夏光祭⑸
夏光祭の当日――
朝早くから、近隣の村の楽の音が、音合わせをしているのか断続的に聞こえてくる。いま館内は、その音に心を騒がせた魔法師や弟子、見習いたちのざわめきで満ちていた。
ほんの小さな囁きでも、魔力のある者たちから発せられると、通常の人々には耐えられない圧になるのだが、さすがに館の者たちはそれに慣れている。
魔力が大きい者は何も感じなくとも、やはり魔力がそこそこで感受性の高い者もいて、それを受けるとかなりつらいという。その場合、かれらは必ず保護の結界を自分に張るのだった。
中庭に火の魔法師たちが、ポン、ポンと小さな花火を打ち上げた。
いよいよ試験の開始だった。
弟子見習いの見習いは三階の講堂で選別の試験が行われる。
試験官は、副館長とフリーの研究生の魔法師たち、それとリモーネがいた。
並んで座っている試験官たちの前に、人の頭を二つ縦に載せたくらいの大きさの、淡い色のついた水滴形の石が五種、それぞれ白い台座に載せられて置いてあった。色はそれぞれ黄、青、白、赤、透明だった。
受験者は、ウタハとマリエヌ以外にも七名ほどが石の横に並んで立っていた。
弟子見習いの見習いばかりでなく、見習いの中には、前回の試験のときと違った能力を発揮する者もいて、検証のために参加しているのだった。
フリーの魔法師が説明を始める。
「これから皆さんに、一人ずつ五個の石を触っていただきます。黄色は土性、青は水性、白は風性、赤は火性を、そして透明は、その他の属性です。石の反応の結果によって、どの教室に配属されるかが決まります。では、名前を呼びますので、呼ばれた人は黄色い石から順にお願いします」
名を呼ばれた者が、一つずつ石を触ってゆく。何も反応がない石、少し反応する石、そして大きく色が濃くなって光る。その一番大きな反応をする石の属性が、その者の適性になるのだった。
先にマリエヌの名が呼ばれた。
彼女も一つずつ慎重に触って行く。
一番大きく反応があったのは風であった。マリエヌは、少し意外そうな顔をしながら、控えの席に移動した。
最後がウタハの番だった。
一つずつ触れていく。四つ目までは全く反応がなかったが、五つ目の透明な石を触った時、激しく光が周囲を照らした。すぐに石がそれを吸収し、続いて石から吐き出された黒く輝く光としか見えぬ光が、石とウタハの周りを渦巻いた。試験官をはじめ周囲の者たちが驚きの声を上げた。
ウタハ自身も驚いて息をのむ。気がついたときには、もう一度石を触っていた。するとキラキラした黒い光は七色の虹となって、すうっと石の中に消えた。
周囲の者たちのどよめきの中、リモーネ先生の声がした。
「これで、全員終わりましたね。結果は後ほど食堂の掲示板に貼っておきます。昼食時までには見れるでしょう。それまで中庭で先輩方の魔法を見学してください。では、解散、お疲れさまでした」
ウタハが、まだ先ほどの衝撃から立ち直れず、石のそばに立ったままでいると「ウタハ、すごーい」マリエヌが駆けよってきて興奮気味に言った。
「あんなの見たの初めて。ウタハってすごい魔力があるのねー」
そう言ってウタハを見上げる目は、いつもの感謝の眼差しに賛美の色を浮かべていた。
「そんな、偶然よ、きっと」
「ううん、違う、わたし、絶対あれは普通の魔力じゃないと思う」
「そうかな・・・? あ、もうみんな、行っちゃうわ」
皆が講堂から出て行くのに気がついて、マリエヌをうながして彼らの後を追った。
廊下に出ると、中庭から歓声が響いてくる。
「なにかしら、早く行ってみましょうよ」
ウタハがそう言ったとき、廊下の開いた窓から水しぶきが入ってきた。
「きゃっ」
窓際を歩いていたマリエヌが声を上げた。水滴がほんの少し彼女の腕にかかったのだ。
「水の魔法師たちだわ」
マリエヌは水滴を指で拭いながら言った。
二人は窓から、中庭の方をのぞく。
数人の水の使い手たちが大きな噴水を立ち上げているところだった。
円陣になった彼らは、それぞれの水を大小に組み合わせて、高く噴き上げている。
もう、個人技は終わったのか、団体部門の魔法技に移っていた。
ウタハたちが、中庭に出たときには、噴水は終り、火の使い手たちが集まってきたところだった。十人ほどの弟子や見習いたちが、一列に並んでいる。
それを見たマリエヌが、うれしそうにウタハの腕をつついた。
「ほら、見て、あそこにフレイムがいるわ、左から二番目よ」
ウタハは言われた位置の少年を見た。
水色のフードを被っているので、容貌はよくわからないが、すらりとした背格好であった。
「フレイムって、弟子だったのね?」
「そうそう。言ってなかったかしら?」
「聞いてないと思う・・・」
「火の魔法師の教室には、弟子が三人もいるのよ。見習いも多いわ。あとで彼を紹介するわね」
そのとき、彼らの魔法技が始まった。
一列に並んだ一人ひとりの手からシュルシュルと花火が打ち上がる。炸裂して大輪の花火となり、それが空中で一本の紐状に変化すると、小さな火花が星の形になって、滝のように流れて落ちた。
その美しさに歓声が上がる。これが夜であれば、もっと美しいかもしれなかった。
ウタハたちも、試験だということを一瞬忘れて見入っていた。
続いて土の使い手たちは、大きな築山を作って花を咲かせた。最後に風の使い手たちは、竜巻を起こして、それを空高く飛ばして見せた。
ウタハは、どれも素晴らしいと思った。(こんなことが、みんなで協力すればできるなんて・・・個人の力もすごいけど、何人もの力が集まるとそれ以上のことができるのね)
やがて試験終了の鐘が鳴った。
*
ウタハとマリエヌは、食堂の掲示板に貼り出された試験結果を眺めていた。
「やっぱり、わたし風なんだ・・・」
マリエヌは、いまだ納得がいかない顔で言う。
「他のだと思ってたの?」
「うん、火か、光だといいなって」
「風魔法は、とても素晴らしい魔法よ。風で人を助けたり、守ったりもできるのよ」
「そ、そうかな・・・そういえば、あのとき、のぼせちゃったときも風の人に助けてもらったわね・・・」
「マリエヌなら、すごい風の魔法師になれると思うわ。なってわたしを守ってね」
最後は半分冗談で言ったのだったが・・・マリエヌは、ぴくっと身体を伸ばすと、ウタハの顔を見て「うん、守る。絶対すごい風の魔法師になってウタハを守るからねっ」と、いつもの眼差しをさらに、うるうるさせて言った。
一方、ウタハの結果はといえば、その他の属性で、教室は今までとは違って別棟の四階だった。担当魔法師はノクィース先生になっていたので、内心とても驚いたが、顔には出さなかった。
見習いとして実際の業務が始まるのは、明後日からである。明日は夏光祭の翌日ということで、館中、休みになるのだ。
「ウタハ、早く食事にしましょうよ。終わったら着替えて一階の階段のところで待ち合わせね」
ウタハはうなずいて、マリエヌと一緒に昼食を受け取りに行った。




