003 進展
……終わった。絶対終わった気がする。
……いや、案外終わってないかも? 金髪と茶髪の二人は怖いけど、青髪の人はまだ優しそう。
というか、向こうから見たら僕って謎の少女なんだよなぁ。ボロボロの服着た、薄汚い少女。戸惑うだろうなぁ。
「あー……生きてるか?」
手前の金髪の人が話しかけてきた。何とか応えようと口を開く。
「ゲホッゲホッ、ゴホッ……」
「む、無理すんな。落ち着け」
上手く言葉が出ず、強く咳き込んでしまう。
金髪の人は見た目に似合わず物腰は柔らかで、咳込みうずくまる僕に優しく接してくれる。
「……なんだよ一体」
「森の奥に一人、しかもこんな格好で……」
「わからん。事情を聞いてみるしか無いだろ」
肺の痛みが引く。喉の違和感は収まり、あー、あーと声を出してみても大丈夫そうなので、ゆっくりでも良いから話し始めることにした。
「え、っと、お兄さんたち、誰ですか?」
久しぶりに声を出したからか、何処か拙い感じになってしまう。
「俺たちは近くの村に住んでる狩人だ」
「ついさっきまで狩りをしてたんだけど、そうしたら君と出会ってね。君は誰だい?」
「僕は、ハル」
「ハル、か。見たところ迷子――というか捨てられた感じか。帰る場所はあるのか?」
「……わからない。気が付いたら、ここにいたから」
「そうか……」
帰る場所はない。どころか、ここが一体何処なのかもわからないし、状況もまだ頭が追いつけてないのが現状。このまま森にいたら、色々と命の危険もあるだろうし。
「あ、ならさ、俺たちの村に来ないか? どうせ口減らしで捨てられたんだろうし、俺たちの村なら十分な食料も寝床もある」
「村長も優しい方だから、きっと大丈夫だ」
「……どうする? このまま森にいたら、お前は魔物に殺られるか、寒暖差で死んでしまう。何処にも居場所が無いのなら、俺たちと一緒に来い。村で養うことはできる」
……想像以上の展開だ。これほどまでに、ありがたい申し出は金輪際無いと思う。
自身の身を守るため。そして彼らの厚意を無下にしないためにも、得しか無いこの提案に僕は迷わず頷いた。
――そして、彼ら三人と共に森を歩いた。
金髪の人はゼノン、茶髪の人はテッド、青髪の人はヒューズというらしい。それぞれ戦士、盗賊、剣士と、地元の冒険者組合という組織に加入し、狩りや討伐業務等を行っているそうだ。
そしてこの地域一帯は、動物や資源が豊富なので村八分にするほど生活は困窮してないんだそう。だから、僕を受け入れられるらしいのだ。
「着いたぞ」
わあ……と、思わず感嘆符が漏れ出ていた。
別にそんな感心する程のものでもない気もしたけど……何故か、凄いと感じてしまう。
二方を山に囲まれ、一方には長く続く石垣の塀、残る一方には塀と立派な木の門。
中に入れば、楽しそうに駆け回る子供たち。会話をしたり、仕事に励んだり、忙しいながらも楽しそうな大人たち。
村と言うより、街のようだった。勿論街道は普通の地面だし、特別広いわけでもない。ただ、家の作りは西洋風で、レンガや石材等が使われていた。質素と表現するには多少文明もあり、逆に栄えたと言うのは簡素すぎる。発展途上、という言い方が正しいのかな。
「おお、ライア達。もう狩りから戻ってきたのかの?」
「村長!」
村の奥から歩いてきたのは、腰が海老のように曲がった白髪のおじいちゃん。村長だ。
「おや、その子は……」
「あ、村長、紹介しますよ。この子はハル。どうやら別の村から口減らしに捨てられたようで、狩りの途中で見つけたんです」
「ハルです。よろしく、お願いします」
「ほおほお、なかなか素直な良い子じゃの。ライア、よくぞ連れてきてくれた。お前さんたちは、女たちに狩りの資材を渡してやってくれ。この子は儂が預かろう。さあハルよ、こっちについて来るんじゃ」
「は、はい」
村を一直線に縦断する大通りを歩く。脇に並ぶ家の人々が、珍しいものを見るかのように僕のほうを見て何かヒソヒソと話していた。
それも当然か。何せ村の外の人間。素直に受け入れられるわけがない。
着いたのは、一際大きな漆喰造りの家。それが村長の家であると、一目で理解できる。はたまた、惣を行うための役所か何かか。
村長はその観音開きの扉の奥へと入っていった。その後をついて行き、和室のような雰囲気の部屋へと案内された。
「……さて、話をしようか」
座布団にちょこんと座る村長。その正面の座布団に、僕も座った。
「お主の名は、ハルでよかったかの」
「はい」
「ではハル。お主に、幾つか問いたいことがある。お主は一体何処から来たのか。そして、この村に住むあたりお主に何が出来るのか。最後に、お主の最後に目指す目的じゃ」
神妙な面持ちに、年寄りながらの貫禄。それらが合わさり、得体のしれない緊張感がのしかかってくる。
「こんな事にも意味があるのじゃよ。無償で村に住ませてやるほど、儂らに余裕はない。まずは、お主が役に立つということを証明してからじゃ」




