなかった。意識が途切れる寸前、見慣れた美しい顔が浮かんだ。「マロウズ・・・」声にならない声でつぶやいた。
今回も読んでいただき、ありがとうございました!♡
次回、1月2日は更新をお休みさせていただきます。
9日に更新予定です。
どうぞ、みなさま良い年をお迎えください☆




