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フォラードの光  ― 星の記憶者 ―  作者: あけの星
第二章

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14/44

魔法仲間⑴


 四階の五号室は、中央の吹き抜けを回る左右の廊下の真ん中、階段側から見て一番奥にあった。

 

 ウタハが灰色の重々しい金属の扉を押し開けると、中にいた数人が一斉に彼女を見た。リモーネの姿もあった。

 こちらに来るようにとリモーネが声をかけてきた。


 実験室の机に似たテーブルのそばで、グレーのフード付きの長着を着た男が二人ウタハを見つめている。ひとりは金髪で、もうひとりは白髪だった。その手前に水色と藍色のやはりフード付きの長着を着た少年たち、その横に小柄な蜂蜜色の巻き毛の少女が立っている。少女はフードの付いていない、薄い紅色のチュニックを着ていた。


 リモーネはウタハに挨拶するように言う。

 ウタハは少し緊張しながら昨日教わったとおりの挨拶をする。

(教えてもらっててほんとによかった)心の中で感謝した。

 

  リモーネはウタハに軽くうなずくと、男たちを特殊魔法を担当する魔法師だと紹介した。

 金髪で中年の魔法師をライティアル、彼よりさらに年上と見える白髪の魔法師は、ノクィース。二人はそれぞれ、胸の前で軽く手を上げた。


 特殊魔法とは、四大精霊魔法の変形や、それ以外のさまざまな魔法を取り扱う科目だと、リモーネは説明した。「精霊の中でも、地(土)、水、風、火の精霊を四大精霊と言います――」

 ウタハはそれを聞いて衝撃を覚えた。四大精霊! それを口の中でつぶやくと全身が震え軽い眩暈がした。いけない、何だろうこの感覚・・・ウタハは大きく息を吐き呼吸を整えた。


 気がつくと、手前の少年二人が挨拶していた。

 水色の長着を着た少年は肩までの金髪。ほつれてきた一筋を耳に挟みなおしてから、「アルダーです」と軽く微笑んだ。

 藍色の長着の少年は緊張した面持ちで、エリクルだと低い声で自己紹介した。茶色の長い髪を後ろで一つにまとめている。

 二人の挨拶をうなずきながら聞いていたリモーネは、最後に巻き毛の少女を紹介した。

「これから、あなたと一緒に学ぶ見習いさんですよ」

 少女は、はにかんだ口調でマリエヌだと挨拶した。


「初めに言っておきますが、この『古の魔法師の館』では、身分や出身は一切関係がありません。それらにこだわらず、同じ魔法を学ぶ『魔法仲間』、として行動してくださいね。ですが、先輩や魔法師の先生方には、ちゃんと敬意をはらうように。よって私たち魔法師は、あなたたちを敬称なく名前で呼びます。いいですね?」

 マリエヌが大きな声で「はい」と返事したので、あわててウタハもそれにならう。


「当分は、午前中が私の礼儀作法の時間になります。午後は見習いのお仕事を学びましょう。アルダー、それとエリクル、この子たちをよろしくね」

「おまかせください」アルダーは、右手を胸に当て頭を下げる。エリクルも同じ姿勢をとった。上位の魔法師に対する礼だった。

 その日から、『弟子見習いの見習い』の授業は始まった。


  *


「ふぁ~疲れたぁ」

 マリエヌが、食堂のテーブルの前で背を後ろに倒しながらぼやいた。午前中の授業は、かなりびっちりしごかれた。

「あんなにきついとは、思わなかったわ。背筋を伸ばして歩くだけなのに・・・」

 ウタハもうなずきながら言う。

 ふたりは昼食を食べる前に、とにかく座りたかったので、人のいない席を探して、ようやく腰を落ち着けたところだった。

「そうよねえ、でも、明日からもっと大変かも。基礎体力をつけるための運動をするって・・・」

 リモーネは、二人の体力不足を見抜いたらしい。追加の運動を行うと告げたのだった。魔法師は、魔法に耐えられるだけの体力も必要とする。

 

 また、ここで学ぶ行儀作法は、『王城でも通用するものです』とリモーネは宣言した。いずれ一人前の魔法師になれば、王城にも、さらには王前にも出る可能性だってあるのだ。

 しかし生まれたときから、高位の行儀作法に馴染んでいるわけではない者たちにとって、慣れるまでは一苦労であった。


「ねえ、わたしたちも名前で呼び合

いましょうよ」

 マリエヌが薄いブルーの瞳を少し大きくしてウタハを見た。愛くるしい顔立ちの少女である。

「いいわよ。よろしく、マリエヌ・・・」

「こちらこそ、よろしくね、ウタハ。きゃはっ、なんか嬉しくなっちゃった」

 ふたりは、自然と手を出して握手した。


「そういえば、今朝の集会の騒ぎって何だったのかしらね? マリエヌは何か知ってる?」 

「わたしもわからないわ。そうだ、今度リモーネ先生に聞いてみましょうよ」

「うん、それがいいわね」

 今日は、そんなことを聞く余裕もなく、授業は終わってしまったのだった。

「ねえウタハ、わたしたちと一緒に新しく入った見習いの人がいたでしょ。彼って、ウタハの知ってる人?」

 ウタハは、首を横に振った。

「ほら、今朝の集会で名前呼ばれたじゃない、たしかメティヤームって言ってたわ。あれって、ウタハのとこじゃない? トイサって、メティヤーム領だよね? だから知ってるのかと・・・」

「あー」

 ウタハは思い出した。たしかに。あの時は突然、自分の名前を呼ばれたので、あたふたして、よく見ていなかったのだ。顔も覚えていない。でもトイサはメティヤーム領だし、あのキヤという名前にも思い当たった。

「わっ、あの人、もしかしたら領主様と関係あるかも・・・」

 領主の姓はキヤと言ったはずだ。たしかタージェルンもそうだったはず。村では、姓で呼ばれることはほとんどなかったけれど。

 通常、爵位のある領主の一族は公式な場所では、姓名に所領の名をつけて呼ばれることが多い。ウタハはそのことを知らなかったが、マリエヌは知っていたらしい。


「やっぱりー、そうじゃないかと思ってたの。メティヤームってついてたから・・・でも、リモーネ先生の言われた通り、ここでは身分や出身は関係ないってことだから、気にしなくても大丈夫よね?」

 マリエヌは目を輝かせた。

「うーん、そうよね、『魔法仲間』・・・だものね」

 ウタハは、そう言ったものの、気にしないでいられるか、あまり自信はなかった。


「マロウズって、いくつくらいに見えた? ウタハは」

「わたしより少し上かな・・・」

 あてずっぽうに言う。よく見ていないから、適当に言う。

「そうかもね。二つくらい上だと思うわ。ウタハは今いくつ? わたしは十六になったばかりよ」

「うん、同じ」

 ウタハは微笑んで見せた。

「じゃあ、もしかしたらライバルになるかも・・・」

「えっ」

「ちょっと素敵な人だったじゃない?」

「えっ?」

「あ、ウタハのタイプじゃなかった?」

「えー? 何の話?」

「やだ、彼の話よ。わたしちょっと気に入っちゃった」

「えー、そ、そういうこと?」

 ウタハは目を丸くしてマリエヌを見た。

 彼女はどこか夢見る瞳でうふふと笑った。


 




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