表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

42/51

041 幼稚

 こうきしんはネコをころすとは、よく言ったものだ。


 本来、こんなはずじゃなかった。わたしはあがめられる側の立場で、かれらはあがめる側の立場で。過去千年間くつがえらず、今までもこれからもくつがえることのないそのコトワリは、ある時とつぜん簡単にくずれ去った。


「君を、果てしない世界へと連れて行ってあげよう。まだ見たことのない綺麗な景色を、未開の境地を、君という存在を大きくするため、広めるために」


 ある時、黒かみの女の人がわたしのもとをおとずれた。よくある旅人だと思っていたけれど、その人だけはちがった。

 その人は、自分のことをミッドナイトと名乗った。


「……いい」

「何故?」

「わたしはどうせ、ここからはなれられない。それが定めで、わたしにはどうしようもないから。たくさんのけしきは見てみたいし、いろんなところにも行ってみたい。でもわたしは、この村の人たちのかおが好きだから」


 わたしを神としてあがめまつるのは、この小さな村――しゅうらくくらいのきぼの小さな村だけど、それでもわたしにとっては大切で、かけがえのないものなの。


「そう。いや、私も無理に連れて行くこともないから。君がここで満足しているというのならば、それを尊重し私は他の仲間を探しに行くとしよう」


 ざんねんそうに、その人は背中を向けて立ちさっていった。わたしはその背中を見送るだけ。自分がこの村に本当にまんぞくしているのか、かのじょのもうし出に本当に心がひかれなかったと言ったら、きっとうそになってしまう。

 でも、わたしはこっちを――村に残ることをえらんだ。そのせんたくが、きっといいことであると信じていたから。










 ――一週間後。

 村は燃えた。

 わからない。何もわからない。

 特に何かが起こったわけでもない。

 村人たちは、わけも分からずこんらんし、うおうさおうするだけだった。

 だれも、自分のことしか考えられなかった。


「……あなたのせい?」

「いいや、これは私にも皆目見当がつかない。魔法による黒炎、何もかも全てを文字通り灰燼に帰す禁忌魔術――私があと一歩早ければ、救えた命もあったのに」


 わたしは何もできなかった。

 何も考えられなかった。

 からだがかたまって、頭がまっしろになって、息もできなくなって、何が起こってるか、だれのせいか、何が正しいのか……。

 わからない。

 わかりたくない。

 わかることもない。

 ただ、わたしはかけつけたあの女性をうたがうしかなかった。そうしないと、心がこわれてしまいそうだったから。

 でも、かのじょも何も知らなかった。くやんでいた。くやんでも、何ももどってこないのに。


 泣いた。

 泣くしかなかった。

 今のわたしには、なみだを流す以外何もできなかったから。

 どれだけ泣こうと、死んだ人々がもどってこないのは知ってる。いくらなげこうと、失われたものの代わりはないのは知っている。

 それでもわたしは、初めて感情というものを見せた気がして、それがまた悲しかった。


「……贖罪、といったら語弊になるけど。私は君を放っておきたくない。……一緒に来てくれない?」


 もはや何もかも失ったわたしは、それにうなずくしか道は残されていなかった。













「……フィス?」

「ん……? あ、わたし、ねてた……?」

「うん、寝てたよ。うなされてて、苦しそうだったけど。大丈夫? 悪夢でも見た?」


 気がついたら、わたしはげんじつにもどっていた。なつかしいような、泣きたくなるような匂い。空っぽになった心をやさしく、からだといっしょに抱きしめてくれる人。おろかなあの時のわたしとは、ちがう。新しい主、ハルおねぇちゃん。

 かのじょはしんぱいそうな顔で、わたしのことを見つめていた。


「……うん。ちょっと、いやなゆめ。むかしの、だめなわたしのときの」

「大変だったんだね。あ、そうだ。気分が落ち込んでいるときには、思いっきりぎゅーーっ! てしてあげると、元気になるから」


 そう言って、ハルおねぇちゃんはわたしをハグしてくれる。バックハグ、のほうが正しいのかな。強すぎず、やさしすぎず、がまんしないとあっという間に感情があふれ出てしまいそうで、わたしは思いっきり歯を食いしばって、その暖かさをかみしめた。

 クロエおねぇちゃんほどやわらかくはないけど、温もりがある。あっとーてきほうようりょく。


「ごめんね、あんまり肉付きよくないから固いけど」

「……ううん、だいじょうぶ。おねぇちゃんのハグ、うれしい」


 たとえかたくても、ろっこつが背中に当たってへんな感しょくがしても、今のじょうたいがうれしいのはかわらない。


「わ! な、泣いてる? 大丈夫? 強すぎた? 痛くない?」


 気がつけば、なみだが流れていたらしい。あわてふためくハルおねぇちゃんの反応で、やっとそれに気づいた。ほっぺを伝う、大つぶのなみだ。


「……ううん、だいじょうぶ、だいじょうぶなの。うれしいだけなの。うれしくて……あったかい……」


 しんぱいかけちゃ、だめなのに。どうやってもなみだが止まらない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ