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039 悪魔

 メイズ・アルドロック。魔王軍幹部、《情欲の悪魔(サキュバス)》として僕を殺そうとしていたらしい。

 目の前の少女――メイズは悪態をつく。


「くふふふふふっ。はぁーあ、なんで全部全部上手くいかないのかなぁ。ざこざこのくせに、メイズちゃんの可愛い可愛い下僕(どれー)ちゃんたちを軒並み倒しちゃうなんて、キモキモなんですけど〜。くふふふっ」


 ちなみに彼女は『サキュバス』なんて称号を持ってはいるが、種族は淫魔族(サキュバス)ではなくただの悪魔族(デーモン)だ。


下僕(どれい)って言うと……?」


 多分、王都からここブーゲンビリアまでの道中に襲ってきた数体の魔族のことだと思う。かなり強く、国立の武装勢力でないと対処できないレベルだった。クロエとティナがあっという間に倒してくれたから良かったものの、僕だけだったら何が起こっていたか、想像もしたくない。

 そんな魔族は、悪魔だった。そしてその頂点――まさに、僕たちにその悪魔たちをけしかけた張本人、即ち犯人が堂々と座っていたのだった。


「メイズちゃんの配下ちゃんたちのこと〜。戦ったでしょ、あのキモいやつらと。正直ざこざこ過ぎて笑っちゃったよね、なんでよわーいんだろうね」

「クロエが倒したけど」

「はぁ? クロエちゃん、まじ?」


 素っ頓狂な声をあげるメイズ。フラストレーションが溜まっているのか、やけに乱暴にクッキーを齧る。


「メイズちゃん、このひと、わるくない――」

「はぁ? ざこざこ敗北者さんは黙っててもらっていいですかぁ? 殺しに行くって息巻いてぇ、ドリュアスちゃんの負けちゃった後のナイフ持ってぇ、それでこいつの下についたんだよねぇ? ざぁーこざぁーこ!」


 ここぞとばかりにフィスを煽るメイズだが、僕が沈黙しているままにずっと視線を向けてくるのを察したのか、急におとなしくなる。


「てゆーかー、こんなオチビ誑かしちゃうとかどんな変態さんなんですかぁー? そりゃ、子供に負けるわけないもんねぇー。たかだかそいつを堕としたくらいでこのメイズちゃんも籠絡しようとするなんて、変態だねぇー。ざこざこメスロリコンさぁーん?」


 クロエが殺気立っている。メイズの背後で、何時でも彼女を殺せるような鋭い視線を浴びせかけている。そんなことはつゆ知らず、嗜虐的な笑みを浮かべながらメイズはクッキーを貪るばかり。きっと、僕の後ろでもティナが殺気立っていることだろう。


「……言いたいことはそれだけ? 残念だけど、これ以上許してあげる余裕はないんだよね」

「別にぃー、許してもらわなくてもメイズちゃんはつよつよなので問題ないっていうかぁ、寧ろ許されるために来てない――ヒィッ!?」


 メイズの視線が僕の背後に向いた途端、彼女は一気に顔を青ざめさせて口をつぐんだ。先ほどまでの高飛車な態度は何処へやら、一点他人の家に来た猫のように萎れる。


「い、いやその、別に悪気はなくって、ハル、様を貶そうとしてるわけじゃ……。ははっ、ね」


 様付けするほどの、この態度の変わりよう。冷や汗を流し、愛想笑いまで。一体僕の後ろにいるティナが何をしたのだろうか。クロエも大概ではあれど、二人の殺気が強すぎて僕すらも萎縮してしまいそうになる。これがメイズに向けられたものだと知っていても。


「様まではつけなくていいけど……。で、なんで君自ら僕のところに来たの?」

「え、ええと、実はメイズちゃんは……」


 そして、怯えながらにも事の顛末を全て話してくれた。


 曰く、彼女も彼女で僕のもとへと助けを求めに来たらしい。クロエとティナが彼女の配下たちを完膚なきまでに叩き潰してしまったため、計画は失敗に終わった。結果、クロエを始末するという目的が達成出来ず、それを報告すれば魔王ミッドナイトに殺害されてしまう。


 話によれば、妖魔八衆もクロエが逃走してからなんと五人が魔王自らの手によって殺害されたらしい。残ったのはフィスとメイズだが、フィスは自ら僕とクロエを始末しに行くという判断を。メイズは、一番強い配下に襲撃させて自分も待機することで確実に抹殺を行うという判断を下したのだった。


 だが全て失敗に終わり、さらにフィスが僕に敗北したことでメイズは危機感を覚え、魔王に報告する前に寝返ろうとここに来たのだという。

 確かに僕は寛容で、別に襲われたことにもクロエを始末しようということに対しても、仕方ない理由があるから許している。メイズも殺されかけているから、十分助ける理由にはなる。


 となると、最大の原因にして全ての元凶が浮き彫りになってくるのだ。


「――僕らは、魔王を倒せばいい。そういうことになるね」


 クロエが脱走を企てたのも、そもそも勇者という存在が必要になったのも、フィスが暗殺をせざるを得なくなったのも、メイズが投降してきたのも、全部全部魔王ミッドナイトのせいだ。

 まあ、お陰でクロエやティナたちと出会うことが出来たものの。降りかかる悪は全て、魔王のもとに結集しているとしか考えられない。


「――決めた」


 僕は勇者として、魔王を倒しに行く。

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