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049 悔恨

 パチンッ。

 クロエが、ミッドナイトの頬を叩く。一同揃い、固有領域から出てきた僕とミッドナイト――クロエを待ち構えていた。

 目の前のクロエは大粒の涙を流していた。頬を叩いても飽き足らず、嗚咽を漏らしながらも怒鳴る。


「お前がしでかしたこと、赦すつもりはない。ハルは、何も悪くない。お前が、全部お前が悪いんだ。全部、全部全部全部、お前が――私が、私たちが悪いんだ」


 彼女の後ろには、ティナやボロボロのコルヌ、リゼ、苦笑いするメイズと不機嫌な様子のフィス、聖剣を杖代わりにしている剣聖がいた。皆、僕を信じて一緒に戦ってくれて、魔王を止めようと奮戦してくれた。

 全員、辛うじて命に別状は無いものの限りなく瀕死に近い重傷を負っている。更に、騎士団等にも出た犠牲は数え切れないほどにいるだろう。

 多くの命を奪った罪は、赦されることはない。きっと、本人も分かってるはずだ。


「……赦してもらうことは望んでない。元より、赦してもらえるなんて思ってないから。ただ私はハルを救いたかっただけ。それが免罪符にしかならなくて、何の弁明にもならないのは分かる。……ただ、謝りたい」


 平静を保つミッドナイト。本心では、途轍もない自責の念と罪悪感に駆られているはずなのに。敢えてみんなの怒りを刺激しないよう、必死に感情を押し殺している。僕には、声色で分かった。


「ごめんなさい」


 勿論全てがその一言で終わるはずはない。だが、僕を含めた全員、そこまで鬼じゃない。殺されかけたとは言え、事情が分かればいいはずだ。リゼやコルヌ辺りは、もともと事情を理解していた上で暴走を止めようとしていたようだけれど。


「……魔王ミッドナイト。貴様がしでかしたことは、到底赦されざる行いだ。でも、私はそれを咎めない。好きにすればいい」

「クロエちゃん、同じ魔王として、同意見だよ」

「落ち着いてくれて、本当に良かったです」


 剣聖を皮切りに、ミッドナイトを励ます言葉の数々。それがよほど嬉しかったのか、泣き腫らした瞳からまた涙が零れ落ちる。

 袖で擦るように拭い、呼吸を整えてから、僅かながらの笑顔を浮かべた。


「ありがとう」



 ――そして、その数時間後の事だった。

 無事にとは言い難いけれど、ミッドナイト制圧作戦は終了。結果的に討伐軍のおよそ九割近くを失うという痛手を負ったけれど、騎士たちが特にミッドナイトを咎めることはなく、疲れ果てた様子で帰路について行った。


「ハル――いや、勇者殿。剣聖が七日間も持ち堪えて、ハル殿を待っていたと聞いたときには驚きやしたが、よもや本当に来ちまうとはねぇ。こりゃ、脱帽ものだ」

「皆さんも、何とか時間稼ぎをしてくれてありがとうございました」

「いえいえ、問題はないですよ。いやね、一部始終をこっそりと見させてもらってたんですが、あの強さはやはり桁違いだ。ロティルがこてんぱんに伸されるのもわかる」

「あれはクロエたちが規格外なだけですよ……」


 ジャスと数名の聖騎士。今回の討伐戦の生存者であり、剣聖とともに時間を稼いでくれていた立役者。

 ……まあ、魔王相手に敗北寸前まで追い詰められていたのは覆し難い事実だ。実際、彼女が僕を殺す意思が無かったから何とかなったわけで、もしも僕が死んでいたらそれこそ世界が終わっていた可能性が高い。誇張し過ぎではない。


「あの……一つ聞きたいんですけど。何故魔王は大人しくなったんですか?」

「本当です! 私もそれ気になってました。私たちがどれだけ奮戦しても勝てなかったのに」

「もしや最初からグルだった……?」


 と、聖騎士たちはご尤もなご意見を僕にぶつけてきた。答えるのが一番難しいやつを。


「うーん……色々と事情があってですね……」

「そこに踏み入るのはやめときましょうや。角が生えた件も正直気になってましたが、黙殺しておきます」


 ジャス、ナイスフォロー。後ろの聖騎士たちは何やら不満気な表情だったけど、本当にこの件に関しては説明が難しい。僕の気持ちを察してくれたジャスに本当に感謝しかない。


「……ハル」

「あ、ロンドさん」


 背後から声をかけてきたのは、今回のMVPと言っても過言ではない活躍を成し遂げてくれたロンド。衣服はボロボロだが、怪我も僕が全て治し、後遺症もなさそうだ。


「今回主戦にて貢献できなかった事を詫びる。そして心からの感謝を」

「いやいや、頭下げてもらうようなことじゃ……。ロンドさんのお陰で、全て成り立ったんですよ。寧ろこっちからお礼を言いたいくらいで」


 深々と頭を下げるロンドだが、僕が全力早口否定したからすぐに頭を上げてくれた。


「この後、ハルはどうする?」

「……そうですね」


 キャンプ地で仲良く座って食事をしているクロエたちを、遠目から眺める。魔王はこの地に残るそうだ。世界の管理の一角を担い、これからは縁の下の力持ちな悪役として生きると。

 あの笑顔を守るためにはどうすればいいか。もう、結論は出ていた。


「故郷の村に、みんなで戻りますよ」

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