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フォラードの光  ― 星の記憶者 ―  作者: あけの星
第二章

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魔法師の館

 

 夕食が終わった後、めずらしくアミラが紅茶を入れ、ウタハのカップには蜂蜜を、自分のカップには蜂蜜酒を数滴たらした。


 ウタハの家には、ときおり村長から食べ物やめずらしい物などの差し入れがある。その中に紅茶も入っていた。村人にはなかなか手が出ない、かなり高価なお茶である。ときたま行商人が王都から買って帰って売っているくらいだ。


 二人は食卓に向かい合って座っていた。

 ウタハは何か話があるのだろうと察した。これまでもアミラは、大事な話や小言があるときは、紅茶を入れ、何かしらの酒をたらす。

 

 アミラは紅茶を一口飲むと、軽い咳払いをして言った。

「今日ね、村長さまからお話があったんだよ。また、この間のようなことが起きるかもしれないって。あんたを狙っている悪者がいるんだと。それで、ここにいるのは危険だから、身を守ってくれる魔法師様のところへ行ったほうがよいと。行けば、魔法の勉強もできるし、安全に暮らせるって。だからね、行きなさい」

 アミラは心を決めたように、きっぱりと言った。

 ウタハは驚いて養母を見た。

「でも・・・」

 アミラは口答えさせないという表情でウタハを見つめた。

「あたしはね、真剣に考えて決めたんだ。もし、このままここにいて、この前のようなことがあったら――今回は生きて帰ってきてくれたからよかったけど、次はどうなるかわからない。離れていても、あんたが無事で元気でいてくれるなら、あたしは、それがうれしいと思ったんだ」

 真剣な顔で言った。

 それはアミラが悩み、出した結論だった。

 ウタハは、嫌とは言えなかった。

 アミラの言うことは、ずしりと胸に重く響いた。彼女のいうとおりだと思った。

 自分がここにいることは、みんなを心配させることになる。

 ウタハは、黙ってうなずいたのだった。


 その話が出された翌々日の夜明け前、ウタハはわずかな身の回りの荷物を持って、タージェルンと馬車に乗っていた。

 師匠の古の魔法師の馬車だった。安全のため防御の魔法がかけられている。 

いつもは、タージェルンが師匠のところへ行くのに使うので、もし、だれかが目を覚まして、馬車の音に気づいても、また魔法師様がお出かけだとしか思わないだろう。


 見送りは、アミラと村長、アイジェルだけだった。なるべく人目につかぬよう、まだ村人たちが起き出さず、夜明けの星が出る前に、できる限りひそやかに御者は馬を走らせ、村長の館を出た。


 馬車に乗り込むとき、アイジェルはウタハに、持って行けと小さな袋を渡してくれた。それから彼女の頭をちょっと撫でて、頑張ってこいと言った。いつか自分もちゃんと魔法が使えるようになったら、会いに行くからとも。アイジェルは、来月から王都の魔法士養成所に行くことが決まったのだという。

 ウタハはまた、ポポに会わないで、このまま行くことが気になっていた。手紙をアミラから渡してもらうことにしてあったが、寂しい気持ちは消えなかった。

 親しい人々と別れていくことが、こんなにも切ないことなのだと知った。

 馬車が動き出すまで、アミラの手をにぎったままだった。動き始めて、手を放す。薄闇の中で、アミラが声を出さずに泣いているのが感じられた。気がつくとウタハの目からも涙が頬に流れていた。


 これから行く先は、王都の北西にあるウキアーナという辺境の村。そこは、タージェルンの師匠の知り合いである古の魔法師が住んでいる。

 その魔法師は、身の回りの世話をする者を探しているのだという。もうすでに、何人かはいるが、上位の魔法師になるため一人辞めたので、空きが出たのだとタージェルンは話してくれた。

「古の魔法師は、王都の魔法士のような養成所はないが、能力のある者を上位の魔法師が弟子をとって育てるのだ。それは一人の場合もあるが、たいていは数人いる。師匠の身の回りの世話をすることで、礼儀作法も覚えられる。始めはつらいかも知れぬが、慣れればなんということもない。師匠を敬うのは忘れぬようにな」

 タージェルンは、そう言うと馬車の背にもたれた。

 外はもうすっかり明るくなり、朝の光が射し始めていた。

 ウタハは馬車に乗るのも、遠くの村へ出かけるのも初めてで、少し緊張しながら、馬車の窓から移りゆく光景を眺めていた。

 タージェルンを見ると、考えごとをしているのか目を閉じていたので、初めてじっくり彼を眺めた。グレーのフードの下からのぞく髪の色は、アイジェルより少し濃い赤い金髪だった。村長と同じくらいの歳だが、彫の深い顔はアイジェルに少し似ていた。


 それからじっと握りしめていた小さな袋を思い出し、そっと開けた。

 中には、半分に割ったクルミの皮に細い革紐がついているペンダントと銀貨が一枚、それと小さな紙切れが入っていた。アイジェルからの簡単な手紙だ。

それを取り出して読んだ。急いで書いたのか字が跳ねている。

 『何かあったら、王都の魔法士養成所に来いよ。王都までの馬車代を入れておくから。元気でな』

 アイジェルの気持ちが、ウタハの心に温かな想いをともした。

 おそらくこのペンダントも彼が作ったものだろう。かなり時間をかけて磨いたらしい。固いクルミの皮には艶があった。

 ウタハは手紙を戻して袋を閉じた。 

 

 やがて馬車が街道を抜け、遠くに王都の城が見える森の近くまで来たときだった、タージェルンは、馬車を止めて言った。

「ここからは古の魔法師殿の領域じゃ。移動の魔法が使える。だからしっかり掴っておれよ、行くぞ!」

 ウタハがうなずいて馬車の椅子の端をしっかり持ったのを見たタージェルンは、両手を上げて何やらつぶやいた。と、同時に馬車はふわりと宙を浮く。速度を増した馬車は空を飛び、あっというまに山間の、古い館の庭に降りて、その館の前で止まった。


 白っぽい肌の木々が、庭と灰色の建物を囲んでいた。館は古い城であった。がっしりとした石造りで、周壁には蔦が、その重々しさを和らげるようにまとわりついていた。


 ウタハとタージェルンが館の前で馬車から降りたとき、館から淡い水色のフードを被った若者がひとり出てきて、お辞儀した。

「ようこそ。魔法師様がお待ちです」

 彼の後をついて、ウタハたちは建物の中に入って行った。


 




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