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047 暁光

 ――リゼが致命傷を負った。意識を刈り取られ、呼吸すらもしているかどうか怪しい。真っ先に治療を行わないといけない。

 ハルの脳内で目まぐるしく回る思考。葛藤が心を抑えつけ、今までに感じたこともない重圧が襲いかかる。


「かはっ――」

「ぃゃ――っ!?」


 意図も簡単に、まるで脇腹を抉り取るような蹴りでフィスとメイズが倒れる。

 もう迷っている暇はなかった。


「クロエ、時間稼ぎ出来る?」

「何分?」

「三分」

「わかた」


 そうして、動ける二人は動き出した。その意図をくんだのか、現在交戦中のティナも防戦に徹するようになる。二対一、戦力差も有利。時間稼ぎくらいなら出来るのだ。

 ハルはコルヌに駆け寄った。意識はあるが、死んでいてもおかしくないほどの重傷。即座に手をかざし、スキルを使った。

 見る見るうちに怪我は完治していくが、正直戦力としてすぐに復帰出来るかは期待していない。寧ろ、休んで欲しいと思っている。


「……感謝する」

「もう危険です、ここは任せて撤退してください」

「……いや、私は……私のやることを」


 よろよろと立ち上がるコルヌ。闘志の炎はまだ消えていなかった。ハルが止めようとするも、聞く耳を持たず。刃毀れしたレイピアを握りしめ、駆け出していった。


 駆け出したら止められない。引き留めるのは諦めて、次はリゼを治療しに行こうとしたところ――


 ――『厄災』が牙を剥いた。


「煩わしい、お前たちは。必死に食らいついて、傷だらけで、傷つけて。まるで昔の――」


 そこから先は、誰も聞き取ることが出来なかった。頭をかち割らんとする高い耳鳴り――否、外界からもたらされた高い音。何かを警告するようにそんな音が鼓膜を乱暴に叩く。

 その直後、幾筋もの紫の閃光が舞った。その光景は何処か幻想的で、危険なものである。あらゆるものを物理で焼き払い消滅させる、魔力と純粋な自然エネルギーの融合体。それを使った、超殺傷能力広範囲魔術だった。


「危な――」


 一瞬にして、無差別に、全てが薙ぎ払われた。閃光の中に消えゆく、クロエとティナとコルヌ。魔王の姿は煙のように失せていた。


 ハルは考えた。考え抜いた。この攻撃は何か、どうやったら避けきれるのか、形勢逆転はどうすればいいか、魔王をどうやって倒すのか――

 そして、コンマ数秒の間に結論は出た。いや、考える暇もなく無理やりに結論を叩きつけられたのだ。


「勇者ハル。諦めて撤退するなら、命は奪わない」


 眼前に現れた。眩いばかりの紫電の中、はっきりと見えるほど近い距離に。向かい合うようにして。

 ふと、とあることに気が付いた。漆黒の長髪、垂れているが頭についた動物の耳、あどけなさもある顔付き。


「……やっぱり」


 ハルがそう呟いた、その時。ひしと剣を握り締めていたミッドナイトの手が緩んだ。ドスッと鈍い音がして、ハルの顔に生暖かい液体のようなものが飛ぶ。


「――っ」


 ミッドナイトの身体は、幾つもの橙色の棘によって貫かれていた。真紅の鮮血が流れ、全身が弛緩して力なくへたり込む。口の端からも、血が垂れる。患部を手で押さえているが、止血も出来ず傷口も多く、到底助かるとは思えなかった。


「ハルちゃん今すぐ離れて!」

「ティナ……!」


 柔らかいスライムの体で、ハルを押しのけるティナ。彼女だけは自己再生能力を有するし何しろスライムなので、先ほどの光線の乱舞では大したダメージを負うことなく、活動が可能だったのだ。

 ハルは抵抗するが、その理由も知らないティナはミッドナイトからハルを遠ざけようとする。


「離してティナ! 僕は、僕は彼女と話さないと……!」

「あの魔王は特に危険なの、ハルちゃんの再生能力でもカバー出来ない!」


 視界の中のミッドナイトは、どんどん遠ざかっていく。傷を治せないのか、傷口を押さえたまま微動だにしない。

 自力で傷口を治療し、顔をしかめながら立ち上がろうとしているリゼ。血を流しながら、脚を引きずるクロエ。倒れたまま動こうとしないコルヌ。よたよたと歩く、メイズとフィス。

 痛々しい面々に、ハルの心は疲弊している。


「離して……! お願いだから、離して……!」


 泣き叫ぶハルの脳内に、断片的な記憶がフラッシュバックする。


 ――クロエ

 ――位相反転

 ――黎明



 ――魔王



「魔王、の存在――」


 異変が生じた。ハルの額から、漆黒の二本の角が生えてきたのだ。禍々しく、恐ろしく、威圧的な二本の鋭い角が。その瞬間に、ハルのオーラが解放される。ティナさえも抑えつけることが出来ない、莫大な強さ。

 その光景をみていた全員が――魔王さえも、目を丸くした。


「ハルちゃん、もしかして……」


 ティナの中で、古き記憶が再生される。懐かしき、あの姿。


「師匠……!」


 魔王に向かってゆっくりと歩いていく。最早誰にも止められない。


「我、暁の光を望む」


 ハルがそう呟いた途端だった。ハルを中心にして、桜色の結界が展開される。ミッドナイトを飲み込み、それ以外を全て弾き飛ばして――


 ――二人は外界から隔絶された。

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