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029 覚悟

 ――翌日。

 空気を揺るがすほどにけたたましい歓声が満ちる闘技場。コロシアムのような雰囲気のそこで、今駆け引きが行われようとしていた。

 決勝戦、《剣聖》ロンド対《無名の新星》ハル。それぞれチームは二人出場が可能であるというルールを聞いて、若干の安全と計り知れない緊張を抱えながら僕はフィールドへと足を踏み入れた。


「興奮冷めやらぬ大激闘の連続も、これで締め括りとなります。決勝戦、ここまで難なく勝ち上がってきた《剣聖》ロンド選手率いる第一チームと、まさかの初出場、更に人数二人で挑んでここまで勝ち上がってきた実力派、《無名の新星》ハル率いる第十二チーム。今回、彼女たちはどのような決戦を見せてくれるのか」

「注目はやはり、クロエ選手対ロンド選手の一騎討ちでしょうね。クロエ選手は視界不良の中での不意打ちという形でロンド選手に負けていますが、両者ともスピードとパワーを持ち味にしていますから、最後まで決着は分かりませんね」


 正面に佇むのは、剣聖ただ一人。二人出場可能なのに一人で来る辺り、よほど自分の力に自信があるようだった。まあ、自他ともに認める最強、というわけである。

 対してこちらのチームは、万全のクロエと僕。二対一という数的有利の状況に立ってはいるけれど、あの剣聖なのだから一度に五人くらい相手してもきっと余裕で勝ててしまうだろう。


「……ハル、気を付けて。奴はハルの想像の二十倍は強い。普段は本気を出していないから、わかる」

「あれで本気出してないの……?」


 本気を出さずしてあの強さなら、きっと人間ではない。人間だとしてもそれこそフィクションか何かの次元だ。


「会場に響く大歓声、両者向かい合いました。それではこれより、決勝戦開始です!」


 そんな実況のアナウンスとともに、ゴングが鳴り響いた。

 クロエは何時でも動けるように前傾姿勢で警戒心を剥き出しにしている。僕は僕で襲われないという確証はないため、勿論最低限の自衛はする必要があった。

 対して一人佇む剣聖は、驚いたことに剣を振るうのではなく口を開いた。


「《夜は黒き始期の幻影》、クロエ・リーズヴェイル。だったか……。あえてここで訊こう。貴様は何故その小娘に付き従い、何故人類も魔物も全てを手放して戦おうとするのか」


 冷たい口調。殺意のこもった目線。刺々しいその覇気。全て、まるでクロエを本気で恨んでいるような感覚だった。


「ハルは私が愛する人。だから、私はハルを守る」

「……どうやら手加減の必要はないようだ」


 そして次の瞬間、瞬きの直後には火花が散っていた。クロエの爪と、急接近してきたロンドの聖剣の刃がかち合い派手な金属音が轟く。


 ――その瞬間から、激闘が幕を開けたのだった。

 クロエが放つ強烈な拳と破壊力抜群の蹴りは全てロンドの剣であしらわれる。

 逆にロンドの剣も、クロエが受け止めてダメージを相殺していた。

 あちこちで目に映る残像と、火花と。あまりにも速すぎるせいか、僕の目で捉える事はままならなかった。だが、何かあった時のために遠くから回復は掛け続けている。

 移動したと思われる場所に血が飛び散っているものの、それでもクロエの動きが鈍らないのは恐らくこのお陰だ。


「なかなかやるな。私の剣技について来られるとは」

「調子に乗らないで」


 時々そんな言葉の応酬も交わしながらも、超人同士の音速を超えた戦いは続く。


「いい加減諦めろ、魔王。貴様はこの場にいるべきではない。ましてや、人間のもとにつくなど」

「五月蝿い。お前には関係ない」


 若干クロエの機嫌が悪そうなのは、会話からも理解が出来る。クロエが魔王と呼ばれているのは気になるものの、依然として目の前では激しい戦いが続いている。鮮血が飛び散るが、クロエの傷は瞬く間に回復していく。


「煩わしい。霊子の蓄積も効かないとは、やはり貴様は厄介だ」

「私にそんなのが効くわけない。それしか取り柄のない剣聖は黙ってて」

「ほう、回復は全てあの仲間に頼っているというのにか?」

「――ッ!」


 ……クロエの脇腹を、聖剣が切り裂いた。宙に舞い散る紅い血液と、痛みに崩れ落ちるクロエ。回復させてあげることは、惜しくも叶わなかった。


 首筋にヒヤリとした感覚。冷たく鋭いものが寸分の狂いもなく、後数ミリでも動こうものなら僕の頸動脈を切り裂こうと待ち構えていた。

 それが何か、今どういう状況なのか、僕には解っていた。


「さあ、貴様はどうする。貴様の心酔する主を人質に取られ、自身は瀕死の重傷。貴様の本気を見せてみろ」


 僕は牽制に人質に取られていた。聖剣を首筋に当てられ、目の前のクロエをただ見ているしか出来ない。

 視線の先の彼女は、悔しげに僕の背後にいる剣聖を睨み唇を強く噛んだ。


「この卑怯者……!」

「魔物相手だ、卑怯者でも構わない」


 まさに絶体絶命。クロエも僕も動けない。このまま終わってしまうのだろうか……。


 ……その時だった。


 視界一面を橙色の何かが覆い尽くし、僕はヒヤリとした何かに包まれた。

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