036 美貌
白く曇る視界。僕の肌に触れる、暖かい液体。身体を芯から温めてくれるそれは、お風呂だ。
立ち込める湯気の中に立つ僕の隣には、人間形態のティナがいた。一糸纏わぬその裸体、目のやり場に困ってしまう。
「ハルちゃんと二人っきりでお風呂……。うん、こんなのもいいね」
なんか一人で納得しているティナは置いておいて……。
僕はタオルを折り畳んで頭に乗せて、お湯に足を踏み入れる。チャポンっと水音がして、一瞬の熱さの後にじわじわと染み渡る別の熱さ。水面には同心円状の波が立ち、僕の身体が水中に入っていく度に熱さが感じられる。
まずは右足。そして左足。腰を下ろして、上半身もゆっくりとお湯に浸ける。
ふぅ〜……。と息を吐きながら、肩まで浸かった。身体の奥の凝り固まった部分をほぐして楽にしてくれるような感じがする。
「じゃっぱーんっ!!」
……?
突如として舞う水飛沫。凄まじい水音と共に、僕の顔面に大量のお湯がかかる。
何があったのかと驚きながら辺りを見渡しても、何もない。
「ひゃっ!?」
突然、僕の足が触られるような感覚がした。蛇のように細長くニョロニョロとしたそれは、お湯の中でも透明なのか姿が見えない。指先から脚へと絡みついて、太もも辺りへと伸びてくる。
く、くすぐったい……!
どうにもならないこそばゆさを紛らわすために、我慢するために身体を捻ってみたりよじってみたりもする。でも巻き付いてくるそれは、遂に腰に巻き付いて上半身まで登ってきてしまった。
「アハハハハッ、ハルちゃん可愛いっ。ティナの身体で反応してくれるんだね」
水面から顔を出したのは、ティナ。その美しい煌びやかな橙色の長髪を全て水に沈め、びちょびちょで笑っていた。
考えてみれば彼女はスライムだ。液体――水に溶けることも可能だろう。
「もう……。くすぐったかったじゃん」
「えへへっ。ハルちゃんの身体って華奢で細いけど、お肉は意外にあるんだね。すべすべでツルツルで、ぷにぷにもあって感触は楽しかったよ」
「僕で感触を試さないで。ほら、悪ふざけはおしまい。さっきお湯に飛び込んだでしょ? あれ、マナー違反だから駄目だよ。今度からは気をつけてね」
「……はぃ」
どうやら飛び込んだのは間違いないらしい。「じゃっぱーんっ」と大声で叫んだのも彼女だろうし、水に飛び込んで激し過ぎる水飛沫を立てたのも彼女。
一応忠告はしておいた。何故か僕には従順な彼女なら、きっと金輪際マナー違反をすることはないだろう。そう信じておくことにする。
「ハルちゃん、しっかりと女の子なんだねぇ」
「……?」
完全な人間形態に戻った彼女は、僕の隣に座ってふとそんな事を呟いた。
十数秒後、僕の脳は高熱を発する。
「……!?」
「ふふふっ、ティナが好きなのは、ハルちゃんだけだよ?」
そんな意地悪で思わせぶりな言葉が、全てを教えてくれた。
「ちょっ、あっ、えっ、さっきの……。何どさくさに紛れてそんなとこまで触ってるの!」
「えへへっ。ティナがハルちゃんを愛してるからだよ。愛し合ってるなら、別にこーゆーこともいいでしょ?」
よくないよくない。
僕がふと覚えたのは、股間辺りにあるむず痒さだった。温泉のせいで脳が働いてないのか、いつの間にか僕は快楽というものを感じてしまっていた。
「……えっち」
今まで自分の体というものを考えたことがなかった。確かにTS転生して女子の身体にはなったものの、前世でそういうこととは無縁だったせいか特に性的な目で捉えたりとかはしていない。ましてや、自分だけではなく周りにどう見られているかも、殆ど考えたことがなかった。
「大丈夫だよ、悩まなくても。ハルちゃんの純潔は、必ずティナが守ってみせるから!」
「そこ堂々と宣言されても……」
今までが幸運だっただけだ。自分の身に何時何が起こるか、色々な意味でも全く未知数なのだから。現にティナに襲われかけたし。
「というか、ティナ一回僕を吸収してるでしょ? その時はなんだったの」
「あれは、ハルちゃんが死なないようにするため。幾ら無限の再生能力を持ってたからって、首を飛ばされたらおしまいだから。ティナのスライムの身体だったら、幾ら斬られてもすぐ元通りだもん」
と、言う訳らしい。あの後ちゃんと戻ったから良かったものの。
「ハルちゃんの身体、なかなか美味しかったよ?」
「語弊のある言い方しないでよ」
「んー、じゃあすべすべで細くて綺麗だったって言えばいい?」
「それでいい」
まあ、僕の身体が綺麗であることは変わらないと思う。実際わけわからないほどにすべすべだし。
……ん? 吸収された後再構築されてるから……。
「もしかして、ティナって僕の身体の隅々を知ってたりする……?」
「うん。一回吸収したから、ハルちゃんの気持ちいいところもティナ全部知ってるよ?」
こ、怖い……。全部把握されてるのがこんなに怖いなんて……。
「わー!」
「きゃー!」
液状化ティナにくすぐられながら、僕はお風呂を楽しんだのだった。




