027 佳境
「人形に、追いかけられていた……?」
驚愕したかのように目を見開くコルヌ。
「そうです。地平線が見えなくなるほど多い人形の大群に追われてて、瀕死だったんです」
「回復はどうした? 彼女に通常の回復薬は効かない。まさか辺境の村に高級なポーションがあるわけではなかろうな」
「……『無限再生』が僕のスキルなんです」
手の内を明かさなければいけないほど追い詰められた、この状況。早くこの危機を脱しなければ、頭と胴が分断されてしまう。
「超克スキル……」
コルヌは微動だにしなくなった。その真っ黒な瞳は真っ直ぐに僕の目を見つめていて、先程まで存在していた殺意等は消えていたが、その表情は何処か恐怖を感じるものだった。
「……フフッ、フハハハハッ! 成る程、そう言う訳だったか」
馬乗りになっていたコルヌは身軽な動きで立ち上がり、僕に手を差し伸べてくる。だが、今度はそれを素直に取ることは出来なかった。
「手荒な事をして申し訳ない。非礼は詫びよう。何、あのクロエが人間のもとにつくのが信じられなかっただけだ」
……解せぬ。それだけの理由で僕は殺されかけたの?
「君は知らないだろう。クロエは全てを嫌っていた。人間も、世界も、自分も。それが暫く会わないうちにあんなになって、あまりの変化に動揺してしまったんだ。もしや何か悪しき事でも受けたのではと考えて本気で殺そうと思ったのだが、返答を見る限りは問題無いと判断した。故に、私は君を信用するよ」
渋々、僕は彼女の手を取り立ち上がった。クロエの事情は如何にしろ、コルヌを信用出来ないというのが正直な感想だ。何せ殺されかけたのだから。
「で、僕を味方につけてどうするつもりなんですか」
「無論、シャルドとロンドを倒しに行く。二チームしか勝利できないのならば、私たちで手を組んで倒すのが最善と言えるだろう」
勝てる気はしない。冷たいことを言うが、コルヌがどちらかを倒したところでサポートを止めれば彼女が脱落し、それで終わりだ。
「……わかりました。サポートとして協力します」
――と、そんな時だった。僕が折れて協力を受け入れ、コルヌの顔が若干明るくなった時。
ドゴォォォォンッ!!!
と鳴り響く轟音と、吹きすさぶ暴風。それに乗って岩の破片や砂煙、人の身体が飛んでくる。
……? 人の、身体?
その人の身体らしき物体はコルヌを巻き込んですぐそこの岩壁に激突し、瓦礫に埋もれた。ピクリとも動かないその人物、中継で見たことがある。
「シャルド……?」
《幸運の申し子》シャルド。外傷こそ見られないが、どうやら気絶しているようだ。
飛ばされてきたシャルドの身体に跳ね飛ばされ、コルヌも瓦礫の下敷きになってしまう。彼女は流血する頭を押さえながら起き上がり、シャルドが飛ばされてきた方向を鋭く睨んだ。
「コルヌさん、大丈夫ですか?!」
「ロンド、貴様――うっ」
コルヌも気を失ってしまった。がっくりと項垂れたように、動かなくなる。
視線の遥か先にいたのは、水色の長髪の女性。一直線に岩壁が破壊され、遥か遠くからシャルドが飛ばされて来たのだと分かる。
そしてそれが可能なほどの、理不尽な力。
彼女――《剣聖》ロンドは、僕の事を鋭く睨むと背を向け去って行った。
その瞳は冷たく、殺意の籠もった――わけではなく。勝者を見るような、対等な眼差し。僕を勝者として認めたのだろうか、はたまた決勝で打ち倒すという警告なのか。
かくして、シャルドとコルヌの同時脱落によって、三回戦は第一チームと第十二チームの勝利に終わったのだった。
「な、なんという力でしょう……! 剣聖ロンド、たった一撃で二人を屠りました! 快進撃を繰り広げていたクロエ選手にも致命傷を与えたその力は、留まるところを知りません!」
「やはりその根源は血筋でしょうね。聖剣もさることながら、歴代最強の評価は伊達ではないでしょう」
「それではこれにて、三回戦は終了です!」
その実況の声とともに、白装束のスタッフたちが、気絶したシャルドとコルヌを運んでいった。
「……クロエ!」
僕は試合が終わるのとほぼ同時に走り出していた。剣聖は許せないが、致命傷を負ったクロエがずっと心配だったのだ。
治療院の場所は知っている。クロエがそこに運ばれたのは間違いない。
無我夢中で走った。せめて、クロエが無事であって欲しい。そう願いながら走り数分。白亜の建物の前へと辿り着き、僕は迷わず中へと入った。
クロエの病室を目指して静かに歩みを進め、遂にその戸の前へと。
「クロエ、大丈夫!?」
戸を開けると、真っ先にベッドで寝ているクロエの姿が目に飛び込んできた。静かに呼吸をしているのか、胸が等速に上下している。
「……あら、あなたは」
ベッドの隣に椅子を置き座っている、青髪を三つ編みにした女性。僕の姿を見て、不思議そうな顔をしていた。
「クロエが話していた、ハル様でございますね」
綺麗な声に、丁寧な口調。おしとやかな態度。
……誰なのだろう、この人は。




