038 発覚
フィス=ヴァイ=リュステリア。魔王軍幹部、《地龍の魔物》として、僕の暗殺をしようとしたらしい。
「なんで僕を殺そうとしたの?」
「……それは」
宿の僕が泊まる部屋で、机を挟んで僕とフィスは向き合っていた。彼女はやはり子供故か甘いものが好きなようで、クッキーを出したら喜んで食べてくれている。
ただ、核心的な事を問おうとすると口ごもってしまう。
「教えて。最近おかしいと思ってたんだ。クロエを殺そうとした人形たちに、王都の大会で暴れたティナ。この街に来る道中だって、人とそっくりな悪魔が何体も何体も襲撃を仕掛けてきた。クロエがいなければ、今ごろどうなってたことか。答えて、フィス」
明らかに何かがおかしいと、常々思っていた。が、今回のフィスの騒動でやっと根本へと踏み込める。逃がしてたまるかと、僕は矢継ぎ早にまくし立てた。
「……」
「黙ってばっかりじゃ、きっと君も救われないでしょ? ここにはクロエもいる。彼女がいるんだから、安心して話して」
最初、クロエは人形の魔物たちに襲われた原因を「支配領域を荒らした」と言っていた。理由として聞いてみれば当然のことだったが、フィスとの関係性、聖騎士が目の敵にする理由、剣聖がクロエのことを「魔王」と呼ぶ所以。
少し考えてみれば、いつでも気づけたはずだ。ピースは幾らでも隠してあった。それを組み立てることができなかったのは、僕だ。
「……まおうに、まおうミッドナイトに、いわれたの。クロエをころせ、って」
やっぱりそうだ。これで、僕の脳内で存在を主張し始めたある一つの仮説は立証された。
「クロエおねぇちゃんはなにもわるくないの。でも、あのひとがきらいだからって、できなかったらころすって、すごくこわくて……」
クロエは魔王軍幹部。それは、剣聖から聞かされて知っていた。内心驚きはしたけれど、それまでに起こった出来事を繋ぎ合わせれば全て理屈がついた。
でも、今回ばかりは違う。
「クロエ、魔王から命を狙われているってのは、間違いないよね」
「うん」
「クロエが魔王軍幹部の妖魔八衆、《黒猫の魔物》ってことも間違いないね」
「……うん」
「クロエ・リーズヴェイルは本名。その二つ名も、本当のもので間違いないよね」
「うん」
「他の幹部は知らないからわからないけど、筆頭ってのはその強さだから嘘偽りはないよね」
「うん」
……頭痛の種が増えた。
よもや、こんな恐ろしい事実が今になって判明しようだなんて。
もしこの仮説が真実であるならば、話が変わってくる。大会で出会ったコルヌとリゼも関係してくるような、もしかしたら重大なことになってしまうのかもしれない。
「ゆるして、ゆるしてください」
ぽろぽろと涙を流すフィス。その切実な懇願は、何処か必死さも相まって事態がただ事ではないと教えてくれる。曰く脅されたようだけど、「殺す」という言葉がどれだけ説得力と威圧感を持っていたか、フィスが凶行に走る理由には十分だったのか、その言葉だけで理解できる。
「クロエおねぇちゃんはなにもわるくないの。わたしがわるいの。わるいのは、わたし。でも、ゆるしてほしい。ごめんなさい、あやまるからゆるしてください……」
普通の人なら、殺されかけて何度も何度も身体を斬られて、茨で苦痛を味わって、相手がたとえ子供の姿で涙を流し赦しを懇願していたとしても、絶対に赦すことはないだろう。
「……赦してあげる。フィスは何も悪くないよ、僕だったから大丈夫。クロエも、最初は僕に危害を加えてきたんだよね。でも今は仲良し。きっと、僕は君とも仲良くなれるはずだよ」
「あり、がとう……。うれしい」
フィスの瞳からは、涙は止め処なく流れ続けている。それが嬉し涙だと、僕としても嬉しい。
「ただいまー」
突然部屋の扉が開いて入ってきたのは、ティナ。だがそれだけではなく、何やら不思議な手土産を持ってきていたようだった。
引き摺られ、まるでネコみたいに首の後ろを掴まれて連れてこられた様子の少女。
「誰?」
「外にいたから連れて来た。なんでも、ハルちゃんに会いたいんだって」
「僕に?」
僕は立ち上がって、少女のもとへ向かった。どうやら不貞腐れたように眉間にしわを寄せている彼女。黒とマゼンタの髪に、へそや肩や脚等若干露出の多い黒系の服。結構チャラいアクセサリーも身につけていて、蔑むような視線を浴びせてくる。
「くふ、くふふふふふふっ。あんたがハルってやつ? 拍子抜けにもほどがあるね。こんなざこざこみたいなほっそーい身体で、一体何かできるっていうの? ざーこざぁーこ!」
……なんなんだろう。嗜虐的で何処か面白がって罵ってるような感じもするけど、ただひたすらに腹が立つ。初対面でこれって、一体なんなんだろうこの少女は。
「誰なの、君」
「くふふふっ、そんなこともわかんないよわよわ〜な脳みそに、教えてあげよーかなぁ? 私は妖魔八衆の《情欲の悪魔》、メイズちゃんでーす!」
……頭痛の種がさらに一つ増えた。




