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028 告白

「あ、あなたは……」

「私はリゼ・サンデルシアと申します。以後、お見知り置きを」


 三つ編みにした青髪に、透き通るような空色の瞳。オーバーサイズのパーカーに、ロングスカート。仏のような笑みに優しい眼差し、丁寧な口調。


「リゼ、ってもしかして……」

「ええ、その通りです。私はコルヌ・ハーヴの仲間、《淡く激しい曙の清流》リゼです」


 三回戦、第三フェーズで惜しくもシャルド相手に脱落してしまった、コルヌのチームメイト。水を操る攻撃を得意としており、その姿や華麗で思わず見入ってしまったほどだ。


「ご安心ください、クロエは無事です。止血も治療も済んでいるので、後は安静にするだけですよ」


 僕は部屋の中へと入り、リゼの正面に置いてあった椅子に座った。僕の隣には、穏やかに眠るクロエが。


「クロエの治療、間に合ったみたいでよかったです」

「僭越ながら、私が治療を行わせていただきました」

「……どうやったんですか? クロエにはポーションが効かないから、このままじゃ駄目だって思って急いで来たんですけど」

「フフフッ。私は人間ではなく、水の上位精霊です。なので、回復系の技は得意なんですよ」


 曰く、クロエは魔力を介在する回復が効かないのだという。精霊は自然に近いので、魔力を使用しない法術を操る。僕のスキルもそれに近くクロエに効果があるが、ポーションは魔力を媒体とするので効かないのだそうだ。

 その特異体質のせいで、クロエには魔法が効きにくい。それはポーションも同様だ。


「……クロエとは、どういう関係なんですか? コルヌさんも、彼女と知り合いのような反応をしてましたけど」

「彼女とは……。旧友です。クロエ、コルヌ、そして私。昔からの友人で、ここでの再会も奇跡のようなものだと思ってます」


 旧友。クロエの素性も不透明な今、コルヌもリゼも旧友とは名乗っているが、どの程度の昔なのかは分からない。


「クロエはどうですか、最近は。彼女は長年他人を信じることが出来ず、ずっと孤独にいました。貴女と共にいるということは、少なくとも彼女にとって貴女は心の支えになっている、ということですから」

「クロエは、なんというか……」


 僕は、正直に話すことにした。コルヌと聞いた話と一致している。彼女もクロエを心配しての行動だったし、きっとこの人も。

 なんて、すぐに信頼してしまったらまた痛い目に遭うんだろうけれど。


「猫らしく、甘えてくるんです。最初出会った頃は噛み付いてくる程に警戒してたんですけど、人形に襲われていたところを助けると一気に大人しくなって、今では事あるごとに撫で撫でを求めてきます。……まあ、可愛いので別に苦じゃないですけど」


 僕は手を伸ばして、隣で眠っているクロエの額に手を当てた。寝顔はとても穏やかで、愛おしくなる。


「僕が超克スキルを持っていると分かって、この武闘会に出てからも。ずっと僕について来てくれて、こんなにボロボロになるまで戦ってくれて。少し喧嘩腰で、気まぐれなところもありますけど……。僕は、クロエが大好きです。ぴょこぴょこと動く耳も、甘えてるときの反応も、あの笑顔も。全部全部、僕は好きです」


 何故か、涙が出てきてしまう。変だな。クロエは死んでないし、悲しいこともなかったはずなのに。

 涙で滲む視界の中で、リゼはただただ優しく、笑っていた。


「だそうですよ、クロエ」


 ……ん?

 その言葉に僕が戸惑う中で、右側の視界に何かが映り込んだ。


「……ありがと」


 いつの間にか起き上がっていたクロエが、顔を僕の顔に近づけて抱きついてきた。吐息の温かい感触。彼女の体温が直に伝わってくる。


「ク、クロエ、起きてたんだ……。あ、今の話何処から聞いてた!?」

「あなたはのところから」

「めちゃくちゃ最初じゃん!」


 は、恥ずかしい……! 実質愛の告白みたいなやつも、全部聞かれてたなんて……!


「クロエ、今言ったこと全部忘れてくれないかな……?」

「やだ」


 肩付近に柔らかい感触。そして長い黒髪が僕の肌をくすぐってくる。心臓の鼓動も、呼吸の音も、全部はっきりと聞こえる。密着してくるクロエのせいで、僕の体温が急上昇していく感覚。


「ハルのこと、私も好き。大好き。優しいところも、甘やかしてくれるところも、可愛いところも。全部、好き」


 ……耳元でそんな事を言われたら、恥ずかしさのあまり昇天してしまいそうになる。頬が熱くなるのを感じる。心臓も速く脈を打ち、思考回路がオーバーヒートする。


「……あったかい。ハルの身体、あったかくて好き」


 目の前でリゼはただ微笑むだけだった。そりゃ、はたから見れば微笑ましい光景だ。だが当事者である僕の脳内は恥ずかしさのあまり真っ白に塗り潰されて、穴があったら埋まりたい程だ。そろそろ湯気が出始めてもおかしくない。


「そ、そんなに好き好き言われると……」

「好き。好き。だーいすき」


 耳元で囁かれる感覚が、見事に僕の理性を打ち砕いた。

 その後何があったかは、よく覚えていない。

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