弟子見習いの見習い⑵
部屋から出ると、ミルルは廊下の突き当りの方を指して言った。
「あそこが、水浴び場と用足しの部屋になってるわ。一階には、少し広い浴場もあるから、のびのびしたいときは行くといいわよ。そちらはお湯だしね」
「へえ・・・すごいなぁ」
ウタハは驚いてばかりだった。
*
ミルルは、ウタハを食堂に案内しながら、その間、館内の説明もしてくれる。
「一階の東の端にあるホールがこれから行く食堂になってるの。二階は弟子や見習いの子たちの部屋よ。三階は集会とかする講堂があって、朝は毎日全員集合して館長のお話を聞くの。他には・・・図書室がその奥にあるわね。それから・・・
それぞれの魔法師様を、みんなは先生と呼んでるわ。以前は師匠と言ってたのだけどね。それぞれ四階に部屋をお持ちなの。で、その先生の受け持ちの弟子たちが身のまわりのお世話をしながら、魔法を教えてもらうってことになってるのよ」
「あの・・・じゃあ、わたしはどこへ行けばいいのかしら? ミルルと同じところ?」
「そうなんだけど・・・わたしと一緒に学ぶ前に、あなたはリモーネ先生のところで、少しの間教えを受けることになってるって聞いてるわ。弟子見習いの見習いね」
「弟子見習いの見習い?」
ウタハは、うへっと声を上げそうになった。(そんなのがあるなんて・・・)
「そう、それぞれの先生につく弟子には、その補助として弟子見習いの子がつくのよ。その弟子見習いができるように学ぶ期間があって、あなたはまず、それになるってこと。もちろん、能力によって、どんどん上がってくわ。
館長の古の魔法師様につくのは、先生以上の弟子よ。その上の、権威ある古の魔法師様には、館長クラスの魔力のある方がつくのですって。聞いた話ではね」
「よく知ってるんですねー」
ウタハは感心して言った。
「まあ、わたしは結構長いからね。落第して何度もやり直しってこともあるから。ウタハも気をつけてね」
ミルルはお茶目に片目をつむってみせた。
食堂に近くなると、通路に人の数が増えてきた。フード付きの長着を着ている者と、ウタハのように普通のチュニックを着ている者がいる。ミルルは藍色のフード付きの長着を着ていた。ほとんどの見習いたちは、ウタハとあまり変わらない年頃の少年少女に見えた。中には先生とおぼしき大人もちらほら見える。
「ここは、先生たちも一緒に食べるんですね?」
「いつもじゃないけどね。たいていは部屋へ弟子が届けるのだけど、気分を変えるために食堂へ来る先生もいるわ」
「リモーネさん、じゃなかったリモーネ先生は?」
「リモーネ先生は、臨時の先生だから、いつもここで食べてるみたい。そのうち会えるわ」
「臨時の先生?」
「そうよ。ときどき呼ばれるみたい。詳しいことは知らないけど。あ、もう並んでる。早く行きましょ」
入口で並んで、トレイに入った食事を受けとり、空いた席を探して二人は座った。ホールの中は長方形の四人掛けのテーブルと椅子が、いくつも所狭しと置かれている。
木のトレイには、肉のシチュー、柔らかいパン、小皿に盛った酸っぱい野菜がついていた。
シチューは温かくて美味しかった。パンは焼いてあり、中にチーズが入っていて、いくらでも食べられそうだった。おかわりは自由にできるらしい。
ミルルは食べながら、周囲に座っている弟子見習いたちの衣服について話してくれた。
「フード付きの長着を着ているのが、弟子見習い以上よ。藍色は弟子見習い。薄い水色は弟子。上位の弟子はグレー。先生クラスね。上に行くほど白に近くなるんですって。」
「そっか、色で分けてるのね」そう言いながら自分のチュニックにちらりと目を落とす。いつも村で着ていた薄茶色の服ではなく、少し新しい同色のものだ。外出着用にとアミラが仕立ててくれたものだった。(とうぶん、わたしはこれね)
顔を上げたとき、食堂の入口にリモーネがいるのが見えた。
「あ、リモーネさん・・・先生だわ。わたし、ちょっと聞かないと・・・すぐ戻ってきます」
ウタハは、ミルルにそう告げると、人の間をすり抜けて駆け寄った。
「リモーネ先生!」
リモーネは、ちょっと驚いた顔をした。
「あら、ウタハさん、どうしました?」
「あの、タージェルンさんを知りませんか? ここへ来てから別れてしまって・・・」
「ああ、彼ね、あの方は急用ができたとかで、もうお帰りになりましたよ。よろしく頼むとご挨拶されて」
ウタハは少し落胆の思いと同時に、いくらか安堵感を覚えた。
「明日は、朝の集会に遅れないように。ミルルさんに場所は教えてもらってくださいね」
そう言うと、食事のトレイを受けとりに行った。
ミルルのところへ戻ると、彼女は二回目のおかわりを終えたところだった。
ウタハが食べかけのパンを食べてしまうのを見て言った。
「おかわりする?」
ウタハは首を横に振る。
「じゃあ、戻ろっか」
二人が部屋に戻ると、壁の受け皿の魔法の火が、少し大きくなっているような気がした。
「火が少し大きくなってるみたいな気がするけど・・・」
「ああ、それね。朝と夕方に、係りの弟子たちが点灯の魔法で、火が途切れないように注ぎ足してくれるのよ。一斉にね。注ぎ足したばかりだから、少し大きいのね」
「すごい、そんな魔法が・・・?」
「火の魔力のある人たちのお仕事ね。訓練でもあるのよ。古の魔法師の魔法には、何人もが協力し合って大きな魔法を起こす魔法があるの。個別のも大切だけど、協力し合うってことも大事なの」
そういえば・・・ウタハは鏡沼を攻撃した魔法師の話を思い出した。アイジェルは、たしか古の魔法師たちが協力して大きな竜巻を作ったと言っていた。
そういう魔法の訓練法なのね。
「なるほど・・・」
ウタハがひとしきり感心していると、ミルルが「はい」と言ってウタハの手にパンを載せた。
食事で出たパンだった。
「えっ」と驚いているとミルルは笑っていう。
「あんまり食べてないみたいだから、お腹空くと思って持ってきてあげたの。わたしのもね」
もう一つ取り出してみせた。
いつのまに?
たしかに、気持ちが落ち着いてくると少しお腹は物足りなかった。
「ありがとう」ウタハは、パンを持って自分のスペースへ移動する。
ミルルって、よく気がつく人なんだ・・・さっぱりしてて親切だし。一緒の部屋の人が彼女でよかった、そう思いながら机の前に座った。
ウタハがパンをかじっていると、ミルルの声がした。
「明日、鐘がなったら、起きて講堂に行くから、そのつもりでー」
ウタハは、はーいと答えて最後の一口を飲み込んだ。




