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フォラードの光  ― 星の記憶者 ―  作者: あけの星
第二章

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17/44

使い魔⑴


 その部屋の奥には、白っぽい箱らしきものが窓際に並んでいた。しかし、近寄ることはできなかった。それの前まで行くと押し返されるのだ。

 マロウズはウタハの手を放して、肩に手を回して言う。

「ここには強い結界が張ってあるらしい。何度、おれが解除しようとしてもできなかったんだ。もしかしたら、おまえならできるかもしれない。やってみてくれるか?」

「えー、わたし、やったことないわ」

「簡単だよ。おれが詠唱するから、それをなぞってから、魔法の光を発動させるんだ。さあ、やってみて」

 彼は有無を言わさず、ウタハを自分の前に押し出した。それからウタハの聞いたことのない言葉をいくつかつぶやき始めた。

 ウタハは、マロウズの強引さに負けて、言われた通りになぞってつぶやく。そして発動させた。だが、何の気配もない。

「じゃあ、今度はおれも一緒にやるから。肩を叩いたら同時だ。いいな」

 ウタハはうなずく。

 ぽんと彼の手を肩に感じた。先ほどと同じように、彼の詠唱に少し遅れながらもなぞって詠唱し、気合を入れて発動させた、そのときだった、突然目の前の何かが、どっと壊れるのと同時に足元が割れ、二人は一緒に下に落ちて行った。「うわーっ」とマロウズが叫んだ。

 底と思われる場所に着いたとき、マロウズの上にウタハが落ちて乗っかったのだ。

 二人はうめき声を上げた。まだ崩れた上の床がバラバラと落ちてくる。

 マロウズは体の位置を変え、ウタハに覆いかぶさって、彼女をそれらから守っていた。

 ようやく、落ちてくるものがないのを確認して、彼はウタハを抱き起した。

「大丈夫か?」

「うん。あんたは?」つい村娘の言葉が出る。

「問題ない」

「ありがとうね、かばってくれて」

「まあ、一応おれも男だからな」

 体についた埃を払いながら、口元をゆるめた。

 ウタハも小さく微笑んだ。意外といいやつだと思った。

「わたしたち、どうなったんだろ」

「結界が解除されたかどうかは、よくわからないが、とにかく何かが壊れたことは間違いないね」

「そうね・・・」

「まいったな・・・こんなところに落っこちるなんて、想定外だ」 

「ここは?」

「おそらく、塔の下の階だろうな。地下までは行ってないと思うが・・・」

「・・・」

 二人は落ちてきた先を見上げた。かなり上の方で、壊れた床の穴らしきものが、闇の中ではいくらか明るかった。

 マロウズはまた指先に火を灯し、その火を指先から離して宙に浮かせた。そして少し火勢を強くして、あたりの様子をうかがう。

 周りは瓦礫に覆われていて、動けそうにもなかった。

 魔法の火は、二人の前方でゆらゆらと宙で燃えたままだった。

「すごい! あなたって、こんなことまでできるのね」

 ウタハは感嘆の声を上げる。

「たいしたことじゃないさ。それより、どうするかな・・・」

「あ、そうだ、わたし光で助けを呼べるかもしれないわ」

 ウタハが光を呼び出そうとする前に、マロウズが止めた。

「やめてくれ! あれは強すぎる。王国中にこのことを知らせるつもりか? タージェルンから聞いてるぞ。そんなことをしたら、大騒ぎになるよ。それより、もし結界が壊れたなら、それを感知した魔法師がやってくるはず。そのとき助けてもらえると思うよ。こってり、しぼられるだろうけど」

「うう・・・」ウタハは返す言葉が見つからなかった。

「もし、結界が壊れなかったか、壊れてもそれを張った魔法師が生きていない場合は、助けはこないかもしれないが・・・」

「ええっ?!」

「でも最悪の場合、方法はある。これがね」

 彼は指を口に当ててピッっと小さく口笛を鳴らした。

 すると彼の目の前にぽわっと光の玉が現れたと思うと、もわもわと小さな人の形をとった。小さな人間に蝶の羽がついている。

「わっ」ウタハが驚いてまた声を上げた。

「驚かないで。これはおれの使い魔になった妖精だよ」

「妖精が使い魔に?」

「そう。なんでかわからないけど、懐かれちゃってね」

 マロウズは妖精に向けて手を伸ばした。

 妖精はキラキラした鱗粉をまきちらしながら彼の手に止まった。かわいい少女の妖精だった。

「マイマスター、御用でしょうか?」

 風がそよぐような、吐息とも思える微かな声で言った。

「やあ、パピル、呼び出してわるいね。今少し困った状況にあるんだ。もう少しして助けがこなかったら、君に頼むよ。じゃあ、また後でね」

「諒解しました、マイマスター」

 妖精はふっと姿を消した。


「だから、もうしばらく待っていよう」

「マロウズって、妖精には優しい話し方をするんですね」

「え、そうかな。まーあいつは小っちゃいし、大きな声だとおびえるし、言葉が悪いとすぐ怒って出てこなくなるからな」

「ふうん、でも人間だって、まあ、わたしだって、優しい話し方の方がうれしいと思う」

「そうか、じゃあ、おまえにも優しく話してやるよ」

「ほら、そういう言い方が、優しくないの」

「じゃあ、どういう言い方をすればいいんだ?」

 マロウズはウタハの頬を撫でた。

 ウタハは、その手を押しのける。

「妖精に話すようによ。それに、そうやって、すぐ触るのもやめた方がいいわ」

「そうかな、たいていの女の子はおれが触れたりすると、うれしそうだよ」

「そんな女の子ばかりじゃないわ」

 つとマリエヌの顔が浮かんだ。(彼女なら喜びそうだけど・・・)

 彼はじっと不思議そうにウタハを見つめて首をかしげた。

「じゃあ、おまえのことは、妖精だと思うことにするよ」

 くすっと笑った。

 ウタハは肩をすくめてみせた。

 


 




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