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フォラードの光  ― 星の記憶者 ―  作者: あけの星
第二章

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19/44

預言詩

  


 ウタハとマロウズは、図書室の奥の席で、古い革表紙の本を開いていた。

 先ほど、塔から図書室へ戻ってきて、さっそく教えてもらった故事書を探したのだった。

 

 時間はかなり遅かったので、人はまばらだ。だが、できるだけ人に会いたくなかったので、いつも人が座っているのを見たことがない、奥の窓際の席を選んだ。窓に沿って置かれた幅の狭い机の前に、一人掛けの椅子がいくつか並んでいる。

 もし、ここでマリエヌにでも会ったら、面倒くさいことになりそうだった。さいわい彼女は、本を読むのがあまり好きではないらしく、図書室に来ても必要な本だけ借りて、すぐ帰ってしまう。それも読んでいるのかどうか、怪しかったけれど。

 だから、よほどのことがない限り心配はないが、だれかに自分たちの調べていることを知られるのも嫌だったのだ。


「ほら、見ろよ、ここだ」

 マロウズは、本の周囲が年代焼けした古いページを開いて、隣に座っているウタハに見えるよう押し出した。上古編は上下巻あって、下巻を彼が見ていたのだ。

 ウタハは、彼の指し示したページに目を落とした。


 ――長き戦いの終焉

   王はこの地に帰還せり

   凱旋の歓喜のラッパは鳴り響く

   人々は歌い、笑い、花をふりまき、美酒をもて祝う

   乙女は恋人を、妻は夫を、父は子を(かいな)(いだ)

   国は静まりて、人々は安らぎの日々を迎えん  

   これより春の種まきも、秋の収穫も満ち足れり

   かくして、千年の王国は始まりぬ


 その後に、『上古の凱旋歌』が書き綴られ、その中に、『歓喜の歌』もあった。

「これだったのね。でも、それが、なぜ今ラッパが鳴ることと関係があるのかしら?」

「それなんだけどね、おそらくこの本の中に、予言として書かれているものがあるんじゃないかと思うんだ」

「その可能性はあるかも・・・もう少し調べてみましょ」

「そうだね・・・あ、まずい、おれ行かなくては。明日また協力するよ。これ返しておいてくれるかい?」

 マロウズは、あわてて立ち上がった。意外に丁寧な言い方だったので、ウタハは気持ちよく、うなずいた。

「いいわよ。おやすみなさい」

「おやすみ、あ、おれ使い魔だからね、何かあったときは、おれを思い浮かべて名前を呼んでね。じゃあ」

 軽く手をあげると、音もなく、あっという間に図書室を出て行った。まるで歩きの移動魔法みたいだわ、とウタハは思いながら見送った。

 すると、入れ違いにミルルが入ってきた。もしかするとマロウズは彼女が来るのを感知したのかもしれない。ミルルに会うのがまずかった・・・なんてことはないわよね? ウタハはその思いを打ち消した。


 ミルルは、誰かを探しているふうだったが、ウタハを見つけると、急いでそばへやってきた。

「ウタハ、ここにいたのね、遅いから心配したわ」

「うん、もうそろそろ帰るよ」

「ならいいけど・・・なに読んでるの?」

 ミルルは覗き込んだ。

「ふうん・・・こんなの読んでるんだ。あ、たしか、これ下巻の終りの方に、変な語の文章が載ってるやつじゃない」

「読んだことあるの?」

「読むというより見ただけかな。わたしには解らない言葉で書かれてたからねーそれを調べる辞書もないみたい。だから、あきらめた。でも、ちょっと懐かしいかな、だいぶん前の話だから」


 ミルル軽く笑って、「それじゃあ、先帰ってるねー」と手を振った。

 

 ミルルは心配して探しに来てくれたのかもしれない。やっぱり優しい人だ。

 ウタハは急いで彼女の言っていた下巻の終りの方を開く。

 

 そこには、ミルルの言っていた奇妙な言語の文章が並んでいた。

 その並びからわかるのは、この本と同じく詩歌風に書かれているらしい、ということだけだった。

 ウタハは、唸った。(うーん、何だろう、この文字・・・)


 しばらく見つめていたが、「あれっ」と声を上げた。先月、見た夢の中で聞いた言葉を思い出したのだ。何かそれと交じり合うものがあった。

 ウタハが、わからないなりに頭の中で夢の言葉をたどろうとしたときだった、目の前の開かれたページから、書かれた文字が立ち上がってきて、楽譜のように彼女の額の周りを回った――と、同時にまた意識がぼうっとなったが、今度は、はっきりとその文字が読み取れた――古代の魔法言語だ・・・耳の奥で誰かの声がした。


――(とき)が満ちるそのとき

  世界は蠢き始める

  千年の終わり、上古の彼方より

  忘却の淵から暗黒の風が吹く

  

  遥か古の国々が新たな盟主を求め

  かつて離散した人々は

  我らこそ新たな盟主と叫び

  貪欲と野望は地を覆う

 

  故に眼のある者は観るがよい

  耳ある者は聞くがよい

  正しき者は誰か

  真なる者は誰かと


  (とき)が満ちるそのとき

  歓喜のラッパは鳴り響く

  光り輝く乙女、虹を放つとき

  新たな千年を引き継ぐ者現れん


  乙女を得し者

  星々の護りを得る

  共に歩むその者こそ

  額に刻印ある真王なり


  故に、賢き者らよ

  塔の上に立つ者を見よ

  光と闇を従えて

  白き輝きの中に立つ者を

 


  ――テンプアスの預言詩――



 預言詩を読み終えたとき、ぐらりと周りの空気が揺れ、ウタハは気が遠くなった。


  *


「きみ、大丈夫かね――」

 その声にウタハは目を開けた。

 白髪の男が彼女の肩を軽く揺さぶっていた。

 四十歳前後と見える男は、グレーのフード付きの長着を着ている。

 どこかで見た顔だと、ぼんやり思った。

「あ、はい・・・」

 そう言いながら顔を上げた。そして気がついた。いつのまにか机に突っ伏していたのを。そういえば、さっき気が遠くなって・・・

「もう遅いから帰りなさい。立てるかな?」

 男はウタハを促した。

 ウタハはうなずくと、よろよろと立ち上がった。

「その様子だと、心配だな。送って行こう」

 彼は、ウタハ支えるように片手を肩にかけ、もう一方の手の指を、机の上に開かれた本に向けた。本は一瞬、消えたかに見えたが、あるべき本棚にストンと入った。

 図書室は、魔法の火が小さく、今にも消えそうになっていた。閉室の合図であった。

 ウタハは支えられながら、図書室を後にした。


 部屋の前まで送ってもらったウタハは、ようやく頭がはっきりしてきた。それで、この男がだれであるかを思い出した。

「ありがとうございました。あの、もしかしてノクィース先生ですか?」

「ああ、そうだ」

 彼はうなずいた。

 ウタハがあわてて上位の魔法師に対する礼をとろうとすると、ノクィースはそれを押しとどめて「早く休みなさい」そういって背を向けると去って行った。

 ウタハは、とまどいながらも軽く頭を下げて、彼の後姿を見送った。


 部屋へ入ったウタハは、ミルルが寝ているのを見て、起こさぬよう、そうっと自分のベッドにもぐりこんだ。

(ノクィース先生が図書室にいたなんて、めずらしいな・・・いつも出かけていることが多いのに。会ったのはまだ三回目くらいだし・・・でも迷惑かけてしまったわ。明日会えたら、きちんとお礼言わなくちゃ・・・)

 そんなことを考えているうちに眠ってしまった。





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