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雨と雷



小さい頃から、私は雷が好きだった。


稲妻が夜空を裂くたび、ああ、きっとどこか遠いところで、人間じゃない大きな存在が怒っているんだな、と勝手に想像していた。


両親が激しく怒鳴り合っているのを目の前にしながらも、私にとっては雷のほうがずっときれいで、胸を震わせるものに見えた。

人の口から飛び出す罵声よりも、空を震わせる轟きのほうがはるかに誠実で、美しく響いていたのだ。


大人になった今でも、私は雨が好きだ。きっと自分の性格のせいなのだろう。日常では声を荒げることもなく、怒りを表すことなんてほとんどない。


抑え込むばかりで、言いたいことを飲み込み、いつの間にか心の奥に沈めてしまう。だからこそ、あんなふうに思いきり怒りをぶつけられたらどんなに気持ちがいいだろう、と羨ましくなる。


窓の外では、今夜も大粒の雨が叩きつけるように降っている。


地面を打つ激しい音が、私の心をかき乱しながらも不思議と落ち着かせてくれる。雷鳴が腹の底を震わせるたび、胸の奥に溜めこんできたものが少しだけ浄化されていくような気がする。


私は声に出してみる。

「いいぞー、もっとやれ」


誰に聞かせるわけでもない、小さな呟き。けれどその言葉の中には、私がずっと隠してきた願望が滲んでいる。


自分ではどうしても出せない激情を、空が代わりに示してくれる。


私の代弁者のように、

雨は降り、

雷は吠える。


怒りをぶつけることは下手だけれど、本当は私だって叫びたい。

打ちつけるように、容赦なく、誰にも遠慮せず。


ただ、それができない私だからこそ、雷と雨の荒ぶる姿に憧れ続けているのだろう。


今夜も、私は雨音を聴きながら、胸の奥で静かに叫ぶ。


「もっと激しく、もっと強く」

そして少しだけ、心が軽くなる。




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