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005 英雄

 地を埋め尽くす赤い波。それは、なにも赤い魔物の大群というわけではなかった。

 それは人形。木彫りの人形や子供を模した不気味な人形、布に包まった人形や藁人形まで、種類は多岐にわたる。

 共通点と言えば、その全てが赤色の装備をつけていること。そして、操る人もいないのに自立して動いていること。手にはそれぞれ多種多様な武器を持ち合わせていることだった。


 ――僕には一目でわかる。何故かはわからないけど、直感で。

 あれは危険だ。多分、個体ごとの攻撃力はそんなでもない。ただ如何せん数が多すぎる。囲われたら終わりだ。


「――ッ!?」

「危ない!」


 僕らが逃げる先に、四体の人形の魔物が飛び出してきた。どういうことだ……? もう既に、村に侵入してたのか?

 そんな複雑に考える前に、身体が動いていた。襲われかけたレイアさんの前に、なりふり構わず飛び出した。

 勿論、本心は怖い。心臓はバクバク言ってるし、本当は逃げたい。だけど、僕は立ち塞がっていた。まるで、村を――レイアさんを守りたいと言わんが如く。

 丸腰の僕に何が出来るの? ――ううん、武器さえ奪えれば何とかできる。

 そんなに現実は甘くないのだと知ってる。でも、不思議と出来るような気がしてならない。


 手前の一体に殴りかかる。こんな弱い拳で効くわけがないのは分かってる。案の定スカッと空振り。

 横から棍棒で殴られる。囲まれて、ナイフで脇腹を刺される。


「ハルくん――!」


 悲痛なレイアさんの叫び声。脳を突き刺す痛みと衝撃。

 ――でもどうやら、問題は無さそうだった。

 傷は瞬く間に完治した。血が噴き出たと思ったら、その数秒後には傷は塞がっている。

 どっと襲い来る倦怠感。痛みは幾らか軽減されるが、消せるわけではない。そして何しろ、体力を使う。

 何故かは、まだ理解できない。僕の脳みそが追いついてない。

 でも取り敢えず、勝機は見えてきた。

 一番近くの人形を掴んで、床へと叩きつけた。思いっきり。

 がちゃんと派手な音を立てて関節が断絶。ピクピクと破片が動くのが気味が悪い。

 混紡を奪い、もう三体も殴った。頭蓋と思わしき部分の大半が粉砕し、びくともしなくなる。


「は、ハルくん、大丈夫なの……?」

「大丈夫みたいです」


 改めて考えたら、理由が解った。僕の最期の願い、『来世は健康で元気な生活が出来る』。それはどうやら、叶っていたらしい。

 よもや、こんなところで活躍するとは思わなかった。


 そう関心すると同時に、村の門の方向から轟音が聞こえてきた。

 驚いてその方向を見る。すると、何と塀や門を突破し人形の大軍が村へと侵入してきていた。


「に……ろ!」

「……らの……がはか……た!」

「おく……の……ににげ……!」


 遠くから走ってくる、門を守っていたはずの冒険者たち。何か必死に叫んでるけど、端々しか聞き取れない。

 もう既に、人形の大波は押し寄せてきている。僕たちがいるところへ到達するまで、残り一分もかからないだろう。

 逃げなければ。村の奥へ、みんな逃げなければ。逃げ切れていない人も多くいる中で、どうすればいいのだろう。


 ――まずい、思ったよりも進行が速い!?

 このままじゃ、飲み込まれ――


「グハッ――!?」


 刃物が肩に刺さる感触。そして鈍器で背中を殴られる。脇腹も切り裂かれ、同時に三つの痛みが脳を突き刺した。

 でも、僕の体力――恐らくは生気か何かを代償にして、さほどの流血も無しに傷は回復の兆しを見せる。

 

 僕は近くの人形を掴んで、無理やり胴と頭を引きちぎった。手に持っていた薙刀を掴み、力任せに振り回す。

 コツなんていらない。単純な動きしかしない人形たちを一掃するのに技術は必要ない。気合と根性だ。


 薙刀を一文字に振ると、何十体もの人形が吹き飛ぶ。地面に衝突して砕け散り動かなくなるものも、他の人形と激突して破損し動かなくなるものも多かった。


 矢が飛んできて頭に刺さる。槍での突きで身体を貫かれれ、剣で足を切りつけられる。

 脳震盪、我慢出来ないほどの鋭い痛み、そして力が緩んで立てなくなる。

 だが、ものの数秒で回復し、また薙刀を振るい始める。


 痛い。

 僕は理解した。意識すらも保つのが困難な痛みの中、やっとあの言葉の答えを導き出した。


 僕の役に立つこと。それは、この能力(チカラ)

 きっと今も、役に立ってる。


「おい娘! お前何無茶なことやってんだ!」

「け、怪我は大丈夫なのか? 全部完治してるが……」


 冒険者たちが、次々に人形を薙ぎ払いながら駆けつける。

 その頼もしさが安心だ。

 無数の人形は段々と数を減らしていく。雀の涙程ではあるが、塵も積もれば山となる。

 僕は後ろへと投げ飛ばされ、彼らの背中を見守ることになった。


「ハルくん、ここは彼らに任せて私たちは逃げるよ!」

「え、でも――!」


 レイアさんが、僕の手を掴んで後ろへと引っ張る。大した体重も無い僕は、それに抗うことは出来なかった。

 安堵感と緊張感が入り混じる。


 ――疲弊したからか、何時しか意識が遠のいてきた。

 まずい。ここで気絶したら……

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